【テクニカルレポート】Presep® RPP-WCXを用いた水道水中のイミノクタジン、ジクワット及びパラコートの分析
本記事は、和光純薬時報 Vol.83 No.4(2015年10月号)において、和光純薬工業 試薬化成品研究所 須藤 勇紀が執筆したものです。
分析試料の精製・濃縮などの前処理として用いられる固相抽出法(SPE)は、従来の液-液抽出法に比べて簡便かつ、多検体の同時処理が可能などの利点をもち、医薬・食品・環境分析など幅広い分野で採用されています。
Presep® (プレセップ®) RPPシリーズは、ディスポーザブルタイプの固相抽出用カラムであり、担体として親水性と疎水性を併せ持つジビニルベンゼン-メタクリレート系ベースポリマーを充てんしたカラムです。
今回、検討に用いたPresep® RPP-WCXは先のベースポリマーにイオン交換基を修飾したミックスモードであり、逆相及び弱陽イオン交換能を有しております。
この度、水道水中のイミノクタジン、ジクワット及びパラコートを対象とした固相抽出法の検水への添加剤と回収率に与える影響について検討したのでご紹介します。
1.イミノクタジン、ジクワット及びパラコートについて
イミノクタジンはグアニジン系殺菌剤であり、水稲、麦、果樹、野菜、花木、芝などに使用されています。ジクワット及びパラコートはビピリジニウム系除草剤であり、パラコートの強い毒性を軽減する目的でジクワットとの混合製剤が使用されています。適用作物は稲、麦、雑穀、果樹、野菜、いも、豆、飼料作物、花卉、樹木などがあります。
これら3種類の農薬は、平成27年3月25日に水質管理目標設定項目の検査方法が改正され、別添4 水質管理目標設定項目の検査方法の別添方法21に「固相抽出LC/MS/MSを用いたイミノクタジン、ジクワット及びパラコートの一斉分析法」として収載されました1)。
2.実験方法について
ジクワットはアルカリ性条件下で不安定で、酸性から中性での固相抽出が望ましいと言われています2)。別添方法21でも検水には脱塩素剤の添加のみであり、酸・塩基を加えるなどの操作は含まれておりません。また、別添方法21に固相カラムとして記載されている「カルボキシル基を導入したジビニルベンゼン-n-ビニルピロリドン共重合体又はこれと同等以上の性能を有するもの」に当社ではPresep® RPP-WCXが該当します。
本検討では超純水及び当社実験室内の水道水を検水としました。この時、水道水のTOCは約 0.6 mg/l でした。超純水は無添加、約 20 mg/l のチオ硫酸ナトリウム、10 mmol/l の酢酸アンモニウム水溶液となるように調製した3条件で添加回収試験を行いました。
水道水はアスコルビン酸ナトリウムまたはチオ硫酸ナトリウムを約 20 mg/l 、酢酸アンモニウム水溶液またはアンモニア水にてpH 7 付近に調整したりん酸二水素アンモニウム水溶液を 10 mmol/l となるように調製した5条件で添加回収試験を行いました。添加回収試験の実験フローを図1に示します。
この時、別添方法21とは異なり、3成分の濃度は各農薬として1 μg/ml とし、溶出後の濃縮操作は省略しています。LC/MS/MS条件を表1に、3成分のクロマトグラムを図2に示します。この時分析カラムはHILICモード3,4)のWakopak® Wakosil-Ⅱ 5SIL-AQ (5μm, 2.0mm×150mm) を用いました。
表1.LC/MS/MS 条件
機器 | Prominence LC-20A(島津製作所) |
---|---|
カラム | Wakopak® 5SIL-AQ Φ2.0mm x 150 mm |
移動相A | 150 mmol/L ぎ酸アンモニウム水溶液(pH 3.6) |
移動相B | アセトニトリル |
グラジエント条件 | 0 min.(A:B = 30:70)→1 min.(30:70)→4.5 min(50:50)→6 min.(50:50)→7 min.(80:20)→17 min.(80:20)→17.01 min.(30:70)→25 min.(30:70) |
流量 | 0.3 mL/min |
カラム温度 | 40℃ |
注入量 | 10 µL |
機器 | 3200 QTRAP(AB SCIEX社) |
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イオン化 | ESI positive |
測定モード | SRM |
Curtain gas | 10 |
Collision gas | 3 |
Ion Spray Voltage | 5000 |
Temperature | 200 |
Ion Source gas 1 | 80 |
Ion Source gas 2 | 10 |
成分名 | 分子量 | モニターイオン (m/z) | ||
---|---|---|---|---|
プリカーサー | プロダクト | |||
イミノクタジン | 355.6 | 356.4 | 314.6 | 297.4 |
ジクワット | 184.2 | 183.2 | 157.0 | 78.1 |
パラコート | 186.3 | 186.1 | 171.2 | 155.3 |
3.結果
表2.添加回収試験の結果
Run | 対象 | 添加剤 | イミノクタジン | ジクワット | パラコート |
---|---|---|---|---|---|
回収率(%) | |||||
1 | 超純水 | 無添加 | 85.3 | 65.7 | 91.5 |
2 | チオ硫酸ナトリウム | 80.8 | 51.8 | 89.3 | |
3 | 酢酸アンモニウム | 94.5 | 89.6 | 98.7 | |
4 | 水道水 | 無添加 | 34.2 | 89.9 | 80.7 |
5 | アスコルビン酸ナトリウム | 83.0 | 109.2 | 86.8 | |
6 | チオ硫酸ナトリウム | 80.5 | 99.8 | 88.5 | |
7 | 酢酸アンモニウム | 94.5 | 95.7 | 97.0 | |
8 | りん酸二水素アンモニウム | 99.7 | 112.6 | 91.4 |
添加回収試験の結果を表2に示します。超純水においてRun1、Run2ではジクワットの回収率が65.7%、51.8%と水道水を対象としたRun4の89.9%よりも低い結果となりました。これはジクワットが検水中のマトリックスの影響を受けやすいためと考えられます3)。
超純水においてイミノクタジン及びパラコートではいずれの条件でも回収率が80%以上となり良好な結果が得られました。水道水においてRun4ではイミノクタジンの回収率が34.2%となり低くなりました。一方でジクワット及びパラコートは80%以上と良好な結果となりました。
添加剤を加えたRun5において83.0~109.2%、Run6において80.5~99.8%、Run7において94.5~97.0%、Run8において91.4~112.6%といずれも回収率が80%以上と良好な結果が得られました。
本検討結果より、無添加よりも別添方法21に記載されているチオ硫酸ナトリウムだけではなくアスコルビン酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、りん酸二水素アンモニウムも3成分を回収するためには有効であると思われます。
イミノクタジン、ジクワット及びパラコートの一斉分析法においてPresep® RPP-WCX及びWakopak® Wakosil-Ⅱ 5SIL-AQが適用できると考えられますので是非、ご検討下さい。
参考文献
- 厚生労働省健康局水道課:「別添4 水質管理目標設定項目の検査方法」, 健水発第1010001号(2015).
- 巻幡希子ら:分析化学, 56(7), 579 (2007).
- 木下輝昭ら:水環境学会誌, 38(2), 49 (2015).
- Kawamoto, T. et al. : Anal. Sci., 22(4), 489 (2006).
- 須藤勇紀ら:環境化学討論会要旨集, 24, P-105 (2015).