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尿中L-FABPは重症患者の急性透析療法離脱の指標となる

本記事は、シミックホールディングスが編集する「News Letter L-FABP No.21」をもとに掲載しています。

背景・目的

急性腎障害(AKI)は慢性腎臓病や末期腎不全、また長期的な心血管障害の高いリスクと関連する。最近の研究では、腎代替療法(RRT)を必要とするAKI患者にとって、AKIの回復までに要するRRT施行期間の長さは長期死亡率の独立予後因子であり、RRTによる早期かつ持続的な回復が集中治療室(ICU)滞在期間の短縮および良好な予後と関連していることが報告されている。一方で透析からの離脱が遅れると、血行動態の不安定化、凝固障害、血流感染、透析膜の生体不適合反応による炎症または酸化ストレスなどのRRT関連合併症に患者がさらされる可能性が指摘されている。このような背景から、RRTからうまく離脱できる重症患者を予測するための客観的指標が求められている。
尿中バイオマーカーとして、L-FABPやNGAL、KIM-1などの尿細管障害マーカーはAKI発症予測能を有しその有用性が報告されている。しかし、RRTからの離脱を試みても透析依存が続く患者と、RRTからの離脱に成功しうる(透析フリー)患者を区別できる予後予測マーカーはほとんど特定されていない。現在RRTの中止を検討する際に使用されている基準として臨床状態や尿クレアチニンクリアランス、尿量などが挙げられるが、より精度の高い明確な指標を用いたコンセンサスが求められる。そこで本試験では、AKIによりRRTが必要とされた重症患者を対象に、RRT離脱時の尿中バイオマーカー測定値が、離脱後90日間の透析フリー、90日以内での死亡率と再透析のリスクを正確に予測できるかを検証した。

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対象と方法

2016年8月から2019年1月までに国立台湾大学附属病院、長庚記念病院、台中栄民総医院に来院したRRTを必要とするAKI重症患者のうち、過去に腎移植や腎摘出術、RRT治療を受けた患者や外科的に誘発された損傷、血管炎、閉塞、糸球体腎炎、間質性腎炎、溶血性尿毒症症候群、または血栓性血小板減少性紫斑病により引き起こされたAKI患者などを除外した、合計140名を対象とした。
RRT開始の指標としては以下の条件を1つ以上含むこととした[高尿素窒素血症(BUN>80mg/dL); 尿毒症症状(脳症、心膜炎、胸膜炎)を有し血清クレアチニン高値(sCre>2mg/dL); 治療抵抗性高カリウム血症(血清カリウム>5.5mEq/L); 利尿薬不応性の乏尿(尿量<400mL/24h)もしくは無尿; 中心静脈圧が12mmHg以上もしくはPaO2/FiO2が300mmHg未満の肺水腫を伴う利尿薬不応性の体液過剰; 代謝性アシドーシス(動脈血pH<7.2)]。
RRTからの離脱の成功は生存者が90日以上透析不要であることと定義し、また退院後の90日後死亡率を臨床評価項目とした。RRT終了時点の尿を採取し解析まで-80℃で保存した。尿中バイオマーカーとしてL-FABPの他、NGAL、KIM-1、IL-18、HJV、CCL14を測定した。

結果

対象患者140名のうち、ショックによるAKIが107名(76.4%)とその多くを占めた。90日以内の死亡率は約13.6%(19名)となり、約47.9%(67名)が90日以上透析を必要としなかった。残りの約38.6%(54名)は90日以内に再度透析を要した。
尿中バイオマーカーはいずれもeGFRと強く相関し、尿中L-FABP/クレアチニン補正値は尿量とHJVを除く全てのバイオマーカーとの正の相関関係が認められた。
透析離脱時のSOFAスコア、年齢、性別をもとにした臨床リスク予測モデルと各尿中バイオマーカーを組み合わせROC解析したところ、尿中L-FABP/クレアチニン補正値はAUC=0.7908と死亡率に対する最も高い予測能を示した(図1)。さらに多クラス分類のROC解析においても、尿中L-FABP/クレアチニン補正値は高い死亡予測能を有し、また90日間以上の透析フリーを予測しうることが示された。さらにボルケーノプロットを用いて、年齢と性別によって補正された尿中バイオマーカーの透析離脱後の死亡に対するハザード比とp値を表し(図2-A) 、また死亡を競合リスクとし90日間以上の透析フリーに対する尿中バイオマーカーの部分分布ハザード比とp値を表したところ(図2-B)、尿中L-FABP/クレアチニン補正値は最も高い予測能を有することが示された。
一般化加法モデルにより透析離脱時の尿中L-FABP/クレアチニン補正値のカットオフ値は160μg/g Cr(尿中L-FABP/Cr (log): 2.2μg/g Cr)と求められ、カットオフ値以上の患者の死亡率はカットオフ値未満の患者よりも有意に高いことが示された。興味深いことに透析離脱時の尿中L-FABP/クレアチニン補正値が高い患者はカットオフ値未満の患者よりもeGFRが有意に高く、尿中L-FABP/クレアチニン補正値は透析離脱時の腎機能そのものよりも、腎組織損傷が進行する前の尿細管へのストレス重症度を示していると考えられ、透析離脱時に残存する腎障害を反映している可能性がある。
死亡率を競合リスクとしてCox比例ハザード多変量解析を行ったところ、RRT離脱時の尿中L-FABP/クレアチニン補正値が160μg/g Cr未満であった場合に離脱後の再透析リスクが低く(部分分布ハザード比: 0.35、p=0.01)、逆に160μg/g Cr以上であった場合の死亡リスクが高まることが示された(図3)。さらにNRIおよびIDI解析において尿中L-FABP/クレアチニン補正値とSOFAスコアを組み合わせると、RRT離脱時のリスク層別化能が顕著に向上することが示された。

結論

RRTからの離脱の適切なタイミングに関する臨床的決定は複雑で多因子的である。透析の継続を必要とする患者、また死亡リスクのある患者を早期に判断することは適したタイミングでの的を絞った治療介入を可能にする。RRT離脱時の尿中L-FABP/クレアチニン補正値は160μg/g Crをカットオフ値として、SOFAスコアと組合わせて90日以上透析を必要としない患者、また死亡率を高い精度で予測しうることが示された。このことから尿中L-FABP/クレアチニン補正値は、RRTを必要とするAKI患者の層別化において既存の判断基準の予測能を向上させうる有用かつ新たな指標であると考えられる。

出典

  1. Urinary Biomarkers Can Predict Weaning From Acute Dialysis Therapy in Critically Ill Patients. Arch Pathol Lab Med. 2022. Heng-Chih Pan, Thomas Tao-Min Huang, Chun-Te Huang, Chiao-Yin Sun, Yung-Ming Chen, Vin-Cent Wu.

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