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【総説】ヒドロキシルアミン等価体オキシム試薬によるアミド/アミン/ニトリルへの官能基変換

本記事は、和光純薬時報 Vol.89 No.4(2021年10月号)において、近畿大学 理工学部 兵藤 憲吾様に執筆いただいたものです。

はじめに

ヒドロキシルアミンは、アンモニアの酸化物の1つであり、単体では潮解性や爆発性を有し、その取り扱いには注意を要する。過去には国内外にてヒドロキシルアミンが原因となる爆発事故が発生し、危険物に指定されている。ヒドロキシルアミンは、単体よりも取り扱いやすい塩酸や硫酸などの鉱酸塩としても扱われるが、オキシム合成時には鉱酸塩を中和するために、化学量論量の塩基を使用する必要があり、反応後には生成物と共に、大量の無機塩が発生することが問題となる。

一方で、蚕の蛹に含まれる酵素トランスオキシマーゼは、直接ヒドロキシルアミンを用いることなく、オキシムから別のオキシムを合成するトランスオキシム化反応を起こし、pH 5-6、 37℃の条件にて、ピルビン酸オキシムからアセトンやアセトアルデヒドへのトランスオキシム化反応を行うことができる1)

筆者らは、酵素によるトランスオキシム化反応をモチーフに、オキシム化合物を、爆発性を有するヒドロキシルアミンの等価体と見做せると考え、非酵素的に、酸触媒によるトランスオキシム化反応を開発した(Figure 1)2)。具体的には、水中にて過塩素酸触媒存在下、アルデヒドもしくはケトンに対して、メチルエチルケトンオキシム(MEKO)をオキシム化剤として用い、非常に温和な条件で触媒的に、対応するアルドオキシムもしくはケトオキシムを合成した。また、反応剤として用いたMEKOは反応後、メチルエチルケトン(MEK)として蒸留によって回収することも可能であり、MEKからはゼオライト触媒によるアンモ酸化によって再びMEKOを合成できる手法も知られていることから、循環型の原料として考えることができる3)

Figure 1.オキシム合成法:(a) 脱水縮合、(b) トランスオキシム化反応
Figure 1.オキシム合成法:(a) 脱水縮合、(b) トランスオキシム化反応

ヒドロキシルアミンの等価体としてオキシムを見做す考えをさらに発展させ、ヒドロキシルアミン誘導体であるMSH試薬( O(- mesitylenesulfonyl)hydroxylamine)に着目した4)。MSH試薬はヒドロキシルアミンの水酸基にメシチレンスルホニル基が修飾された構造であり、強力な求電子的アミノ化剤として知られている反面、不安定で爆発性があり、保存に不向きなため、逐次試薬を調製して用いる必要があった。

筆者らは、オキシムの水酸基に電子求引性置換基が導入されたオキシムを、トランスオキシム化反応を駆使すれば、MSH試薬のようなヒドロキシルアミン誘導体の等価体として扱えると考えた(Figure 2)。合成したオキシム試薬1は、アルゴン雰囲気下で冷凍庫にて長期保存が可能であるとともに、DSCによる熱分析から発熱開始温度が従来のMSH試薬(15 wt%水を含む)の62℃から156℃へ大幅に上昇したことから、オキシム試薬がMSH試薬に比べ安定性が向上したことが確かめられた。

Figure 2.ヒドロキシルアミン等価体オキシム試薬
Figure 2.ヒドロキシルアミン等価体オキシム試薬

次に、試薬としての特徴であるオキシム試薬を用いた種々の官能基変換反応について説明する。

ケトンからの二級アミド合成

オキシムを出発原料とするベックマン転位からは、二級アミドが得られ、特にラクタム合成に対して有効であり、今なおナイロン6の製造など工業的にも極めて汎用性が高い方法である。一般的な合成法では、化学量論量の強酸や高温条件を要するが、近年温和な条件のもと、有機分子触媒による合成法が開発されている5)

一方で、ケトオキシムの前駆体であるケトンからベックマン転位を経て直接二級アミドを合成する方法は、ケトンのカルボニル炭素の隣接位に対して、形式的にNH挿入される反応となるだけでなく、オキシムの合成及びその幾何異性体を分離精製する工程を省略することができ、魅力的な方法であるが、それほど多くの報告例はない。その主な反応剤には、ヒドロキシルアミン鉱酸塩とヒドロキシルアミン誘導体であるMSH試薬が知られている。

しかしながら、高温下では不安定で爆発性を示すヒドロキシルアミンを苛酷な反応条件で用いる必要があった6)。また、MSH試薬を用いた場合には、温和な条件で反応が進行するものの、O-メシチレンスルホニル-ケトンオキシム形成後に塩基性アルミナ/メタノールを処すことで段階的にアミドを合成するため、やや手間がかかる7)。そこで、筆者らはヒドロキシルアミン等価体として開発したオキシム試薬を用い、ケトンから直接的な二級アミドの合成を行った8)

トシル酸一水和物を触媒として、アセトニトリル中、2'-アセトナフトン2aとオキシム1を用いて室温にて反応条件の最適化を行ったところ、予想に反し、ほとんど対応するアミドは得られなかった。しかし、興味深いことに、水の添加量を増すにつれてアミドの収率が向上した。そこで、水の役割を明らかにするために、同位体酸素18O水を用いてアミド合成を行った結果、ESI-MS測定より、得られたアミドのうち53%のアミドが18Oラベル化されていることが分かった。この実験事実から、反応に添加した水の一部はアミドのカルボニル酸素を形成する際に消費されることが明らかになった。

そして、最適化された反応条件を基に、様々なケトン類を原料にして、トシル酸一水和物 2.5 mol%を触媒に用い、オキシム転移/ベックマン転位を経るアミド合成を行った(Figure 3)。アセトフェノン類では、芳香環上に電子供与性置換基を有する場合、室温にて対応するアミドが得られた(3c-3g)。ハロゲン化アリールでは40ºC、電子求引性置換基であるニトロ基やシアノ基では、反応性が低下し、還流条件において、目的とするアミドを高収率で得ることができた(3h-3l)。また、ヘテロ環であるインドールやベンゾチオフェンについても対応するアミドを与えた(3m、3n)。芳香族-芳香族ケトンのようなベンゾフェノンや鎖状のアルキル-アルキルケトンでは、40ºCで対応するアミドを収率良く合成でき、環状脂肪族ケトンからはラクタムを首尾よく与えた(3o-3s)。

Figure 3.二級アミドの基質一般性
Figure 3.二級アミドの基質一般性

アセチルアレーンからの脱アセチル型アミノ化反応

ケトンからの直接的な二級アミド合成では、ベックマン転位後に生じたニトリリウムイオンに添加した水が付加してアミドが生じることを明らかにした。ここで得られた知見の基、ニトリリウムイオンを水で捕捉するのではなく、アルコールによってニトリリウムイオンを分解すれば、ピナー反応のように、イミデートを経由して、オルトエステルとともに、アンモニアが副生するかの如く、アミンが生成すると考えた9)

アミド合成の最適条件を基に、添加剤を水からメタノールに変更して反応を行ったところ、思惑通り、24時間後に、対応する芳香族アミンが得られた。さらに、溶媒をアセトニトリルからメタノールに変更した時には、反応が加速し、9時間で反応は完結した。次に、得られた最適な反応条件下で、様々なアセチルアレーン4に対する芳香族アミノ化反応を実施した(Figure 4)。両オルト位に置換基を有する場合には、反応時間が長くなる傾向があった(5b)。電子求引性置換基では、供与性置換基に比べ、反応性が劣り、60ºCの加熱を必要とした(5c)。そして、ヘテロ環を有する基質についても反応の進行を確認することができた(5d)。また、アセチルアルカンから一級、二級、三級アルキルアミンの合成も可能であった(5e-5h)。

Figure 4.脱アセチル型アミノ化反応の基質一般性
Figure 4.脱アセチル型アミノ化反応の基質一般性

脱アセチル型アミノ化反応の応用として、遷移金属フリーでの2種類のγ-アミノ酪酸(GABA)医薬品類の合成を行った(Scheme 1)。両化合物は、benzylidenacetone誘導体6を出発原料として用い、マロン酸ジメチルを付加させ、その後加水分解及び脱炭酸反応によって、鍵中間体8を合成した。化合物8に対して、脱アセチル型アミノ化反応を実施した後に、酸による加水分解を行いBaclofen 9(筋弛緩剤)を、塩基による環化反応によってRolipram 10(抗炎症薬)を合成した。

Scheme 1.脱アセチル型アミノ化反応による医薬品合成例
Scheme 1.脱アセチル型アミノ化反応による医薬品合成例

アルデヒドからのニトリル合成

通常、アルデヒドに対してヒドロキシルアミンを反応させると、脱水縮合してアルドオキシムが得られ、さらにアルドオキシムを脱水することでニトリルへと2段階で変換することができる10)。しかし、オキシム試薬をアルデヒドと反応させた場合には、水酸基に修飾された高い電子求引性置換基の効果によって、アルドオキシムで反応が終結せず、一気にニトリルまで官能基変換される(Figure 5)11)

具体的には、触媒にはトリフルオロメタンスルホン酸を用い、塩化メチレン中、種々のアルデヒドとオキシム試薬を反応させると、芳香族アルデヒドでは、電子求引性置換基や電子供与性置換基に関わらず反応は進行した(12a-12i)。またメトキシ基については、オルト、メタ、パラ位と置換基の位置が異なる場合にも問題なく反応が進行した(12c-12e)。ヘテロ環についても首尾よく反応が進行し、インドールの場合には触媒をビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドとし、30 mol%用いることで良好な収率が得られた(12j、12k)。脂肪族アルデヒドについては、直鎖やα-分岐型アルデヒドも高い反応性を示した(12l、12m)。

Figure 5.ニトリルの基質一般性
Figure 5.ニトリルの基質一般性

おわりに

以上のように、筆者らは不安定で取り扱いに注意を要するヒドロキシルアミンの等価体として比較的安定なオキシム試薬を用いることによって、ケトンからは二級アミド、アセチルアレーン及びアルカンからは脱アセチル型アミノ化反応により第一級アミン、アルデヒドからはニトリルへと官能基変換させることができた。この試薬によって、従来まで官能基変換するのに2、3ステップ要した反応もワンステップで実施できるため、ステップエコノミーとなる。また、いずれの反応についても汎用性の高い有機酸で行えるため、遷移金属フリーで実施できる点も魅力的である。

謝辞

本研究を実施するにあたり、ご助言賜りました龍谷大学理工学部 内田欣吾 教授に深く感謝申し上げます。また、実際に研究を遂行するにあたり、大石尚輝 修士、長谷川源和 修士、山﨑勝之 学士、富樫晃典 学士はじめ関わった学生らに感謝致します。ESIMS測定では、龍谷大学理工学部 浅野昌弘 博士にご協力頂き、同位体酸素18O水については、ご提供頂きました大陽日酸株式会社 前田広正 様、御尽力頂きました和研薬株式会社 大川拓哉 様に御礼申し上げます。そして、本研究は有機合成化学協会カネカ研究企画賞及び宇部興産学術振興財団学術奨励賞による助成金によって支援を受けて行われたものであり、関係諸機関に深く感謝申し上げます。

最後に、本研究に御関心をお持ち頂き、オキシム試薬を市販化して頂くとともに、執筆の機会を与えて頂きました富士フイルム和光純薬株式会社 大野桂二 氏、三宅寛 氏及び関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

参考文献

  1. Yamafuji, K. : Nature, 171, 745 (1953).
  2. Hyodo, K. et al. : Green Chem., 18, 5788 (2016).
  3. Song, F. et al. : Appl. Catal. A : General, 327, 22 (2007).
  4. Tamura, Y. et al. : Synthesis, 1 (1977).
  5. (a)Furuya, Y. et al. : J. Am. Chem. Soc., 127, 11240 (2005).
    (b)Vanos, C. M. et al. : Chem. Sci., 1, 705 (2010).
    (c)Mo, X. et al. : J. Am. Chem. Soc., 140, 5264 (2018).
  6. Selected example) Mahajan, S. et al. : Tetrahedron Lett., 56, 1915 (2015).
  7. Tamura, Y. et al. : Synthesis , 215 (1973).
  8. Hyodo, K. et al. : J. Org. Chem., 83, 13080 (2018).
  9. Hyodo, K. et al. : Org. Lett., 21, 2818 (2019).
  10. Recent selected examples)
    (a)Ishihara, K. et al. : Angew. Chem. Int. Ed., 41, 2983 (2002).
    (b)Yamaguchi, K. et al. : Angew. Chem. Int. Ed., 46, 3922 (2007).
    (c)Yu, L. et al. : Org. Lett., 16, 1346 (2014).
  11. Hyodo, K. et al. : Org. Lett., 19, 3005 (2017).

キーワード

トランスオキシム化反応(オキシム転移反応)

アルデヒド(ケトン)とオキシムを酸触媒存在下反応させると、アルデヒド(ケトン)由来のオキシムとオキシム由来のカルボニル化合物が生成する。

ベックマン転位

ケトン由来のオキシムであるケトオキシムを酸触媒存在下反応させると、分子内転位反応が起きて二級アミドが生成する。

ピナー反応

塩化水素などの酸存在下、ニトリルとアルコールが縮合してイミダートが得られる反応。

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