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【連載】なるほど !! ELISA -基礎とコツ- 「第4回 ELISA の操作法とそのポイント(後編)」

本記事は、和光純薬時報 Vol.86 No.1(2018年1月号)において、若林克己著「ELISA A to Z」をもとに株式会社シバヤギで編集し掲載いただいたものです。

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ポイント⑧;ELISA の反応温度・湿度

キットにより反応温度が指定されていますので一定の温度で指定温度を維持できるよう環境を整えることが重要です。夏は外気温が 30℃ を超える日も多くなってきます。出入りが多い部屋や開放された部屋では温度管理ができません。反応温度が高いとブランクや高濃度の標準溶液の吸光度の上昇が起きやすくなります。発色反応が進みすぎると高濃度付近の測定が正確にできません。温度管理には充分注意しましょう。

冬になりだんだん気温が下がってくると気を付けなければならないのが湿度です。室温化時間や反応温度も重要ですが、湿度も重要です。冬は外気の湿度も下がりますが、暖房を入れている部屋の湿度はさらに下がります。湿度が30%以下(目安です)で、なお且つ空気の対流がある場所で反応させることは避けましょう。

静置反応中に分注した溶液が蒸散しその部分に非特異吸着が起こり、ブランク値上昇の原因となります。そのような環境でどうしても測定しなければならない場合は静置反応時にプレートシールを貼り反応させるようにしましょう。

プレートシールが貼れない場合(測定を機械化している場合)で、プレートカバーで対応可能な場合はプレートカバーを使いましょう。プレートシールに比べると効果は弱いですがしないよりは良いでしょう。

ポイント⑨;ELISA の各過程における偶然誤差(バラツキ)の生じる要因

96 ウェルプレートにおける要因
  • 温度が不均一になっていませんか?
試料における要因
  • 試料の濃度が不均一(凍結融解で起こる溶質の不均一分布)ではありませんでしたか?
  • 試料の希釈により不均一(攪拌不良による溶液中での濃度の偏り)ではありませんでしたか?
試料・標準品添加と結合反応における要因
  • 試料(標準品)のピペッティング(ピペット選択、使用者の手技)に問題はありませんでしたか?
  • 温度のバラツキ(エッジ現象)、時間的バラツキ(測定者の手技)はありませんでしたか?
試料添加(1 次反応)後の最初の洗浄操作における要因
  • 洗浄液を溢れさせてしまいませんでしたか?隣のウェルに影響がでることがあります。
  • 洗浄液の残りはありませんでしたか?
酵素標識抗体(ビオチン標識抗体)添加と反応における要因
  • 温度のバラツキ、時間的バラツキはありませんでしたか?
  • 標識抗体の非特異的吸着はありませんでしたか?ブランク値は高くないですか?
発色液添加と反応における要因
  • 温度のバラツキ、時間的バラツキはありませんでしたか?
吸光度測定における要因
  • プレートのウェル間の吸光度のバラツキ(ウェル底部の傷、底部の壁の厚さなどによる)はありませんでしたか?
  • 吸光度測定の精度(複数光度計の不均一)に問題はありませんか?メンテナンス状況を確認しましょう。

系統誤差:偏りについて-なぜ偏った測定値が出るのか

標準品に関して

純度不良、重量測定の偏り(例えば水分吸収)、希釈の偏り、吸着現象、構造上の差異(リコンビナント)など。

測定試料に関して

採取方法(溶血、乳ビ)、保存方法(変性)、分解酵素の存在、結合タンパクの存在、測定対象物質の構造多様性、測定に用いる酵素の活性を阻害する物質の添加、標準液とは別ピペットで試料を添加など。

抗体に関して

抗体が標準品と試料中の測定対象物質を等しく認識しない。特異性が不充分で他の物質も測り込んでしまう。

測定系、測定法に関して
  • 検量線作成系と試料反応系に乖離が生じている。例えば検量線系のウェルが端にあるために起こるエッジ効果、試料の構成成分による抗原抗体反応の速度、反応平衡への影響。
  • 吸光度測定装置の測定に偏差(例えば光検出器に偏差)がある。
  • 呈色の時間的減衰。
  • 検量線回帰式がうまくフィットしていない(真度がずれている)。

ポイント⑩;手技の比較

ELISA の手技は一見やさしそうで、それがまた ELISA の「売り」でもありますが、proficiency が要求される手技でもあります。分析法バリデーションでの室間再現精度の検討は一方では測定室や測定者の技能検定(proficiency test、PT)にも応用されます。

定期的に均一な材料から取り出した試料を測定者に配り、分析の結果を計画実施管理者に報告してもらい、その結果をすべてのデータと共に各測定者にフィードバックします。これによって手技などの見直しが行われ、次の分析に反映されることになります。

技能判定の基準のひとつに Z score があります。

z =( x - xa)/σ

x:一人の測定者で得られた測定値
xa:数名のエキスパートの測定値の平均値
σ:実験結果の標準偏差の目標値

判定は Z スコアの絶対値が 2 よりも小さい場合は満足できる結果を出したとされ、2 <|z|< 3 の場合には信頼性が低い、|z|> 3 の場合には容認できないとされます。

ELISAトラブルシューティング

D:ブランク(ゼロ濃度)の吸光度が高い

原因と対策

  1. ウェルの乾燥の可能性
    各ウェルの洗浄液を除いてから次の試薬溶液を添加するまでの時間が長い場合、または各ウェルに直接空調機などの風が当たり、ウェルが乾燥した可能性があります。
  2. 濃縮液として供給されている試薬の希釈率の誤り
    指定された希釈率になっているかどうか確認しましょう。
  3. 洗浄の不完全
    自動プレート洗浄機を用いる場合は、キットに適した洗浄条件の設定が必要な場合があります。設定を正しく行ってから使用しましょう。吸引、排出ノズル位置、列ごとの吸引量、洗浄液噴射の圧力、吸引後の残量などの確認が必要です。
    マニュアルでの洗浄の場合は洗浄効果が不足していることが原因として考えられますので、洗浄回数を所定の回数より増やすことにより解決するケースもあります。特に酵素結合物反応後の洗浄が重要です。洗浄液をウェルに満たし、軽く10 秒ほど手のひらの上で揺らせてから捨てると効果的です。
  4. 反応過剰の可能性
  5. プレートは正しい温度で、決められた時間でインキュベートしましょう。

E:二重測定のウェル間のバラツキが大きい

原因と対策

バラツキすなわち測定精度が大きくなってしまう主な原因は、反応の不均一な進行とピペッティングのバラツキ、及び検体の不均一性です。

反応を不均一にするさまざまな要因
  1. 洗浄液を吸引する際、アスピレーターを使ったためにウェルの底を引っかいた。
  2. 試薬添加の際ピペットの先端がウェルの底を引っかいている。
    8連、12連ピペットで試薬を加えるとチップをウェルプレートに平行にすることが難しく、ウェルの底部を引っかく可能性が大きくなります。
  3. プレートが充分に反応温度と同じになっていないため反応進行に差が生じた(エッジ現象)。
  4. プレートにエアコンの冷風(夏)や機械の冷却装置の吹き出し口からの温風が当って温度を偏らせた。またプレートの傍にストーブや発熱する機器があると、輻射熱でエッジ現象が起こります。
  5. エアコンやパソコンなどの温風が当ってウェルを乾燥させてしまった。
  6. 洗浄液が完全に除去されておらず、ウェルに残っていた。
ピペッティングのバラツキ、特に標準溶液や検体をウェルに加える際のピペッティングのバラツキはそのまま測定値のバラツキに結びつきます。
ピペットの詰まり

血漿を凍結保存すると、融解した際にフィブリンが析出していることがあります。これをそのままピペットでサンプリングするとフィブリンがチップの先に詰まり、正しい液量を量りとることができなくなる可能性があります。

検体の不均一

検体は測定まで凍結保存し、測定の際に融解することが多いですが、血清や血漿は凍結の際と、融解の際にタンパク部分が後で凍り、先に融けるということが起こり、その結果保存容器の底部が濃く上部が薄い状態になりやすいです。

そのままサンプリングすると1回目と2回目では濃度が違うことになり、ウェル間のバラツキが大きくなります。凍結保存したタンパク溶液は必ず攪拌して均一にしてからサンプリングしましょう。

8連、12連ピペットをお使いの方は各チップに採取・排出される液量が等しいかどうかを検定してから使用しましょう。

F: 標準曲線は取扱説明書通りに描けるが、検体の測定値を読み取れないか、読み取れても異常値となる。

原因と対策

すべての検体で吸光度が低い

測定物質の失活
 ⇒・失活防止に分解酵素阻害剤添加 ・保存条件の検討
検体に酵素阻害剤(N3 -、F-
 ⇒・使用を止める ・検体添加後の洗浄を充分にする
反応妨害物質の存在
 ⇒・添加回収試験 ・希釈直線性試験を試みる
検体の凍結による影響
 ⇒・ ごく少量の血清や血漿を比較的大きな容器に入れて凍結保存すると水分が蒸散して血清や血漿が濃縮されタンパク濃度が上がり反応を阻害したり、測定物質が変性したりする可能性があります。マウスの検体は特に量が少ないので注意しましょう。できるだけ小さいチューブを使用し測定前に充分に攪拌して下さい。

組織や細胞からの抽出検体、クロマトや等電点分離での分画検体で測定値が得られない。

検体の pH が ELISA の測定限界を超えている。
 ⇒・緩衝液で希釈し、中性化してから測定する
 ⇒・少量の酸、塩基で中和してから測定する
抽出液に有機溶媒が入っている
 ⇒・ 有機溶媒は抗原抗体反応を妨害するので緩衝液で希釈する。pH に注意。
    緩衝液で希釈してみて、アッセイできればその方法が良いでしょう。

検体の測定値が高すぎる(低すぎる)

他の報文よりも高い(低い)
 ⇒・ その報文のキットと当該キットの標準品の純度が異なっている
いつもの測定値よりも高い
 ⇒・今回のキットの標準品が変性している
いつもの測定値よりも低い
 ⇒・検体保存中に失活(事故)

検体の測定値に関する判定は、管理血清(positive control)(同一検体などを小分け保管してあるもの)を測定ごとに検体として加え、同一の測定値が得られるかを確認するようにしましょう。

本記事は、若林克己著「ELISA A to Z」(株式会社シバヤギ発行)をもとに、株式会社シバヤギで編集したものです。

ELISA A to Z について

私は微量測定法としてのRadioimmunoassay (RIA)の導入を放射線医学総合研究所で始め、その後群馬大学でも研究者への啓蒙を長く続けてきました。RIA はごく少量の抗体と抗原さえあれば簡単に組み立てられる、いわば貧者の測定法ですが、RI を使用する制約と理論的にも測定感度の限界がありました。

退官後関与した株式会社シバヤギで、ELISA に乗り換える必要から始めてみると、ELISA の長所が分かり、その技術を brush-up することに努めました。そして総まとめとして"ELISA A to Z"を書き上げました。ELISA の使用法と注意点とを初歩の使用者にも理解できるように作成したものです。

若林克己

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