【クロマトQ&A】:タンパク質やペプチドの分析方法について教えて下さい
本記事は、Analytical Circle No.36(2005年3月号)に掲載されたものです。
アナリティカルサークルNo.33(2004年6月発行)に生体試料中のタンパク質を除く方法について説明がありましたが、逆にタンパク質やペプチドの分析方法について教えて下さい。
タンパク質あるいはペプチドは、加熱や有機溶媒の添加などにより変性・失活しやすいため、試料の取り扱いは保存を含め注意が必要です。タンパク質の変性の原因としては物理的要因[加熱、凍結、高圧、紫外線、放射線、撹拌など]及び化学的要因[pH(酸やアルカリ)、有機溶媒、重金属塩、変性剤(尿素など)、界面活性剤、還元剤(2-メルカプトエタノール)など]があります。
保存に関してはタンパク質の種類によって冷凍あるいは冷蔵保存を選択します。溶液保存の場合、頻繁に凍結融解を繰り返すと変性、失活する可能性が高くなりますので、できれば用時調製が望ましいといえます。調製した試料溶液は分析中も容器ごと温度管理する事が望まれます。
またタンパク質によってはガラス容器の内壁に吸着したり、金属の影響で変性や失活したりする事があります。このような場合、試料の調製や保存にポリマー製容器を使用し、装置の接液部はメタルフリー化します(PEEKなどの樹脂製カラムや、樹脂製の配管、接液部が樹脂製のポンプなど)。その他、濃縮に限外ろ過膜を使用すると膜の素材によっては吸着されて回収率が低下します。吸着されにくい素材を使用したり、固相抽出用イオン交換カラムに捕集し溶出させたりします。
表1にタンパク質、ペプチドの分離モードと原理、特徴、タンパク質の吸着、溶出の方法を示します。分離モードはタンパク質の性質や量、精製の度合によって選択します。充てん剤によっては基材であるシリカゲルや合成高分子に目的とする相互作用以外の何らかの二次的相互作用があるため注意が必要です。場合によってはセルロースやデキストランのような軟質ゲルの方がよい分離を示す場合があります。
表1.タンパク質、ペプチドの分離モードと原理、特徴
分離モード | 原理 | タンパク質の吸着、溶出例 | 特徴 |
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イオン交換 (ヒドロキシアパタイト) |
タンパク質と充てん剤との静電的相互作用 | 陰イオン交換 担体:DEAE 吸着・溶出:pH8.0 20mM トリス-塩酸 陽イオン交換 担体:CM 吸着・溶出:pH5~6 酢酸(りん酸) |
分離能が高く、吸着能が大きい。 精製の初期段階で用いる事が多い。 担体はタンパク質の等電点と安定性を考慮して選択する。 |
タンパク質との静電的相互作用 塩基性タンパク:りん酸基 酸性タンパク:カルシウム |
吸着:pH6.5~7.5 10mMりん酸 溶出:0.4Mりん酸 |
中性pH領域で弱酸性から塩基性のタンパク質を吸着する。 タンパク質の吸着はpHが高い程弱くなる。 |
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疎水性相互作用 | タンパク質と固定相に導入された疎水性基との疎水性相互作用 | 吸着:高濃度緩衝液(1~1.5M硫酸アンモニウム、1~3Mの食塩を含む緩衝液) 溶出:塩濃度を下げる。溶出しない場合有機溶媒(30%アセトニトリル、70% エチレングリコール)で溶出。 |
C8,フェニル:分子量3万程度まで。 短鎖アルキル:3万以上のタンパク質の分離に適している。 逆相より疎水性の低い充てん剤を用いる。 |
逆相 | タンパク質と固定相に導入された疎水性基との疎水性相互作用 | 溶出:有機溶媒(アセトニトリル、プロパノール)/水トリフルオロ酢酸、りん酸を添加することが多い | 分離能は他のモードに比べ圧倒的によいが、多くの場合タンパク質の変性を伴う。 目的物質が溶離条件で安定である場合、生物活性を目的としない精製、純度検定、サブユニット分離に使用。 |
サイズ排除 (ゲルろ過) |
溶質分子の大きさの違いを利用 | GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー) :疎水性充てん剤と非水系有機溶媒 GFC(ゲルろ過クロマトグラフィー):親水性充てん剤と水系有機溶媒 |
タンパク質、ペプチドの分子量測定に使用。 操作は簡便だが原理的に高分解能は望めない。 最終精製品の純度検定や不純物の除去に用いる。 目的分子の分子量に応じた分画範囲の担体を選択する。 |
アフィニティー | 生体分子の特異的な相互作用 | 溶出:pHを下げるなどした溶離液 担体:アガロース、親水性合成高分子使用条件下で安定な素材 リガンド:目的成分に対する選択性が高く、できる限り温和な条件で溶出させることが可能な物質を選択。 |
目的成分を効率よく簡便に単離。<br/ > リガンド、担体の選択、リガンドの固定化法について事前に十分検討する必要がある。 非特異的吸着を防ぐため、一般にはできるだけ夾雑成分を除いてから使用。 |
図1~2に逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー(ヒドロキシアパタイト)によるタンパク質、ペプチドの分析例を示します。いずれの場合も目的に応じ種々の方法を使い分けていくことが必要です。