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海外のART事情

下記は米国で行われているプロトコルの一例です。培地量など、日本と米国では胚の凍結融解プロトコルが異なる点があることが分かります。

米国の胚凍結プロトコル

準備

操作は、室温 (20〜27ºC) で行います。 ES液およびVS液の平衡化は、可能な限り光に曝されないよう注意し、操作を開始する前に、必要なすべての材料、機器を準備します。

  • Figure 1
  • Figure 2
  1. ES液、VS液を室温 (20〜27℃) にします。
    ※ES液、VS液を繰り返し室温に戻すことは避けます。
     必要量を分注し、分注後すぐにバイアルを冷蔵 (2〜8℃) に戻します。
  2. 液体窒素容器に液体窒素 (LN2) を充填し、顕微鏡の近くに置きます。
    ※4インチ (約10㎝) もしくは凍結デバイスを投入するのに十分な量を充填し、凍結する胚の数を決定します。
  3. シャーレと凍結デバイスに必要な情報をラベル付けします。
  4. 手順を開始する前に、凍結デバイスの向きなどを確認しておきます。
  5. ES液、VS液の各バイアルを静かに転倒混和します。
  6. ES液50 µLのドロップをシャーレに無菌的に分注します (Figure1)。
  7. 培養ディッシュをインキュベーターから取り出し、顕微鏡で胚の状態を確認します。
  8. 最小量の培地を含んだ胚を培養ディッシュからES液のドロップに慎重に移し (2胚まで)、タイマーを開始します。
  9. ES液に6-10分間浸漬し、平衡化させます。
    平衡化している間、Figure 1のとおりVS液50 µLのドロップを無菌的に分注し、凍結デバイスを準備します。
    ※胚は収縮し、その後徐々に元のサイズに戻りますが、これは平衡化が完了したことを示しています。
  10. ES液の平衡化が完了する直前にピペッティングし、ES液を極力吸わないようにして、胚をVS液のドロップの底面に移し、最低30秒間浸漬させます。 胚はVS液の上部に浮いてきますが、 ピペッティングにより胚をVS液ドロップの底面に静かに置きます。
  11. 凍結デバイスに胚をロードして密封します。
    ※米国FDAにおいて、凍結方法はClosed法と定められています。
  12. Figure 2のとおり、液体窒素の中に凍結デバイスを入れてガラス化します。凍結デバイスを液体窒素中で固定するために、クライオチューブまたはゴブレットにキャップを付ける、もしくは逆さまに取り付けます。
  13. 液体窒素容器を液体窒素タンクの近くに移動し、長期保存のためにクライオケーンをタンクに移します。

ポイント

  • ES液、VS液の浸漬中はディッシュにカバーをし、光への曝露を抑えます。
  • ES液からVS液への胚の移動時、ES液の持ち込みは必要最少量にします。
  • ES液で10分経過しても、胚盤胞が80%以上再拡張しなかった場合は、操作を進めるか検討します。
  • VS液の蒸発リスクを最小限に抑えるために、ES液での操作完了直前にVS液を作成します。
  • 胚が浮かなくなるまで、VS液内で胚を動かします。これは胚が完全に平衡化され、ES液の残液がないことを示しています。胚を動かす際は、まず12時の位置に胚を置き、30秒間のタイマーを開始します (胚はVS液の上部に浮きます)。 10秒後、6時の位置に静かに移動します。
  • VS液の浸漬時間は非常に重要なため、VS液への浸漬中は必要に応じて焦点を調整し、胚の顕微鏡による視覚化を維持します (胚はVS液中に浮きます)。迅速な操作のために、トランスファーピペット先端をドロップの近くに置いて待機します。VS液へ浸漬後80秒以内に凍結デバイスに胚をロードしますが、これらの作業は110秒を超えないようにします。

米国の胚融解プロトコル

準備

操作を開始する前に、必要なすべての材料、機器を準備してください。

  • Figure 1
  • Figure 2
  1. Figure 1のとおり、最少1mLのTS液を無菌的に分注し、CO2を含まない加湿型インキュベーター内、又は加温板で37℃に加温します (最低30分間)。
  2. 融解する胚を決め、液体窒素タンクから液体窒素容器にすばやく移します。
  3. 迅速に操作できるよう、液体窒素容器を顕微鏡のすぐ近くに配置します。
  4. デバイスの融解準備をします。
  5. 先ほど準備したTS液のディッシュを取り出し、顕微鏡のステージ上で焦点を合わせます。
  6. 胚をTS液に移し、合計1分間浸漬させます。浸漬後30秒で胚が浮遊している場合は静かにピペッティングし、ディッシュの底面に移します。
    その間に滅菌済のシャーレに室温下でDS液50μLを無菌的に分注します (Figure 2)。

    -- 手順7-10は必ず室温 (20-27℃) で行います --
  7. DS液に胚を4分間浸漬させます。DS液でTS液を洗浄するために、胚を1回静かにピペッティングします。胚はDS液中では収縮したままになります。
  8. 7.の間、WS液 (WS1、WS2) 50μLのドロップを無菌的に分注します。
  9. 浸漬後、胚をWS1、次にWS2にそれぞれ4分間移します (胚は2〜3分以内に元のサイズに再拡張します)。その後には2通りあります。
    ① 移植する場合にはあらかじめ平衡化した移植用培養液に移し、2-4時間の回復培養を行い移植します。
    ② 培養する場合には平衡化済の培地に胚を移し、2-4時間回復培養します。その後胚を培養用培地 (10%(v/v)のDSS代替血清、または5%(v/v)のヒト血清アルブミンを添加) に移し、移植が可能な段階まで培養します。
Vit Kit-NX

胚凍結融解用培地
Vit Kit-NX

  • 凍結・融解時の胚へのストレスを軽減。
  • CSCM (ヒト胚用培養液)、MHM (二重緩衝剤) との併用で更なる負担軽減。
  • 代替血清成分に含まれるコレステロール、デキストランにより耐凍効果あり。

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