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【クロマトQ&A】同じグラジエント条件で他のHPLC 装置を使ったらうまく再現しません。

本記事は、Analytical Circle No.14(1999年9月号)に掲載されたものです。

HPLC でグラジエント分析法を用いて分析していますが、同じグラジエント条件で他のHPLC 装置を使って分析してもうまく再現しません。他の装置で再現性良く分析するための注意点を教えて下さい。

HPLC 分析では、一定組成の溶媒で溶離するイソクラティック分析法と、ご質問にある、時間とともに移動相組成を変化させて溶離するグラジエント分析法が用いられています。移動相の溶媒混合比、イオン強度、pH などを時間とともに凸型、直線型、凹型に変化させます。ODS など逆相充てん剤カラムを用いた分析では、溶媒の混合比を直線型に変化させる手法が多くとられます。目的は、(1)保持能(k')が小さく溶出が早いため分離が不完全な成分の分離の改善、(2)k'が大きく遅れて溶出する成分の、ピークの広がりを抑制する事による検出感度の向上、(3)分 析時間の短縮、などで、一般に広く用いられています。

しかしご質問にあるように、場合によっては装置によりデータの再現性が得られず問題になる事があります。図1 に機種の異なる装置を用い、同一カラム(ODS)、同一グラジエント条件で分析した場合の、それぞれの装置で得られたクロマトグラムを示します。この場合分離パターンに差は認められないものの、保持時間には大きな違いが認められます。送液ポンプの流量精度も重要な要因ですが、最大の原因はグラジエントミキサーの容量と配管容量の違いにあります。図2 に同一装置を使用、ミキサー容量のみを段階的に変化させた場合のクロマトグラムを示します。ミキサー容量が減少するにつれ、クロマトグラムの保持時間は短くなっています。この現象は配管容量を変化させた場合にも認められ、配管容量が減少するにつれ保持時間は短くなります。イソクラティック分析法の場合は、配管容量の変化が保持時間の変化として表れるのに対し、グラジエント分析法の場合には、それ以上に容量の変化が保持時間の変化として表れるため注意が必要です。

  • 図1.使用する装置によるクロマトグラムの変化
    図1.使用する装置によるクロマトグラムの変化
  • 図2.グラジエントミキサー容量の影響
    図2.グラジエントミキサー容量の影響
図3.アセトングラジエントカーブ

この問題を解決するにはグラジエントミキサーの容量と配管容量を調整する必要があります。その指針となるチェック方法の一例をご紹介します。それは設定したグラジエントカーブと実際のグラジエントカーブのズレを測定するものです。図3 のようにカラムの代わりに配管を取り付け、移動相中のアセトンの比率を変化させた時の吸光度を測定します。例えば、装置A から装置B に変更する場合の手順を次に示します。(1) 装置A,B のグラジエントカーブを測定する、(2) 測定されたグラジエントカーブが同じ場合はそのまま移行可能、(3) 異なる場合は装置B のグラジエントカーブが装置A と同じになるようにミキサー容量や配管容量を変更して移行する、となります。

以上、グラジエント分析法で装置間の再現性が悪い時の原因、チェック方法について説明しました。この方法はHPLC 装置のバリデートやトラブル発生時にも有効な方法であると思われますので、一度お試し下さい。

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