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尿中L-FABPは内科系心臓集中治療室入室患者の長期的な有害転帰の独立予測因子

本記事は、シミックホールディングス株式会社が編集する「非臨床 News Letter L-FABP No.14」をもとに掲載しています。

目的

急性腎障害(AKI)は心臓集中治療室(CICU)において高い頻度で起こりうる合併症の一つである。AKIの診断は血清クレアチニン濃度上昇および尿量減少に基づくものが一般的であるが、一方で血清クレアチニンが筋肉量の影響を受けることやAKI初期の上昇がみられないケースなど感度や特異度に関する問題が指摘されており、従来の診断に加えてより鋭敏かつ高い予後予測能を有するバイオマーカーの採用が求められている。

近年、血清クレアチニンの上昇は認めないものの尿細管障害マーカーが上昇している病態が"subclinical AKI"と定義され、患者予後との関係性が明確に示されつつある。著者らは上記の尿細管障害マーカーとして、CICU入室時の尿中L-FABP値がAKI発症における独立した早期の発症予測因子であることを既に報告している。

本研究ではさらに、尿中L-FABP値が長期的な有害転帰の予測因子となりうるかどうかの解析、また血清クレアチニンを基準とした従来の診断方法と組み合わせた際の臨床上の有用性評価を目的とした。

対象と方法

CKDステージ5の患者などを除いた、様々な背景を有する1119名の内科系CICI入室患者(18歳以上:平均68歳、[23-83歳])を対象とし、入室時に採尿と採血を実施して尿中L-FABPと 血清中のBNPなどを測定した。尿中L-FABP値は盲検化し対象患者は通常の処置を受け、その後41ヶ月間の追跡調査を行った。主要評価項目は死亡もしくは末期腎不全(ESKD)への病態進行、副次評価項目は死亡のみとし、統計学的に解析した。なおAKIはKDIGO診療ガイドラインに従って診断した。 対象患者の主な心血管疾患は[表1]の通り。

[表1] CICU入室対象患者の主な心血管疾患
患者数 (%)
急性冠症候群 529(47)
 ST上昇型心筋梗塞 217
 非ST上昇型心筋梗塞 264
 不安定狭心症 48
急性非代償性心不全 424(38)
 HFrEF(左室駆出率<40%) 217
 HFmrEF(40%≤左室駆出率<50%) 67
 HFpEF(左室駆出率≥50%) 140
不整脈 51(5)
 上室性頻拍症 6
 心室性頻拍 14
 洞不全症候群 13
 第2度もしくは第3度房室ブロック 18
原発性肺高血圧症 32(3)
急性大動脈症候群 24(2)
感染性心内膜炎 14(1)
たこつぼ心筋症 11(1)
その他 34(3)

(文献内Table1より一部改変)

結果

尿中L-FABP値の五分位数ごとの主要評価項目に対する生存曲線
[図1]尿中L-FABP値の五分位数ごとの主要評価項目に対する生存曲線
(文献内Figure1より一部改変)
[表2] 確立されたリスク因子モデルと尿中L-FABPの組み合わせによる各リスク解析
C統計量 P value NRI P value IDI P value
主要評価項目

死亡もしくは
末期腎不全(ESKD)進行
確立されたリスク因子モデル 0.756 Ref. Ref. Ref.
確立されたリスク因子モデル+尿中L-FABP 0.763 0.76 0.252 <0.001 0.013 0.002
副次評価項目

死亡
確立されたリスク因子モデル 0.760 Ref. Ref. Ref.
確立されたリスク因子モデル+尿中L-FABP 0.766 0.80 0.222 0.001 0.012 0.004

(文献内Table4より一部改変)

対象患者のうち207名が血清クレアチニン値に基づく従来手法によりAKIと診断された(ステージ2もしくは3の44名を含む)。41ヵ月の追跡調査の後、242名に主要評価項目の発生がみられた (全死亡者数:228名、末期腎不全患者数:17名)。

尿中L-FABP値を五分位にわけ主要評価項目をもとにカプランマイヤー法により解析したところ9.0 ng/mLが予後予測におけるカットオフ値とされ[図1]、さらに多変量Cox回帰分析により尿中L-FABPは長期予後の独立予測因子であることが明らかとなった (p<0.001:出典論文参照)。

またBNPを加えた確立されたリスク因子による評価モデルに尿中L-FABPを追加し識別力や純再分類改善度(NRI)、統合識別改善度(IDI)を評価したところ、その主要評価項目および副次評価項目に対する予測能が向上することが明らかとなった[表2]。

加えて、尿中L-FABP値9.0 ng/mL以上もしくは従来法によるAKI診断を基にカプランマイヤー法により解析すると、subclinical AKIに定義される尿中L-FABP値が高く血清クレアチニンの上昇がみられない患者においても高い予後予測能を示し、さらに尿中L-FABP値が上記濃度以上の患者と血清クレアチニン値を基準とした従来のAKI診断をあわせて解析することで主要評価項目および副次評価項目に対する予測能がさらに向上した(p<0.001)[図2-A,2-B]。

尿中L-FABP 9.0 ng/mL以上をカットオフ値とした各評価項目に対する生存曲線
[図2]尿中L-FABP 9.0 ng/mL以上をカットオフ値とした各評価項目に対する生存曲線
(文献内Figure2より一部改変)

結論

内科系CICU入室時における尿中L-FABP値はAKI発症の独立予測因子であるだけでなく、長期的な有害転帰の独立した予測因子である。さらに血清クレアチニン値を基準とした従来のAKI診断方法と組み合わせることでその長期予後予測能を向上させうることから、臨床現場における入室患者のリスク層別化にも有用と考えられる。

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出典

Urinary Liver-Type Fatty-Acid-Binding Protein Predicts Long-Term Adverse Outcomes in Medical Cardiac Intensive Care Units. J Clin Med. 9(2), 2020.
Naruse H, Ishii J, Takahashi H, Kitagawa F, Nishimura H, Kawai H, Muramatsu T, Harada M, Yamada A, Fujiwara W, Hayashi M, Motoyama S, Sarai M, Watanabe E, Izawa H, Ozaki Y.

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