メタボローム分析と質量分析イメージングの融合
本記事は、株式会社ミルイオンが発行している「コラム」をもとに掲載しています。
はじめに
キャピラリー電気泳動質量分析法(CE-MS)や液体クロマトグラフィー質量分析法(LC-MS)を用いた水溶性代謝物の一斉分析はメタボローム分析と呼ばれています。CE-MSでは約140種類、LC-MSでは約80種類の代謝物を一斉検出することが可能です。また、サンプル群間における半定量的解析やターゲットを絞った絶対定量も可能となっています。このように、CE-MSやLC-MSにおけるメタボローム分析は、近年、癌研究をはじめとする様々な場面で活躍しています。
しかし通常のメタボローム分析で失われる情報があります。それは、「分布情報」です。通常のメタボローム分析の場合、図1に示す通り代謝物の抽出・精製工程を経て分析が行われます。抽出時に試料はすり潰されることから、分布情報は失われてしまいます。この分布情報を提供する技術は、質量分析イメージング(MSI)として知られています。
MSIとその利用法
MSIは図2に示す通り試料ブロックから切片を作製し、試料表面上で直接質量分析を行い分子の分布情報を得る手法です。MSIは図3に示す通り2通りの利用方法があります。1つは予めターゲットを決めずに広いm/zの範囲でシグナルを検出し、多変量解析により特徴量を抽出する手法です。この方法を成功させるためには、高い質量分解能を持つ質量分析計が必要となります。
もう1つは、予めターゲットを決めて、そのターゲットの分布情報を取得するというものです。この方法の適用例として、メタボローム分析の結果が既に得られていて、その中で特徴的な分子の分布情報を得たい場合が考えられます。
例えば、ある特徴的な分子が癌の領域に蓄積しているのか、それとも間質に蓄積しているのか?や脳のどの領域で蓄積しているのか?などの問いに答えを示すことが可能になる技術と言えます。
実施例
図4に、大腸腺腫(アデノーマ)内における乳酸の蓄積を可視化した例を示しました。癌のサンプルをメタボローム分析した場合、乳酸が特徴的な分子として上がってくることが多いです。これはワールブルグ効果(好気的解糖)と呼ばれるもので、癌細胞は酸化的リン酸化でATPを得るのではなく、好気条件下でも解糖系を利用してATPを得ます。このワールブルグ効果では最終産物として乳酸が産生されます。したがって、アデノーマに蓄積している乳酸はワールブルグ効果を表していると考えられます。
まとめと展望
メタボローム分析とMSIの融合は今後非常に重要な解析手法になると考えられます。ただし、MSIにも弱点はあります。それは全ての代謝物がイオン化するかどうかは検討してみないとわからず、場合によっては検出できないということもあり得ます。これはCE-MSやLC-MSで用いられるイオン源であるエレクトロスプレーイオン化法とMSIで用いられるマトリックス支援レーザー脱離イオン化法でイオン化効率が異なることに由来します。株式会社ミルイオンでは、これまで様々な代謝物を可視化してきた経験から、最適なソリューションを提供することが可能です。
またATPなどの高エネルギーリン酸結合を含む分子や酸化・還元型グルタチオンの検出では、通常in-source decayと呼ばれる現象が起きるため、場合によっては特殊な前処理法が必要となります。非常に単純な構造を持つグルコースにおいても、構造異性体が存在することからグルコース特異的に分布を得ることは通常困難です。我々はこのような分子に対しても、特許出願した技術を使って最適な結果を提供することが可能です。
現状では、癌を含む疾患の解析や中枢神経系の解析において、メタボローム分析とMSIを融合した研究が多く見られます。今後は「脳腸相関の解析」や「腸内細菌叢の解析」にもMSIが活躍する時が来るかもしれません。我々はそのような場面でも、他の受託分析会社ではできない技術を提供していきたいと考えています。
株式会社ミルイオンは、研究者皆様の「見たい」を形にします!皆様の研究に是非我々の技術をご活用ください。