【クロマトQ&A】HPLC分析では必ずHPLC用を使わないといけないのでしょうか。他用途の製品と何が違うのですか
本記事は、Analytical Circle No.24(2002年3月号)に掲載されたものです。
HPLC分析で移動相を調製するのに有機溶媒を使用しようと思いカタログを見ると、様々なグレードの製品が販売されています。必ずHPLC用を使わないといけないのでしょうか。他の用途の製品と何が違うのでしょうか。
ご質問のように、試薬として販売されている有機溶媒の多くには様々なグレードの製品が存在します。
例えばHPLCで汎用されているアセトニトリルの場合、HPLC用の他、分取クロマトグラフ用、試薬特級、試薬1級、環境分析用、残留農薬・PCB分析用、アルデヒド分析用、分光分析用、核酸合成用、有機合成用、NMR用をはじめとする多くのグレードがあります。
このように多くのグレードの製品が存在するのは、それぞれの目的にかなった品質を有する製品が求められるからです。目的にかなった品質とは純度が高いだけでなく特定の不純物の含量が低いという条件も含まれます。また用途の拡大・細分化に伴いグレード数が増加する一方、分析手法の改良・分析機器の高感度化に合わせ、品質向上が図られています。
次に具体的な例をあげ品質の相違点を説明します。表1にアセトニトリルのHPLC用と試薬特級の規格、図1に吸光度データを示します。HPLC用溶媒には、HPLC分析で安定した分析結果が得られる品質が求められております。ベースラインが安定している、一定の時間にピークが検出される、不純物ピークが検出されない、分析対象物が分解しないなどの条件を満たすことが必要です。そのためHPLC用では、吸光度、過酸化物、蛍光試験、グラジエント試験など、特級よりも多くの試験を行い、普通のHPLC分析で問題無く使用していただける品質を保証しています。別のいい方をすれば、HPLC用以外のグレードの溶媒を使用する場合、ベースラインの変動、ノイズの増加、分析対象物の分解など、測定に支障をきたす可能性が高いという事です。また測定への支障とは別に、カラムに対する影響も考えられます。
表1.アセトニトリルのHPLC用と試薬特級の規格
試薬のグレード | HPLC用 | 試薬特級 | |
---|---|---|---|
外観 | 無色澄明の液体 | 無色澄明の液体 | |
含量(cGC) | 99.8 %以上 | 99.5 %以上 | |
密度(20℃) | 0.780~0.782 g/mL | 0.780~0.784 g/mL | |
屈折率 n20D | 1.343~1.346 | 1.343~1.346 | |
吸光度 | 200 nm | 0.05以下 | ー |
210 nm | 0.03以下 | ||
220 nm | 0.02以下 | ||
230 nm | 0.01以下 | ||
240 nm | 0.005以下 | ||
水分 | 0.05 %以下 | 0.1%以下 | |
不揮発物 | 0.001 %以下 | 0.005 %以下 | |
酸(CH3COOHとして) | 0.001 %以下 | 0.01 %以下 | |
過酸化物(H2O2として) | 5 ppm以下 | ー | |
過マンガン酸還元性物質 | 試験適合 | 試験適合 | |
蛍光試験 | 試験適合 | ー | |
グラジエント試験 | 試験適合 | ー |
従ってHPLCで有機溶媒、特にHPLC用以外のグレードを使用する場合、分析に適した品質であることを確認してから使用する必要があるといえます。