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高分子と低分子の間にある壁(分子量分布)

本記事はWEBに混在する化学情報をまとめ、それを整理、提供する化学ポータルサイト「Chem-Station」の協力のもと、ご提供しています。

高分子化学の概念図

概要

「有機化学」は慣例的に有機低分子を扱う化学とされ、高分子を扱う「高分子化学」とは区別されます。両者の間にある違いについて紹介します。

2つの分子量 ~数平均Mnと重量平均Mwは何が違う?~

分子量分布は高分子化学の教科書の最初の方に出てきますが、低分子の合成のみに関わる人にとってはとっつきにくい概念かもしれません。低分子では十分に精製して、単一分子を議論することが多いため、様々な分子量の分子が混ざっている高分子を直感的に理解しにくい場合があるようです。

高分子化学では大きく分けて、数平均分子量Mnと重量平均分子量Mwという2種類の分子量があります。低分子のように単一分子であれば、MnMwが一致し、分布を持つとMn < Mwとなります。よって、Mw / Mnの値が大きいほど分布が広く、小さいほど分布が狭いことになり、1に近づくほど単一分子に近づくことになります。

この2つの分子量MnMwの使い分けは、ざっくり言ってしまえば、Mnは計算用、Mwは物性議論用となります。極端な例として、分子量1,000の分子と1,000,000の分子が同じ"数"だけ入っている高分子で考えてみます。

1g中に何molの分子があるか?と言われたら、
1000*(x/2)+1000000*(x/2) = 1ですから、x = 1/500500(= 1.998E-6)になります。

一方、数平均分子量では、それぞれの分子の(個数)存在比は1/2ですから
Mn = 1000*(1/2)+1000000*(1/2) = 500500
となり、1g中何molかという計算をMnを用いて計算しても同じ答えになることがわかります。

一方、1g中何gが分子量1000の分子か?と問われたら、
上記のxの値を利用して、
1000*(1/500500)/2 = 1000/1001000 = 0.000999gとなり、
同じ個数とはいえ、分子量1000の分子はほとんど入っていないことになります。逆に分子量1000000の分子は0.999001g入っているということです。両分子の密度が同じだとすると、この分子の体積のほとんどが分子量1000000の分子で占められていることになります。

この高分子を使った膜の強度や耐熱性を測定する場合は、ほとんどを占めている分子量1000000の性質が色濃く反映されると考えるのが自然ということになります。これを加味した分子量として重量平均分子量Mwが使われています。

この高分子の場合のMwは、
Mw = (1000*1000/1001000)+(1000000*1000000/1001000) = 999001
となり、Mnと比べてかなり1000000に近いことがわかります。

分子量設計 ~狙った分子量のポリマーをどうやって作る?~

高分子材料を評価する場合、必ずどこかで「分子量効果」を調査します。そのときはMw = 5000, 20000, 50000というように、Mwで狙いをつけて合成します。材料の物性と分子量の関係を見たいので、Mwを基準とするのは自然の感覚です。

ポリウレタンなどは仕込みモノマー比から理論的な分子量を簡単に計算できます。反応の濃度や温度は基本的に関係ありません(もちろん例外はあります)。ここで計算できる分子量はMnなのですが、分布(Mw / Mn)は同じ合成をしているとあまり変化しないので、一度経験があれば狙ったMwで合成することも容易です。

一方、アクリル樹脂は、ウレタン樹脂ほど一筋縄ではいきません。アクリルの溶液重合では、モノマー、重合開始剤、溶剤をフラスコに入れますが、モノマー濃度、開始剤濃度、重合温度、そしてそれぞれの添加方法(何を最初にフラスコに入れて、何を滴下するか)など、様々なファクターが分子量に影響してきます。このあたりは研究者各自のノウハウなどが活かされる領域です。

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