【テクニカルレポート】グラジエント分析時の注意点について
本記事は、和光純薬時報 Vol.64 No.4(1996年10月号)において、和光純薬工業 大阪研究所 上森 仁志が執筆したものです。
HPLC分析においては、通常一定組成の溶媒で溶離するイソクラティック分析法と、時間とともに移動相の組成を変化させて溶離するグラジエント分析法が用いられている。グラジエント分析法は、移動相の溶媒混合比、イオン強度、pHなどを時間とともに凸型、直線型、凹型に変化させ(ODS充てん剤など逆相系では溶媒の混合比を直線型に変化させる場合が圧倒的に多いが)、保持能(k')が小さく溶出が早いため分離が不完全な成分の分離度の改善や、k' が大きく遅れて溶出する成分のピークの拡がりを抑制して検出感度を高めたり、分析時間を短縮する目的で広く利用されている。
ところが、このグラジエント分析において最大の問題は、装置によりデータの再現性が得られにくい点にある。図1. に機種の異なる装置を用いて、同一グラジエント条件(ODS系)にて測定した場合のクロマトグラムの変化を示した。
この場合、分離パターンに差は認められないものの保持時間には大きな違いが認められる。この原因として、送液ポンプの流量精度も重要な要因ではあるが、最大の要因はグラジエントミキサーの容量と配管容量の違いにある。
図2. に同一装置を使用し、ミキサーの容量のみを段階的に変化させた場合のクロマトグラムの変化を示した。ミキサー容量が減少するにつれて、その保持時間は段階的に短くなっているが、イソクラティック分析法の場合に、容量の変化が直接保持時間の変化として表れるのに対して、グラジエント分析法の場合には、それ以上の変化として表れるため注意が必要である(この現象は配管容量を変化させた場合にも認められる)。
この問題を解決するために、筆者らのグループでは、図3. に示したアセトングラジエント法により、設定したグラジエントカーブからのずれを測定して装置を変更する場合の指針としている。例えば、装置Aから装置Bに変更する場合の手順を示せば、(1) 装置A, Bのグラジエントカーブを測定する、グラジエントカーブが同じ場合はそのまま移行可能、異なる場合は、(2) 装置Bのグラジエントカーブが装置Aと同じになるようにミキサー容量や配管容量を変更して移行する、となる。
以上グラジエント分析時の注意点について、特に装置間差の問題と対処法について筆者らの経験から説明した。本方法は装置のバリデイトやトラブル発生時にも有効な方法であると考えている。