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【テクニカルレポート】UHPLC用カラム Wakopak® Ultra C18-2 を使用した大豆イソフラボン類の一斉分析

本記事は、和光純薬時報 Vol.81 No.2(2013年4月号)において、一般社団法人 埼玉県食品衛生協会検査センター 検査部 食品化学担当部長 尾崎 巌 様に執筆いただいたものです。

UHPLC(超高速液体クロマトグラフィー:Ultra High Performance Liquid Chromatography)は、粒子径2µm前後の充填剤を用いたカラムを使用することにより、分析時間の短縮、標準的な長さのカラムを用いた時の高分離が可能な液体クロマトグラフィーです。ここでは、UHPLC用カラムを使用した大豆イソフラボン類の一斉分析について紹介します。

はじめに

エストラジオールとダイゼイン

大豆イソフラボンは、大豆、特に大豆胚芽に多く含まれる成分であり、女性ホルモン(エストロゲン)と分子構造が似ていることから、植物エストロゲンと呼ばれています。

大豆イソフラボンは通常、糖が結合した構造をしていますが、糖がはずれた構造のものを大豆イソフラボンアグリコンといいます。大豆のイソフラボン類をHPLCにより測定すると、ダイゼインとその配糖体であるダイジン、そのアセチル化体のアセチルダイジン、マロニル化体のマロニルダイジン、同様にゲニステイン、ゲニスチン、アセチルゲニスチン、マロニルゲニスチンとグリシテイン、グリシチン、アセチルグリシチン及びマロニルグリシチンの12種類が確認でき、大豆では、ゲニスチン、ダイジン、マロニルゲニスチン、マロニルダイジンが大部分を占めています。

食品安全委員会の評価書

食品100 g中の大豆イソフラボン(アグリコンとして)の含有量(mg/100g)

食品名(検体数) 含有量 平均含有量
大豆(11検体) 88.3~207.7 140.4
煮大豆(3検体) 69.0~74.7 72.1
揚げ大豆(1検体) 200.7 200.7
黄粉(2検体) 211.1~321.4 266.2
豆腐(4検体) 17.1~24.3 20.3
凍り豆腐(1検体) 88.5 88.5
おから(1検体) 10.5 10.5
金山寺みそ(1検体) 12.8 12.8
油揚げ類(3検体) 28.8~53.4 39.2
納豆(2検体) 65.6~81.3 73.5
味噌(8検体) 12.8~81.4 49.7
醤油(8検体) 1.0~1.7 0.9
豆乳(3検体) 7.6~59.4 24.8

厚生科学研究(生活安全総合研究事業)食品中の植物エストロゲンに関する調査研究(1998)より

大豆イソフラボンは、大豆を原料とする加工食品のほとんどに含まれていますが、原料大豆の品種、産地等により含まれる量が異なります。含有量の比率はだいたい一定ですが、大豆の部位や加工、製造によって、比率は大きく変わってきます。

文献では大豆を煮た場合、例えば豆腐や豆乳などでは、マロニル化配糖体の比率が減少し、焙煎や焼いたりしたもの、例えばきな粉のようなものでは、アセチル化配糖体の比率が増加します。また発酵、酵素処理したもの、例えば味噌のようなものでは、アグリコンの比率が増加します。

イソフラボン類は抗酸化作用、エストロゲン作用、抗がん性が確認されており、大豆製品がその供給源として注目されているのはもちろんの事、近年では健康食品等も開発される程の機能性成分です。

大豆イソフラボン類の分析

大豆イソフラボン類の分析フロー

コンベンショナル分析によるHPLC条件

標準品:Daidzin, Glycitin, Genistin, Daidzein, Glycitein, Genistein<フジッコ株式会社>
    6"-O-Acetyldaidzin, 6"-O-Malonyldaidzin, 6"-O-Acetylglycitin,
    6"-O-Malonylglycitin, 6"-O-Acetylgenistin, 6"-O-Malonylgenistin<和光純薬>
カラム:Wakopak® Ultra C18-5 (粒子径5μm 150×4.6mm)
溶離液:A) 25mM リン酸二水素アンモニウム(pH4.0) :B) メタノール
    A/B = 75/25 → 1min → 40min → 30/70 → 45min → 30/70 → 45.1min → 75/25(平衡化 15min)
流速:0.50ml/min
カラム温度:40℃
検出:254nm
注入量:10µl

コンベンショナル分析によるHPLC条件

①ダイジン ②グリシチン ③ゲニスチン ④マロニルダイジン ⑤マロニルグリシチン ⑥マロニルゲニスチン ⑦アセチルダイジン ⑧アセチルゲニスチン ⑨ダイゼイン ⑩ゲニステイン ⑪グリシテイン ⑫アセチルグリシチン

UHPLC分析によるHPLC条件

標準品:Daidzin, Glycitin, Genistin, Daidzein, Glycitein, Genistein<フジッコ株式会社>
    6"-O-Acetyldaidzin, 6"-O-Malonyldaidzin, 6"-O-Acetylglycitin,
    6"-O-Malonylglycitin, 6"-O-Acetylgenistin, 6"-O-Malonylgenistin<和光純薬>
カラム:Wakopak® Ultra C18-5 (粒子径2μm 75×3.0mm)
溶離液:A) 25mM リン酸二水素アンモニウム(pH4.0) :B) メタノール
    A/B = 75/25 → 1min → 75/25 → 23min → 50/50(平衡化 5min)
流速:0.30ml/min
カラム温度:40℃
検出:254nm
注入量:2µl

UHPLC分析によるHPLC条件

①ダイジン ②グリシチン ③ゲニスチン ④マロニルダイジン ⑤マロニルグリシチン ⑥マロニルゲニスチン ⑦アセチルダイジン ⑧アセチルゲニスチン ⑨ダイゼイン ⑩グリシテイン ⑪ゲニステイン ⑫アセチルグリシチン

イソフラボン類のHPLCによる定量試験を行うには、標準品とのHPLCでのピークを比較しそれぞれ該当するイソフラボン類の標準品から算出した検量線から、その含量を算出します。

これまでは、コンベンショナル分析、つまり粒子径5μm 150×4.6mm のカラムを使用しイソフラボン類の分析を行ってきましたが、12成分を分離するためには1分析当たり50分を要しました<チャート1>。

現在主流の充填剤の粒子径を小さくした長さの短いカラム即ち粒子径2μm 75×3.0mm を使用することで、分離時間を短縮し、同じ分離能をもつ長いカラム(粒子径5μm 150×4.6mm)より短い時間で同等以上の分離を達成することができました<チャート2>。

又、チャート2からも解るように、ピークがシャープになったことにより、2μlインジェクションでも長いカラム(粒子径5μm 150×4.6mm)での分析と同等の感度を得ることができ、試料溶解液の影響を受けることなく分析することが可能となりました。

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