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【テクニカルレポート】Presep® RPPシリーズを用いたネオニコチノイド系農薬の固相抽出法

本記事は、和光純薬時報 Vol.82 No.4(2014年10月号)において、和光純薬工業 試薬化成品研究所 須藤 勇紀が執筆したものです。

分析試料の精製・濃縮などの前処理として用いられる固相抽出法(SPE)は、従来の液 - 液抽出法に比べて簡便かつ、多検体の同時処理が可能などの利点をもち、医薬・食品・環境分析など幅広い分野で採用されています。

Presep®(プレセップ ®)RPP シリーズは、ディスポーザブルタイプの固相抽出用カラムであり、担体として親水性と疎水性を併せ持つジビニルベンゼン - メタクリレート系ベースポリマーを充てんしたカラムです。

このベースポリマーを充てんした逆相モードのPresep® RPP に加え、イオン交換基を修飾したミックスモードとして、強陽イオン交換タイプの Presep® RPPSCX、弱陽イオン交換タイプのPresep® RPP-WCX、強陰イオン交換タイプの Presep® RPP-SAX、弱陰イオン交換タイプの Presep® RPP-WAX を取り揃えており、Presep® RPP シリーズは合計 5 種類となっております。

この度、ネオニコチノイド系農薬を対象にした固相抽出法の検討を行いましたのでご紹介します。

1.ネオニコチノイド系農薬について

ネオニコチノイド系農薬は有機りん系殺虫剤に替わる農薬として 1990 年代から流通し、イネ、果樹、野菜、花など広範囲に使用されています1)。ネオニコチノイド系農薬は蜂群崩壊症候群(CCD)と呼ばれるミツバチ減少の原因の一つと考えられており、国内では関連性について調査中であり制限されておりませんが、EU は使用を一部制限しています2,3)

また、埼玉県内の河川の 90% からクロチアニジン、ジノテフランが検出 4)、原因不明の体調不良の患者の尿中から代謝物が検出されており 5)環境、人体への影響が懸念されています。

2.固相抽出カラムの選択について 6)

固相抽出による前処理方法を検討するにあたりどの固相抽出カラムを選択するかが重要となります。Presep® RPP シリーズの製品仕様を表 1 に示します。本シリーズはベースポリマーが親水性も併せ持つことから水系試料での高い捕集効果が期待できます。

表1. Presep® RPP シリーズの製品仕様
品名 充てん剤 粒子径(µm) 充てん剤量(mg/カラム容量)
Presep® RPP ジビニルベンゼン - メタクリレート系ポリマー 30 190(*1), 60/3 mL, 200/6 mL
60 360(*2), 500/6 mL
Presep® RPP-SAX ジビニルベンゼン - メタクリレート系ポリマー強陰イオン交換基結合 40 60/3 mL
Presep® RPP-WAX ジビニルベンゼン - メタクリレート系ポリマー弱陰イオン交換基結合 60
Presep® RPP-SCX ジビニルベンゼン - メタクリレート系ポリマー強陽イオン交換基結合
Presep® RPP-WCX ジビニルベンゼン - メタクリレート系ポリマー弱陽イオン交換基結合

(* 1,2)は外観が両端閉鎖型カートリッジのカラム [Presep®-C] タイプ。左記以外は一端が開放型のカラム「Presep® シリンジ」タイプ。

今回の評価方法は添加回収試験とし、用いたカラムは全て 60 mg/3 mLとしました。固相抽出カートリッジ選択の添加回収試験の実験フローを図 1 に、LC/MS/MS 条件を表 2 に示します。

図1. 固相抽出カートリッジ選択の添加回収試験の実験フロー
図1. 固相抽出カートリッジ選択の添加回収試験の実験フロー
表2.LC/MS/MS 条件
機器 Prominence LC-20A(島津製作所)
カラム Wakopak® Ultra C18-2 Φ2.1mm × 100mm
移動相A 0.1% ぎ酸・10mmol/L 酢酸アンモニウム水溶液
移動相B 0.1% ぎ酸・10mmol/L 酢酸アンモニウムメタノール溶液
グラジエント条件 0min. (A:B=80:20)→ 2-15min. (15:85)→ 15.1min. (80:20)→ 15.1-25 (80:20)
流量 0.1 mL/min.
カラム温度 40 ℃
注入量 5 μL
機器 3200 QTRAP (AB SCIEX 社)
イオン化 ESI positive
測定モード SRM
Curtain gas 10
Collision gas 3
Ion Spray Voltage 5500
Temperature 600
Ion Source gas 1 70
Ion Source gas 2 80
成分名 分子量 モニターイオン(m/z)
プリカーサー プロダクト
アセタミプリド 222.7 223.0 236.1 73.1
イミダクロプリド 255.7 256.9 210.1 176.1
チアクロプリド 252.7 253.5 126.0 73.1
ニテンピラム 270.7 271.2 126.0 225.2
クロチアニジン 249.7 250.0 132.1 169.1
チアメトキサム 291.7 292.0 211.2 181.2
ジノテフラン 202.2 203.1 129.1 87.1
フロニカミド 229.2 230.1 203.1 148.0
CPF 198.7 199.1 128.1 181.2
CPMF 211.7 212.1 126.2 73.1
6-クロロニコチン酸 157.6 158.1 122.1 78.1
チアクロプリド-アミド 270.7 271.6 125.8 73.1

サンプルはネオニコチノイド系農薬 7種類、同時分析例があるフロニカミド、代謝物 4 種類の全 12 成分を各濃度 50 ng/mLになるように超純水に添加しました。固相抽出カラム選択の添加回収試験の結果を表 3 に示します。今回の結果では Presep® RPP が全 12 成分を良好に回収することができました。

表3.固相抽出カラム選択の添加回収試験の結果
回収率(%) RPP SCX WAX SAX WCX
アセタミプリド 97 100 N.D. 112 N.D. 94 N.D. 98 N.D.
イミダクロプリド 93 103 N.D. 110 N.D. 106 N.D. 99 N.D.
チアクロプリド 94 91 N.D. 104 N.D. 102 N.D. 98 N.D.
ニテンピラム 101 N.D. 104 82 N.D. N.D. 95 100 N.D.
クロチアニジン 104 100 N.D. 108 N.D. 23 N.D. 45 N.D.
チアメトキサム 101 100 N.D. 108 N.D. 23 N.D. 45 N.D.
ジノテフラン 100 58 N.D. 105 N.D. 101 N.D. 98 N.D.
フロニカミド 98 88 N.D. 115 N.D. 52 N.D. 53 N.D.
CPF 99 104 N.D. 114 N.D. 123 N.D. 80 10
CPMF 100 N.D. 104 N.D. N.D. 25 N.D. N.D. 73
6-クロロニコチン酸 96 97 N.D. N.D. 109 N.D. 101 N.D. N.D.
チアクロプリド-アミド 109 N.D. 97 111 N.D. 99 N.D. 99 N.D.

3.サンプル量250 mLでの評価

図2.サンプル量250 mℓでの実験フロー
図2.サンプル量250 mLでの実験フロー

河川水や水道水などの試料では濃度が低く、直接機器に注入しても分析できないことがあります。ネオニコチノイド系農薬も例外ではなく、濃縮作業が必要となる場合が多いように見受けられます。そこで、サンプル量を 250 mLとし、2. で良好な回収率が得られたPresep® RPP の評価を行いました。今回用いたカートリッジは 500 mg/6 mLとしました。サンプル量 250 mLでの実験フローを図 2 に示します。分析条件は表 1 と同様です。

今回の評価では当社のネオニコチノイド系農薬混合標準液(全 10 成分,各濃度 20 μg/mL)、フロニカミド、6- クロロニコチン酸を超純水で 0.2 ng/mLに調製し、サンプルとしました。サンプル量 250 mLでの添加回収試験の結果を表 4 に示します。今回の結果から 250 mL通水では Presep® RPP を用いることで 6- クロロニコチン酸以外の農薬類及び代謝物で良好な回収率を得られることが分かりました。

表4.サンプル量 250 mL での添加回収試験結果
回収率(%) RPP
アセタミプリド(*3) 98
イミダクロプリド(*3) 111
チアクロプリド(*3) 97
ニテンピラム(*3) 118
クロチアニジン(*3) 106
チアメトキサム(*3) 101
ジノテフラン(*3) 99
フロニカミド 105
CPF(*3) 103
CPMF(*3) 110
6-クロロニコチン酸 N.D.
チアクロプリド-アミド(*3) 101

(*3)ネオニコチノイド系農薬混合標準液[コード No. 145-09463]を使用

ネオニコチノイド系農薬やその代謝物に関する一斉分析の方法は確立されておらず、環境被害、健康被害が懸念される一方で報告例はまだ十分にはありません。今回の検討結果が固相抽出法の応用に貢献できれば幸いです。

参考文献

  1. 小林ら:農産物中ネオニコチノイド系農薬の分析,東京都健康安全研究センター研究年報,61,214-220 (2010).
  2. 農林水産省:農薬による蜜蜂の危害を防止するための我が国の取組 (2013).
  3. European Commission : Regulation (EU) No 485/2013 (2013).
  4. 大塚ら:埼玉県における河川水中のネオニコチノイド系殺虫剤の存在実態,環境化学討論会要旨集,23,P-112 (2014).
  5. 平久美子:ネオニコチノイド系殺虫剤のヒトへの影響,日本臨床環境医学,211,24-34(2012).
  6. 須藤ら:ネオニコチノイド系農薬およびその代謝物質の固相抽出,環境化学討論会要旨集,23,P-128 (2014).

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