【連載】Talking of LAL「第2話 エンドトキシン(前編)」
本記事は、Wako News No.2 (1990年10月号)において、和光純薬工業 土谷 正和が執筆したものです。
第2話 エンドトキシン
発熱性物質(pyrogen)の代表格であるエンドトキシン(endotoxin)は、種々の生物活性を有しており、その本体はグラム陰性菌の外膜に存在するリポ多糖(LPS)であると考えられております。エンドトキシンは、その強い発熱性から注射用薬剤等への混入が恐れられ、主にウサギ発熱性試験によって検査されてきました。リムルステストで検出しようとしている物質はこのエンドトキシンなのです。
エンドトキシンの構造、生物活性等については成書1,2)を参考にしていただくとして、今回はリムルステストにおけるエンドトキシンの問題点について考えてみたいと思います。
2-1 エンドトキシンの熱安定性
リムルステストに使用する器具は、一般に乾熱滅菌によってエンドトキシンフリーとします。それでは、一体どの程度の乾熱滅菌を行なえばエンドトキシンを失活させることができるのでしょうか。
エンドトキシンは従来より耐熱性毒素として知られており、乾熱滅菌によってエンドトキシンを十分に失活させるには、250℃、30分以上という過酷な条件が必要と言われております。E.coli UKT-B 株由来の LPS 500ng を用いた筆者の実験でも、熱によるエンドトキシンの失活は、通常の滅菌条件である 180℃や 200℃では十分に起こらず、250℃ 1 時間ではじめて検出限界以下となりました(Fig.1)3)。
やはり、リムルステスト用の器具は、よく洗浄して汚染をできるだけ少なくした後、十分な温度と時間で乾熱滅菌を行う必要がありそうです(筆者らは 250℃、2 時間を標準としています)。
一方、低濃度のエンドトキシン水溶液では、熱による活性の低下が認められ、必ずしも熱に安定とは言い難いようです。筆者らの実験でも、低濃度のエンドトキシン溶液は、37℃で少なくとも 24 時間安定であったのに対し、70 ℃では活性の低下が認められました(Fig.2)3)。
また、溶液中の微量のエンドトキシン活性がオートクレーブにより検出できなくなることもよく経験することです。すなわち、エンドトキシン水溶液は乾燥品ほど熱に安定でなく、低濃度では加熱により検出限界以下まで活性を低下させることも可能と考えられます。ただし、乾熱滅菌以外の方法でエンドトキシンの不活化を行う場合は、必ずリムルステストによる確認試験を行う必要があると考えます。
参考文献
- 本間遜 監修:内毒素-その構造と活性-, 医歯薬出版, 東京(1983)
- Handbook of Endotoxin (Ed, : Proctor, R.A.), vol.1-4, Elsevier, Amsterdam (1986)
- 土谷正和:防菌防黴, 18, 287 (1990)