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ヒスタミン分析の課題と酵素法による簡易迅速分析の実際

キッコーマンバイオケミファ株式会社

ヒスタミン中毒事故と発酵食品・発酵調味料中のヒスタミン

ヒスタミン中毒は『ヒスタミンを多く含む食品を摂取した場合、食後数分~30分位で、顔面、特に口の周りや耳が紅潮し、頭痛、じんま疹、発熱などの症状を呈する。重症になることは少なく、たいてい6~10時間で回復する。』1,2)とされており、食品などのアレルゲンによるアレルギー反応にその症状が似ていることからアレルギー様食中毒と呼ばれることもある。

原因となるヒスタミンは、主に細菌由来のヒスチジン脱炭酸酵素が食品中のヒスチジンに作用して生成する3,4,5)。赤身魚によるアレルギー様食中毒が多いのは、ヒスタミン生成の元になるヒスチジンの含量が多いためである。

国内のヒスタミンを原因とする食中毒の年間発生は、年間数件から10件前後、患者数で数十人から400人程度で他の食中毒原因に比べて多いわけではないが、保育園や学校が関連した給食施設で100名を超える大規模なヒスタミン食中毒が発生しその対策が課題となっている。(表1)

表1.国内におけるヒスタミンによる食中毒の発生状況
件数 患者数
平成23年 7 206
平成24年 9 113
平成25年 7 190
平成26年 7 61
平成27年 13 405
平成28年 15 283
平成29年 8 74

消費庁 ホームページより抜粋

ただ、原因食材を見るとサバ、イワシなどの干物、マグロ等赤身魚のフライ等であり、味噌・醤油等の調味料が原因となった例は報告されていない。この理由は調味料類の摂取量が少なく、大人一人当たり22~320 mgとされる中毒発症レベル1)に至らないためと考えられている。

国内においては食品のヒスタミンの規制(規格)は定められていないが、Codex委員会では、マグロ、イワシ等の缶詰製品や急速凍結水産加工品については、鮮度低下の指標として100 mg/kg、安全性の指標として200 mg/kgを超えないこと、同様に魚醤(fish sauce)について400 mg/kgを超えないことと定められており、EU, 米国, カナダ, オーストラリア等でもそれぞれ独自に規格が定められている1)

このような状況の中、近年では水産物市場は国際化し、水産業の成長産業化に向けては輸出を拡大していく事が重要とされている。それにあたっては、輸出国が求める衛生条件を満たすことが必要であり、HACCP認定施設の増加が急務とされ、ヒスタミン中毒は化学的ハザード(化学的危害要因)として挙げられる物質の一つとして、その対策が現場で求められている。

各種ヒスタミン測定法とその特徴

代表的なヒスタミン測定法2,4,9)としては、蛍光光度法(AOAC法)10)、HPLC法11,12)が知られている。しかしながら、これらの測定法は、サンプルの前処理や測定操作が煩雑であるため測定に時間と熟練を要し、また分析に用いる機器が高価であるためにヒスタミンを測定する機会が限定されてしまう問題があった2,4)。一方で、ヒスタミンの簡易測定としては、本稿で主に紹介する酵素法以外にも酵素免疫測定法(EIA法)を用いた市販キットが販売されているが、EIA法を用いた市販キットは分析コストの面で、衛生管理目的でルーチンに測定するのは困難であろう2,4)。表2に従来法との比較をまとめた。

表2.各種ヒスタミン測定法の比較(キッコーマンバイオケミファ調べ)
製品名(手法) チェックカラー
ヒスタミン
Reveal Veratox HPLC法 AOAC法
メーカー名 キッコーマン
バイオケミファ
Neogen : 米 Neogen : 米
測定方法
(抽出操作含)
酵素法
(発色検出)
免疫法:定性
(イムノクロマト)
免疫法:定量
(ELISA発色)
HPLC
(蛍光検出)
カラム分離
蛍光検出
測定時間 1時間以内 30分以内 2時間 1~2時間 3~4時間
感度(検体濃度) 10ppm~ 50ppm 2.5ppm~ 0.1ppm~ 50ppm~
再現性 良い ばらつく ばらくつ 非常に良い 大きくばらつく
定量性 良い 定性 非直線検量線 非常に良い 技量要求
検量線作成 1点 1点 5点 必要 4点
測定操作 簡便 非常に簡便 多少煩雑 煩雑 煩雑
コスト
(Sample+検量線)
500円/sample+<br/ >500円/test 2000円/sample 1290円/sample+
6450円/test
外部委託:
10000円~
1300円/sample+
6450円/test
導入コスト 分光光度計5万円~ 機器不要 マイクロウェルリーダー
30万円~
HPLCシステム
300万円以上
蛍光検出機
200万円~

酵素法による簡易迅速ヒスタミン分析法の原理と特徴

図1.酵素法によるヒスタミン測定の原理
図1.酵素法によるヒスタミン測定の原理

酵素法による測定原理は、ヒスタミンデヒドロゲナーゼ(HmDH)を用いた比色法(図1)である。ヒスタミンがこの酵素の触媒作用によって酸化されると、ここに共存させた電子受容体(1-Methoxy PMS)が仲立ちとなってホルマザン色素が生成される。つまり、ヒスタミン1分子に対しホルマザン色素が1分子生成することになり、470 nmの吸光度が、ヒスタミン濃度と比例関係を持つことになる。

図2.ヒスタミン標準液の測定
図2.ヒスタミン標準液の測定

事実、この測定系で得られた検量線(図2)はゼロを通る直線となり、標準ヒスタミン1点のみの吸光度を求めることでサンプル中のヒスタミンを精度良く算出できる。したがって本測定法は、最もコスト高となる一度に1検体のみしか測定しない場合にはおよそ1,000円/検体とELISA法のそれの1/5以下に抑えられ、コスト面でも日常の分析に耐える簡易・迅速かつ実用的なヒスタミン測定法と筆者は考えている。

なお、2012年に行われたFAO/WHOバイオジェニックアミン専門家委員会の報告書15)にも"Colorimetric method"としてAOAC法、HPLC法、EIA法等と並んで、有効な分析法として取り上げられており、国際的にも認知が進んでいる。

また、酵素法を測定法とする当社のチェックカラーヒスタミンは、2018年4月に、サバ科の魚(マグロ・サバ・カツオ等)の生・冷凍、ツナ缶(水煮缶、オイル缶)、魚醤(原料がカタクチイワシのもの)を対象マトリックスとして、国際的な分析法評価機関であるAOAC-RIのAOAC-RI PTM (Performance Tested Methods) 認証16)を取得し、その測定法の信頼性が確認された。

生魚ならびにツナ缶詰等、測定の実際

次に酵素法(弊社製品チェックカラーヒスタミン)を用いた、生マグロ、ツナ缶を試料としたケースについて、分析操作の概要ならびにその結果を以下に紹介する。

チェックカラーヒスタミン
チェックカラーヒスタミン

分析試料(検液)の調製

①試料(生魚肉, ツナ缶固形物)約10 gをホモジナイザー(包丁・まな板)等でミンチ状にする。
②1 gを正確に量り取り、プラスティック製試験管(50 mL容)に入れる。
③同上試験管に抽出用溶液(0.1M EDTA・Na, pH8.0)を24 mL入れミキサーで、よく撹拌する。
④同上試験管を沸騰水中で20分、加熱しヒスタミンを抽出する。
⑤同上試験管を氷冷後、固形物を細かくほぐしミキサーで、よく撹拌する。
⑥同上試験管内容物を、ろ紙(No.5C相当品)でろ過する。
⑦ろ液(最低必要量は1 mL)をプラスティック試験管に集め、撹拌した後、検液とする。

ヒスタミン濃度の測定

検液を含め6種類の試薬を4本の試験管に定められた順序で添加し、37℃・15分保温した後に470 nmの吸光度を測定することで検液中のヒスタミン濃度が定まり、ひいては試料(生魚肉等)のヒスタミンの定量が出来る。(図3)

図3.酵素法による生魚のヒスタミン測定
図3.酵素法による生魚のヒスタミン測定

操作は危険な試薬を使用することもなく、ピペット操作など基本的な分析操作に慣れた担当者であれば、抽出工程を含め1時間以内で測定結果が得られるだろう。

表3は2種類のツナ缶と生マグロを試料とした添加回収試験の結果である。いずれの試料においても、10~75 ppmの範囲で良好な回収率を示していることがわかる。また自然汚染の生マグロ、ツナ缶詰を試料とした場合(表4)でも、HPLC法、AOAC法、EIA法との良好な相関が得られており、信頼性の高い分析法であることがわかる。

  • 表3.ツナ缶及び生マグロでの添加回収試験
    ヒスタミン
    添加量(ppm)
    測定値(ppm)*N = 3
    オイル漬け
    ツナ缶
    スープ漬け
    ツナ缶
    生マグロ
    10 11.3 10.8 10.6
    20 21.6 21.2 20.0
    50 51.0 49.5 50.9
    75 72.0 73.5 77.6
    回収率 96-113% 98-108% 100-106%
  • 表4.他の測定法との比較(単位:ppm)
    生マグロ
    20℃, 2日貯蔵
    ツナ缶詰
    本測定法 2,886 537
    HPLC法 2,545 566
    AOAC法 2,646 530
    EIA法 1 2,728 574
    EIA法 2 2,764 463

発酵食品・発酵調味料測定における課題

図4.酸化還元物質による妨害の仕組み

夾雑物によりヒスタミンが無いのに発色したり、またはその逆にヒスタミンがあるのに発色が生じなかったりする場合がある。

図4.酸化還元物質による妨害の仕組み

先に述べたように本測定法には、電子受容体が仲立ちとなってホルマザン色素を発色させる仕組みが存在する。つまり、HmDHの触媒作用によってヒスタミンの酸化に関与した電子受容体の電子は、そのすべてが色素の酸化発色によって供給されることを前提として測定系が組み立てられている。このとき、反応系内に酸化還元物質が存在すると、ヒスタミンの酸化とは無関係な電子受容体との電子の授受や、色素を直接酸化発色させる等の副反応を行い、ヒスタミンの正しい測定ができなくなることが懸念された。(図4)

実際、前項で解説した生魚や加工度の低いツナ缶詰等を測定対象とする限りはこの問題は生じないが、鰹節や干物等、微生物による熟成が関与した発酵食品、味噌・醤油・魚醤等の発酵調味料には、この種の妨害物質が存在し、そのままでは正確な測定値が得られないことが明らかとなった。もっとも簡単な妨害除去法は、試料液を単に水で希釈することである。しかし当然ながら希釈に伴って測定感度が低下する。

表2に感度10 ppmとあるのは試料を25倍量の緩衝液で希釈抽出した系を前提としているが、妨害除去に十分な希釈をしても目的とする感度が得られる場合は良い。例えば、魚醤については、150倍希釈することで、海外の規制値レベル(200-400 ppm)も十分に測定可能であり、原料がカタクチイワシの魚醤はAOAC-PTM認証の対象マトリックスとなっている。

醤油を例とした前処理による妨害物質の除去

一方、醤油の場合には150倍の希釈でも妨害が残るためこの方法は採用出来ず、もっとも簡単な妨害除去方法は、試料液を単に水で希釈することである。しかし当然ながら希釈に伴って測定感度が低下する。表2に感度10 ppmとあるのは試料を25倍量の緩衝液で希釈抽出した系を前提としているが、妨害除去に十分な希釈をしても目的とする感度が得られる場合は良いが、醤油の場合には100倍の希釈でも妨害が残るためこの方法は採用出来ず、以下に述べる固相カラムによる前処理に頼る事になる。具体的な醤油試料の前処理法は次のとおりである。

図5.カラム処理による妨害物質の除去
図5.カラム処理による妨害物質の除去
  1. 醤油0.1 mLを20 mMリン酸緩衝液(pH6.0)10 mLで希釈する。
  2. これを固相カラム(Sep-Pak Plus Accell CM, Waters社)に通す。
  3. 20 mMリン酸緩衝液(pH6.0)10 mLでカラムを洗浄する。
  4. 175 mM NaCl, 20 mMリン酸緩衝液(pH7.0)10 mLをカラムに流し、抽出した液を測定用試料とする。

この前処理の概念を図5に示した。ステップ2では、試料中のヒスタミンはカラムに吸着するが、妨害成分の多くは吸着せず流れ出してしまう。ステップ3で残っている妨害成分を洗い流し、ステップ4でヒスタミンを溶出・回収し測定に供する。

酵素法とHPLC法

図6.酵素法=チェックカラーヒスタミン法とHPLC法の相間(醤油試料)
図6.酵素法=チェックカラーヒスタミン法とHPLC法の相間(醤油試料)

前項の方法で様々な濃度のヒスタミンを含む醤油試料を、前項で詳述した試料前処理を組み合わせた酵素法と、衛生試験法に記載されたHPLC法の2つの方法を用いて分析を実施した結果を表5ならびに図6に示した。

100 ppm程度から数百ppmを超える濃度まで、両者の値は良く一致しており、相関係数が0.998である事からも、この方法がHPLC法を代替できる分析法であることが示されている。

表5.ヒスタミンを含む醤油の分析値(酵素法=チェックカラーヒスタミン/HPLC法)
試料番号 検疫希釈率*1 チェックカラーヒスタミン法 HPLC法
A470 ヒスタミン濃度
Blank Sample ⊿OD ppm
A 1 0.06 0.47 0.41 200 200
B 1 0.08 0.77 0.69 340 350
C 2 0.10 0.70 0.60 590 670
D 2 0.08 0.58 0.50 490 560
E 2 0.09 0.58 0.49 480 520
F 2 0.12 0.89 0.77 750 820
G 1 0.06 0.77 0.71 350 380
H 2 0.15 0.81 0.66 640 690
I 1 0.08 0.99 0.91 440 460
J 1 0.05 0.31 0.26 130 120

*測定にあたっては、吸光度が1.0未満になるように検液を希釈した。

おわりに

本稿では冒頭でヒスタミン中毒事故の現状について、その原因が水産加工品であって、発酵食品や発酵調味料に由来するものでは無いことを述べた。それに加え、国内の水産業における国際化とそれに伴うHACCP認定設備の増加など、産地市場・水産加工施設における品質・衛生管理の向上に向けた動きがあることを紹介した。

続いて2項では、種々の簡易測定を含むヒスタミン分析法とその特徴、そして3項以降では酵素法によるヒスタミン分析についてその原理・特徴・課題とその解決策について述べ、醤油の分析を例に酵素法がHPLCに代替できるものであることを示した。

本分析法の開発の経緯ならびに醤油分析への応用は"醤油の研究と技術"に詳述したので、そちらを参照いただきたい13,14)

なお、本分析法を応用し、綿棒で検査対象を直接ふき取り、色でヒスタミン濃度を測定する製品を現在開発中であることを付け加えて稿を閉じたい。

  • "ヒスタミンチェックスワブ"としてテスト販売中です。(2020年2月現在)ただし綿棒で直接ふき取る検査ではなく、前処理が必要な簡易検査キットとなっております。
    詳細はメーカーホームページをご覧ください。

参考文献

  1. 食品安全委員会ファクトシート(2013/2/4作成)
    https://www.fsc.go.jp/sonota/factsheets/140326_histamine.pdf
  2. 藤井建夫:月間フードケミカル, 10, 71 (2006)
  3. 藤井建夫:日本食品微生物学会雑誌, 23, 61 (2009)
  4. 藤井建夫:HACCPと水産食品 水産学シリーズ125 (藤井建夫, 山中英明編), 59 (2006)
  5. L. Lehane, J. Olley : Int. J. Food Microbiol., 58, 1 (2000)
  6. 荘村多加志:食品衛生化学物質データブック (細貝祐太郎, 中澤裕之, 西島基弘編), 777 (1998)
  7. 里見正隆:日食科工, 57, 366 (2010)
  8. 里見正隆:醸協, 107, 842 (2012)
  9. 斉藤貢一, 望月恵美子:月間フードケミカル, 7, 115 (1994)
  10. Association of Official Analytical Chemists, Histamine in seafood: fluorometric method. Method 35.1.32 method 977.13, in: Official methods of analysis, 17th ed., AOAC International, 17 (2003)
  11. 日本薬学会編:衛生試験法・注解 2000, 172 (2000)
  12. 日本食品衛生協会編:食品衛生検査指針, 276 (1991)
  13. 佐藤常雄, 本間茂ほか:醤油の研究と技術, 39, 5, 243, (2013)
  14. 一柳悠子, 大野尚子ほか:醤油の研究と技術, 41, 5, 385 (2015)
  15. "Meeting Report" 「Joint FAO/WHO Expert Meeting on the Public Health Risks of Histamine and Other Biogenic Amines from Fish and Fishery Products 23-27 July 2012 FAO Headquarters, Rome, Italy」 http://www.fao.org/fileadmin/user_upload/agns/news_events/Histamine_Final_Report.pdf
  16. Shimoji K, Bakke M. J. AOAC Int. in press.

月間フードケミカル2019年1月号より抜粋

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