【クロマトQ&A】:溶媒のQTofMS用、HPLC用、LC/MS用の違い
本記事は、Analytical Circle No.84(2017年3月号)に掲載されたものです。
最近QTofMS用溶媒が発売になりましたが、HPLC用、LC/MS用との違いはなんですか。どのように使い分ければよいですか。
HPLCは広範な試料の分析に適応可能な分析法として幅広い分野で用いられています。HPLCで使用する溶媒は、試料成分を溶解するが試料成分と反応しない、カラムへの負荷が少ない、検出を妨害しない、などの条件を基に選択します。検出を妨害しない要件として、HPLCでは紫外可視吸光光度検出器や蛍光検出器が多く用いられるため、吸光度や蛍光が低く抑えられていることが挙げられます。LC/MSにおいては質量分析計で目詰まりを起こさず、またバックグラウンドノイズが低く抑えられていることが求められます。
表1に当社のアセトニトリルのうち、一般試薬である試薬特級とHPLC用、LC/MS用、QTofMS用製品の規格項目と規格値を示します。
表1.アセトニトリルの規格項目・規格値
試薬特級 | HPLC用 | LC/MS用 | QTofMS用 | ||
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含量 | [%] | 99.5以上 | 99.8以上 | 99.8以上 | 99.8以上 |
密度(20℃) | [g/mL] | 0.780~0.784 | 0.780~0.783 | 0.780~0.783 | 0.780~0.783 |
屈折率n20D | 1.343~1.346 | 1.343~1.346 | 1.343~1.346 | 1.343~1.346 | |
水分 | [%] | 0.1以下 | 0.05以下 | 0.05以下 | 0.05以下 |
不揮発物 | [%] | 0.005以下 | 0.001以下 | 0.001以下 | 0.001以下 |
酸(CH3COOHとして) | [%] | 0.01以下 | 0.001以下 | 0.001以下 | 0.001以下 |
アンモニウム(NH4) | [ppm] | ー | 0.3以下 | 0.3以下 | 0.3以下 |
過酸化物(H2O2として) | [ppm] | ー | 5以下 | 5以下 | 5以下 |
シアン化水素 | 適合 | ー | ー | ー | |
過マンガン酸還元物質 | [%] | 適合 | 適合 | 適合 | 適合 |
グラジエント試験 | ー | 適合 | 適合 | 適合 | |
パーティクス(0.5 µm以上) | [個/mL] | ー | ー | 100以下 | 100以下 |
吸光度 | 200 nm | ー | 0.05以下 | 0.05以下 | 0.05以下 |
210 nm | ー | 0.03以下 | 0.03以下 | 0.03以下 | |
220 nm | ー | 0.02以下 | 0.02以下 | 0.02以下 | |
230 nm | ー | 0.01以下 | 0.01以下 | 0.01以下 | |
240 nm | ー | 0.005以下 | 0.005以下 | 0.005以下 | |
蛍光試験 | ー | 適合 | 適合 | 適合</td. | |
LC/MS分析適合性試験 | ー | ー | 適合 | ー | |
QTofMS分析適合性試験 | ー | ー | ー | 適合 |
試薬特級はJISで規定された方法に従って試験を行い品質を保証しているため、JISに項目が定められていない紫外線の吸光度測定や蛍光試験は行っていません。HPLC用グレードでは紫外線の吸光度を測定すると共にグラジエント試験および蛍光試験を実施しバックグラウンドノイズが低く抑えられていることを保証しています。合わせて過酸化物の含量を保証、試料が分析の途中で分解することを抑えるよう配慮されています。LC/MS用グレードはHPLC用の規格に加え、 LC/MS分析適合性試験を実施、LC/MS分析でバックグラウンドノイズが低く抑えられていることを試験により保証しています。またパーティクル測定により微粒子のチェックを行っています。
最近ではより高感度・高分解能を有するMSが普及してきており、メタボロミクスやプロテオミクスなどの研究に利用されています。高感度・高分解能なLC/MSでは、より不純物の少ないことを保証した溶媒が求められます。
QTofMS(四重極飛行時間質量分析計)は高感度・高分解能LC/MSの一つで、フルスキャンモードにおいてイオンを網羅的に測定できるという特長があります。QTofMS用溶媒はこの特長を利用し、QTofMS分析適合性試験としてQTofMSにおいてカラムを接続した状態でグラジエント溶離を実施、フルスキャンによる幅広い質量範囲(m/z 50~3000)の不純物を確認しています。さらに、得られたデータについて多変量解析ソフトを用いて解析を行っています。すなわち、網羅的に得られた成分データから迅速にサンプル間の類似点と相違点を判断、不純物や経時変化の影響を統計学的に処理し、より信頼性の高い保証を行っています。市販のLC/MS用アセトニトリルのTIC(トータルイオンクロマトグラム)例、並びに主成分分析例を図1に示します。
以上のように各グレードの製品には実施している試験項目(品質の保証内容)に違いがあります。
HPLC用:一般試薬の試験+吸光度測定+蛍光試験+グラジエント試験
LC/MS用:HPLC用試験+パーティクル測定+LC/MS分析適合性試験
QTofMS用:HPLC用試験+パーティクル測定+QTofMS分析適合性試験
感度・高分解能LC/MSにはQTofMS用溶媒のご使用をおすすめします。それ以外のLC/MSにはLC/MS用、一般のHPLCにはHPLC用溶媒をご使用ください。