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いまさら聞けない!? カールフィッシャー水分測定法のコツ

本記事は、日東精工アナリテック株式会社 営業推進部 寺田 達士様に執筆いただいたものです。

はじめに

皆様、何か水分測定でお困りのことはございませんでしょうか。水分測定は一見簡単そうで、実は意外とコツがございます。例えば同じ試料を測定しているはずなのに再現性が悪い、水分量が想定よりあきらかに多くなったり、少なかったり、あるいはサンプリングがうまくできないなどご経験されたことはないでしょうか。このようなお悩みにつきましては弊社へもよくお問い合わせをいただくことがございます。今回はこれらお悩みを解決いただくためのお話をさせていただきます。たとえばひとくちに「再現性が悪い」と言いましても様々な要因が考えられます。一般的な化学の実験においても、同じ手順で測定を行ったとしても試薬のロットであったり、温度、湿度が異なることにより結果が変わってしまうことはよくあることかと思います。試薬のロット、試薬の管理方法、測定方法、手順など、どこにどのような問題があるのか、皆様に考えていただくきっかけとなればと考えております。是非日頃の測定業務について思い返していただきながらお読みいただけますと幸いです。

容量法 力価標定を行う「前」のコツ

容量法での水分測定にあたり、試料の測定前に試薬の力価標定を複数回実施しますが、その際力価が変わっていくことがあります。最も考えられる要因としては、試薬瓶の中で濃度勾配ができていることがあげられます。日常的に測定を行わず期間を空けて使用する際に起こり得る現象ですが、滴定剤の試薬瓶を長い時間動かさずに保管すると試薬中に含まれるヨウ素が瓶の底に溜まり、上層と下層でヨウ素の濃度が変わることがあります。このような状況で、力価標定を行うと試薬瓶の底のほうから配管で試薬を吸い上げるため、測定を繰り返すうちに、力価が変わっていくということが起こりえます。そのため使用前に試薬瓶の蓋を一度しっかり締め、よく振ってから水分計につなぐようにしてください。

コツとしては瓶の蓋のあたりを片方の手で固定し、もう一方の手で回すように振りますと試薬に気泡が入りにくくしっかり試薬を攪拌、均質化することができます。さらに試薬瓶を水分計の配管に接続した後は、水分計の操作でビュレット置換を行うことで、試薬瓶、ビュレットおよび配管の共洗いをすることができます。これにより試薬瓶からビュレットを通し滴定用のガラスノズルまでに存在する試薬の力価が均質化されますので、力価の値がばらつきにくくなります。

容量法 力価標定をする「時」のコツ

以上の点にご留意頂いた上でまだ力価がばらつくという場合は力価標定時、投入する水が全量しっかりフラスコに入っていない可能性があります。水は試料投入口からスポイトなどで投入されているかと思いますが、その際、横から見ながら投入しますとスポイト先端が投入口にあたり、水が付着してしまう可能性がありますので、投入口を上から覗くようにして全量をしっかりフラスコ内の脱水溶剤へ投入してください。

また、投入した水の重量を正確に測る必要がありますので、秤量が終わるまでは水をこぼしたり、スポイトの先端を拭かないようにするなど、注意していただくとより正確に力価標定ができるようになります。

試薬の劣化を確認するコツ

気化装置をお使いの場合は、ガスの影響と切り分けて確認するために気化装置のガス吹込みノズルを外し、密閉栓をした状態で確認をお願いいたします。
最初に電解セル、フラスコの密閉性が十分であるか、内面が汚れていないかを目視確認し、必要に応じ洗浄、乾燥し、専用グリースを適切に塗布してください。密閉性に問題がなく、電解セル、フラスコも目立って汚れていない状態での装置稼働にもかかわらず無水化が終了しない場合は試薬の寿命、劣化が考えられるため、試薬の交換をお願いいたします。なお試薬は一度瓶を開けますと再度蓋をして保管しても少しずつ外気から吸湿し劣化していきます。試薬を交換しても改善しない場合は試薬瓶の中の『試薬』も劣化している可能性があります。通常であれば無水化は30分以内に終了しますので、例えば電量法において試薬を交換しても1時間以上無水化が終了しない場合は、一度新品未開封の試薬でのご確認を推奨いたします。容量法におきましても、滴定剤が吸湿により劣化すると力価が低下するため、無水化に時間がかかるようになり、また本来の能力を発揮できなくなります。そこで次に使いかけの試薬瓶の保管のコツについてご紹介させていただきます。

使いかけの試薬を保管するコツ

試薬は開栓後、特にその後しばらく使用しない、あるいは使用頻度が低い場合は外気からの吸湿を防ぐため、保管方法にご注意ください。当たり前のことではありますが、キャップをしっかり締め、加えて試薬瓶と蓋の隙間を埋めるようにシールテープなどでしっかり封止していただけますと吸湿による試薬の劣化を抑えることができます。また、保管場所につきましては冷暗所など、湿度の低い環境を推奨いたします。

液体試料の測定手順(水標準試料)

水標準試料

⓵5mLガスタイトシリンジを標準試料で共洗い(約1mL)
②標準試料約3mLを採取し、針先を密栓する
③約1mLずつ注入し測定を行う(3回測定の平均値で適否を判断する)

ガスタイトシリンジはコンタミネーションがおこらないよう試料採取前に針を拭いてからご使用ください。水標準試料のアンプルを折る際はガラスの破片でけがをしないようご注意ください(アンプル瓶の開け方)。開封後は外気の水分を吸わないようパラフィルム又は市販のゴム栓を用いてしっかり封止します。ゴム栓につきましては営業担当までお問い合わせいただければ推奨品をご紹介いたします。

水標準試料の準備を行った後、ガスタイトシリンジに約1mL採取し、プランジャーを引いて内部を広く共洗いします。共洗い後はビーカー等に試料は排出しその後適切な処理を御願いします。その後3回の測定のため水標準試料を約3mL採取します。ガスタイトシリンジのピストンは固いのでゆっくり慎重に行います。試料採取後はプランジャーを少し引き、針を拭い、その後先端にシリコンゴム片を刺します。プランジャーを引き封止する事により液だれ、揮発等を防ぐことができますので、この状態で天秤に乗せて試料、風袋込みの質量を測ります。準備完了後、水分計のスタートボタンを必ず先に押し、シリコンゴム片を外し、針先のカット面を下向きにした状態で試料注入栓に針を刺し、試料約1mLを注入します。針先の試料が注入栓などに付着する事を防ぐため、注入後は忘れずにプランジャーを少し引いてから引き抜いてください。シリンジは再度シリコンゴム片で封止し、残りの測定分の試料が残っていることを確認し、その後天秤で秤量します(減量分が試料注入量となります)。測定が終了する前後に水分計に試料注入量(g)を入力します。これで1測定が終了となりますのでサンプリングした試料を同じ手順であと2回注入し再現性を確認します。

以上はアクアミクロン™水標準試料における測定手順となります。本試料は吸湿性が高いため、3回分の試料を1度に採取するなど注意深い取扱いが必要です。皆様が測定する実試料につきましては試料の性状や濃度に合わせたサンプリング方法での測定をお願いします。今回のお話が少しでも皆様のお役に立てればと思っております。今後とも水分測定、試薬の取扱い等におきましてお困りごと等ございましたらお気軽にお問合せください。

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