siyaku blog

- 研究の最前線、テクニカルレポート、実験のコツなどを幅広く紹介します。 -

【テクニカルレポート】超耐熱性エンド型セルラーゼの開発とその応用例

本記事は、和光純薬時報 Vol.89 No.4(2021年10月号)において、大関株式会社 総合研究所 仙波 弘雅様、坪井 宏和様、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 石川 一彦様に執筆いただいたものです。

はじめに

世界的なバイオエタノール産業への関心の高まりとともに、セルロース加水分解酵素(セルラーゼ)の研究が盛んに行われてきた。特に糸状菌Trichoderma reeseiは多量のセルラーゼを菌体外に分泌することから多くの研究が行われており、現在様々な分野で使用されている。一方でT. reesei由来セルラーゼに代表される一般的なセルラーゼは熱安定性が低いことが多く、60℃程度の温度でその機能を失ってしまう。そのため高温条件で行われることが多い糖化工程などでの使用には不向きであり、高温で安定なセルラーゼの開発が望まれている。そこで本稿では高温条件下でも使用可能な超好熱性古細菌Pyrococcus horikoshii由来耐熱性セルラーゼについて、更なる耐熱化とその応用例について概説する。

耐熱性エンドグルカナーゼとその超耐熱化

沖縄近海の熱水鉱床から単離された超好熱性古細菌P. horikoshiiの生産するエンド型セルラーゼ(エンドグルカナーゼ:EG)は、至適温度が100℃以上と非常に高い耐熱性を有する。我々はこの耐熱性エンドグルカナーゼに対してアミノ酸点変異導入を行うことで熱安定性の更なる向上を目指した。既存酵素との配列比較から熱安定性に寄与する可能性のある箇所にアミノ酸置換を導入した変異体を作出し、熱安定性を指標としたスクリーニングを行った結果、98℃、30分間加熱処理後の残存活性が野生型と比較して約3倍に向上した変異酵素が取得できた(図1a)。

この変異酵素は野生型酵素と比較して高温下での安定性に優れており、100℃近い高温条件下での長時間の反応においても高い活性を保持していた(図1b)。さらに我々は糸状菌を宿主とした独自の異種タンパク質高発現システムを利用して本酵素の大量発現にも成功しており、この酵素が高温条件に長時間晒される過酷な条件において簡便に使用できる有用な酵素となると期待している。

図1.超耐熱性エンドグルカナーゼの耐熱性評価
図1.超耐熱性エンドグルカナーゼの耐熱性評価
(a) アミノ酸置換を導入することで耐熱性酵素の更なる耐熱化に成功した。熱安定性の評価は98℃、30 分間加熱後の残存活性を、カルボキシメチルセルロース(CMC)を基質とした70℃、10 分間反応時の活性にて評価した。アミノ酸置換前(Wild Type)と比較して、ア ミノ酸置換導入後(Mutant)は残存活性が約3 倍に向上した。
(b) 70℃〜100℃で1 時間の反応を行った際の活性値を評価した。アミノ酸置換導入により熱安定性が向上しているため、高温での反応においてより高い活性を維持しており、特に100℃近い温度で顕著な差が見られた。

超耐熱性エンドグルカナーゼのナノセルロースへの応用

超耐熱性エンドグルカナーゼが効果を発揮する分野として、ナノセルロース分野への応用が考えられる。近年、天然セルロースからセルロースナノファイバー(CNF)やセルロースナノクリスタル(CNC)のようなナノセルロースを調製して新しいバイオ素材とする研究開発が加速している。特に、鋼鉄の5分の1の軽さで5倍の強度を有するCNFは、軽量・高強度・高弾性・低熱膨張・安全安心な天然物・再生型資源といった優れた特徴を持ち、その早期社会実装に向けた各種取り組みが進んでいる。

図2で示すように、天然植物を粉砕して得られる結晶性セルロース(図2A)を物理的に微細化することでCNFの調製が可能になる(図2B)。さらに、CNFにエンドグルカナーゼを作用させると、アビセルのような微結晶セルロース由来のCNFは透明になる(図2C)。これはCNFがエンドグルカナーゼにより完全糖化されたわけではなく、非結晶な領域が取り除かれたことによる現象である。

図2.CNF の調製とエンドグルカナーゼによる透明化
図2.CNF の調製とエンドグルカナーゼによる透明化
結晶セルロースを物理的に微細化することでCNF(B)が得られる。ここにエンドグルカナーゼ(EG)を作用させることで非結晶領域が取り除かれ、透明化したCNF(C)が得られる。

ナノセルロースは結晶性セルロースを主体とした多様な特徴を有する天然再生型素材であるが、普及に向けた最大の問題は既存材料と比較した時にコストが高いことであり、コストを下げるためには高効率生産技術の開発、さらには、量産効果が得られるレベルで大量に消費できる用途を見いだす必要がある。

プロセスを工夫すれば、エンドグルカナーゼを用いて様々なナノセルロースを高効率で造り分けることも可能で1)、用途に合わせて最適なナノセルロースの特徴を把握し、そのナノセルロースの効果的な製造方法を構築することも可能である。また、様々な環境での安定性が高い耐熱性エンドグルカナーゼを用いたナノセルロースの加工工程において見いだされた研究成果より、エンドグルカナーゼと物理的処理、イオン液体等を併用することで、各種植物系バイオマス高効率糖化においても有用な知見が得られている2)

超耐熱性エンドグルカナーゼのイオン液体耐性

イオン液体は一般的に100℃以下の温度で液体として存在するイオン性化合物の総称である。このイオン液体は、比較的温和な条件でセルロースを溶解することが可能であり、新たなセルロースの前処理方法として期待されている。具体的には、イオン液体にセルロースを溶解させた後、水を加えて再生セルロースを得ることで、その強固な結晶構造が一部破壊され、続くセルラーゼ処理の効率を飛躍的に高めることができる。

一方で、一般的なセルラーゼはイオン液体の存在によってその活性が大きく低下してしまうことが知られている。イオン液体に溶解したセルロースから再生セルロースを回収する場合、10 ~ 15%程度のイオン液体が残存すると考えられるが、10%のイオン液体の残存は、セルラーゼの活性を70%~ 85%も低下させることが報告されている3)。そこで再生セルロースを効率的に分解するため、残存するイオン液体に対して高い耐性をもつセルラーゼの探索が進められており、耐熱性や耐塩性を有する酵素にはイオン液体に対して耐性を有する酵素が存在することが報告されている4)

今回我々が開発した超耐熱性エンドグルカナーゼについても、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド([Bmim][Cl])および1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド([Emim][Cl])存在下での活性を評価したところ、20% (w/v) [Bmim][Cl]または[Emim][Cl]存在下でも90%以上の活性を維持することが明らかとなり、本酵素は耐熱性のみならず、非常に高いイオン液体耐性も有することが明らかとなった。よって本稿で紹介した超耐熱性エンドグルカナーゼはイオン液体処理を施した再生セルロースの分解において強力なツールとなることが期待される。

参考文献

  1. Teixeira, R. S. S. et al. : Carbohydr. Polym., 128, 75 (2015).
  2. Teixeira, R. S. S. et al. : Bioresour. Technol., 149, 551 (2013).
  3. Engel, P. et al. : Green Chem., 12, 1959 (2010).
  4. Datta, S. et al. : Green Chem., 12, 338 (2010).

キーワード

エンド型セルラーゼ(エンドグルカナーゼ)

セルロースを分解する酵素の内、セルロース内部から切断する様式の酵素。主にセルロース内部の非結晶領域に作用する。セルロースを分解する酵素には、他にセルロースの末端から切断しセロビオースを遊離するエキソグルカナーゼ(セロビオヒドロラーゼ)が存在する。

ナノセルロース

セルロースを物理的または化学的に微細化したもので、その性状によってセルロースナノファイバーやセルロースナノクリスタルなどに分類される。その性質から強化剤やゲル化剤、増粘剤といった様々な用途への応用が期待されている。

キーワード検索

月別アーカイブ

当サイトの文章・画像等の無断転載・複製等を禁止します。