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【総説】令和8年4月の水道水質検査方法告示(告示法)の改正について

本記事は、和光純薬時報 Vol.94 No.2(2026年4月号)において、
国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部 小林 憲弘 様に執筆いただいたものです。

1 はじめに

水道水が水質基準に適合しているかどうかを判断するための検査は、環境省から発出されている検査方法告示(以下、告示法)1)に基づいて実施される。令和8年4月に、有機フッ素化合物の一種であるペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)及びペルフルオロオクタン酸(PFOA)が水道水質基準に位置付けられた(水質管理目標設定項目から格上げされた)2)等の理由により、告示法にも大きな改正があった。

今回の改正内容の要点は、①PFOS及びPFOAの検査方法(別表第45)の追加、②それに伴う市販標準液の使用規定に関する改正、③その他の改正、の3点である。本稿では、令和8年4月の告示法の改正内容について解説する。

2 PFOS及びPFOA検査方法の改正

PFOS及びPFOAの検査方法は、従来は水質管理目標設定項目の検査方法(以下、通知法)3)に記載されていたが、PFOSおよびPFOAの水道水質基準への格上げに伴い、一部を改正したものが告示法として設定された。

分析方法のフローを図1に示す。分析対象物質に対応する13C内部標準物質を検水に添加した後、固相抽出により精製・濃縮して試験溶液とし、液体クロマトグラフ-質量分析計(LC-MS)あるいは液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)を用いて、選択イオン検出(SIM)または選択反応モニタリング(SRM)で分析する方法である。内部標準物質は固相抽出前に検水に添加することにより、固相抽出を含む前処理全体でのロスを補正するとともに、内部標準法によりPFOS及びPFOAの濃度を求める。この検査方法は、国際標準化機構(ISO)4), 5)および米国環境保護庁(U.S. EPA)6), 7)等の検査方法を参考に、国内の16機関によるバリデーション試験による妥当性評価8)を経て設定されたものである。

告示法への設定にあたって、通知法から改正された点は主として以下の3点である。

(1)標準液の保存期間の改正:

通知法では使用するPFOS及びPFOAの標準液及び内部標準液は用時調製(開封後に検査に使用したかった余剰分は都度、廃棄すること)が規定されていたが、PFOS及びPFOAの市販標準液及び内部標準液は非常に高価であるため、用時調製は多大なコストが掛かる。そこで、12機関による市販標準液及び内部標準液の保存性の検証試験を実施した結果、密閉容器で冷凍保存することで、開封後6ヶ月時点までの安定性が確認できたことから、標準液及び内部標準液は冷凍保存で6ヶ月まで保存可能とした。

(2) 前処理における濃縮操作方法の改正:

通知法では検水500 mLを0.5 mLまで1000倍濃縮する方法であったが、500 mLの検水の通水に時間が掛かること(約100分)、1000倍濃縮することで試料によっては結晶が析出し、分析に支障が出る問題点があった。そこで、保有する機器の性能に応じて、固相抽出による検水の濃縮倍率を10〜1000倍の範囲内で選択できるようにした。また、使用する固相の形状・充填量等に応じて、溶出方向(順方向・逆方向)と溶出溶媒量(3〜5 mL)を選択できるように前処理方法が見直された。なお、濃縮後に結晶が析出した場合は、上澄み液を分取することとした。

(3) 測定モニターイオンに関する規定の改正:

水道水中のPFOS・PFOA等の分析では、直鎖以外に分岐異性体のピークが検出されることがあり、その場合は「直鎖体のピーク面積のみを用いて検量線を作成し、PFOS及びPFOAはそれぞれ直鎖と分岐異性体のピーク面積を合わせて濃度を算定する」ことが規定されている。しかし、PFOS・PFOAともにモニターイオンによって各異性体の感度が異なることから、特に分岐異性体のピーク面積が直鎖体よりも大きい試料では、測定モニターイオンが定量結果に大きな影響を及ぼす。そこで、全国の河川水、水道原水、水道水約100試料の実態調査を行った結果、PFOSではm/z 499(SIM)あるいはm/z 499>80(SRM)で、PFOAではm/z 413(SIM)あるいはm/z 413>369(SRM)で測定した場合は、濃度を過小評価せずに、概ね良好な精度が得られた。この調査結果に基づき、直鎖体の標準品を用いて定量する場合は上記のモニターイオンで測定することが規定された。

図1. PFOS及びPFOAの分析方法のフロー(赤字・下線は今回の改正箇所)
図1. PFOS及びPFOAの分析方法のフロー(赤字・下線は今回の改正箇所)

3 総則的事項の改正

PFOS及びPFOAが水道水質基準に位置付けられたことに伴い、告示法の総則的事項に記載の市販標準原液、標準液または混合標準液(以下、市販標準液等)の使用規定も併せて改正された。

総則的事項には、市販標準液等の使用に関する規定は次のように記載されている(下線は今回の改正箇所)。

水質検査における試薬は、次号から第53号までの各号の別表に定めるほか、次に掲げるとおりとすることができること。

(1) 試薬における標準原液、標準液又は混合標準液は、計量法(平成4年法律第51号)第136条若しくは第144条の規定に基づく証明書、独立行政法人製品評価技術基盤機構の認定制度に基づき認定された事業者が発行する認証書又はこれらに相当する証明書(以下この2において「値付け証明書等」という。なお、値付け証明書等は計量法の規定に基づく特定標準物質又は国家計量機関の認証標準物質へのトレーサビリティが確保されていることが示されていること。)が添付され、かつ、次号から第53号までの各号の別表に定める標準原液と同濃度のもの又は同表に定める標準液若しくは混合標準液と同濃度のもの(以下この(1)において「同濃度標準液」という。)を用いることができること。

(以下,略)

ここで、「計量法第136条若しくは第144条の規定に基づく証明書」とは、計量法に基づくトレーサビリティ制度であるJapan Calibration Service System (JCSS)の証明書を、「独立行政法人製品評価技術基盤機構の認定制度に基づき認定された事業者が発行する認証書」とは、同機構の認定センター(IA Japan)が運営する認定プログラム(ASNITE)の認証書を指す。

所定の審査を経てJCSSの登録が認められた事業者は「JCSS」のロゴが入った証明書を発行できる(図2A)。また、JCSS及びASNITEは、国際試験所認定協力機構(ILAC)の相互承認協定(MRA)に署名しているため、JCSSあるいはASNITE登録事業者は、ILAC-MRAとJCSS(図2B)あるいはASNITE(図2C)の認定シンボル(ロゴマーク)の入った証明書または認証書を発行できる。すなわち、JCSSあるいはASNITE認定シンボル付証明書または認証書は、国家計量標準へのトレーサビリティが確保され、かつ事業者の技術能力があることを示している。

今回の改正では、従来のJCSS証明書に加え、新たにASNITE認証書が添付された市販標準液等の使用も認められるようになった。なお、PFOS及び PFOAに関しては、JCSS証明書が添付された市販標準液等は現段階では販売されていないが、ASNITE認証書が添付されたものが販売されているため、PFOS及びPFOAの水道水質基準の適合判定に使用できる。

また、「これらに相当する証明書」とは、ILAC-MRAまたはAPAC-MRA(アジア太平洋認定協力機構 相互承認協定)に署名している認定機関が認定した標準物質生産者が発行する、計量法に基づく値付け証明書と同等と認められる証明書のことを指す。また、計量法に基づく値付け証明書では、製品毎に濃度の「値付け」と「不確かさ」が明記されていることから、「これらに相当する証明書」においても、同様の表記が必要となる。国外で製造された市販標準液等を用いて水道水質基準の適合判定を行う場合は、上記に該当する証明書が添付されたものを用いる。

なお、内部標準原液、内部標準液、混合内部標準液を使用する場合の濃度の規定については市販標準液等と同様であり、値付け証明書は不要となっている。

図2. JCSS(A, B)およびASNITE(C)認定シンボル(ロゴマーク)の例
図2. JCSS(A, B)およびASNITE(C)認定シンボル(ロゴマーク)の例

4 その他の改正

先述以外の主な改正点として、以下の4点が挙げられる。

(4) 誘導結合プラズマ質量分析装置による一斉分析法の改正 :

水銀を含む金属類の誘導結合プラズマ-質量分析装置による一斉分析法について、新たに連続流れ分析-誘導結合プラズマ-質量分析装置による一斉分析法を別表第6の2として追加した。

(5) パージ・トラップガスクロマトグラフ-質量分析計による一斉分析法における検量線作成に係る規定の改正:

揮発性有機化合物の検査方法(別表第14)における検量線の作成方法について、これまでの濃度を段階的に調整した標準液の一定量をメスフスラスコに採って精製水で希釈する方法に加えて、同一濃度の標準液を段階的にメスフラスコに採って精製水で希釈する効率的な調製方法を追加したほか、標準液の濃度範囲を拡大した。

(6) ペトリ皿の高さに関する改正:

一般細菌の検査方法(別表第1)においてペトリ皿の高さの規定について、従来は「約1.5 cm」と記載されていたものを、「1.5〜2 cm程度」に改正して、使用できる器具を増やした。

(7) 金属類標準原液の調製方法の改正:

金属類の検査方法(別表第3)で用いる試薬について、金属類標準原液のうち六価クロムの調製方法にこれまでの二クロム酸カリウムを用いる方法に加えて、硝酸クロム(三価クロム)を用いる方法を追加した。

5 まとめ

本稿では、令和8年4月の告示法の改正内容の要点について記載した。改正内容は、①PFOS及びPFOAの検査方法(別表第45)の追加、②それに伴う市販標準液の使用規定に関する改正、③その他の改正、の3点である。告示法1)は令和8年1月28日に発出されており、参考文献に記載のURLから確認することができる。本項と合わせて告示法の原文を参照して頂きたい。

参考文献

  1. 環境省:水質基準に関する省令の規定に基づき環境大臣が定める方法、平成15年7月22日厚生労働省告示第261号(最終改正令和8年1月28日環境省告示第5号)
    https://www.env.go.jp/content/000378233.pdf (2026年3月18日現在)
  2. 環境省:水質基準に関する省令の一部改正及び水道法施行規則の一部改正等について(施行通知).令和7年6月30日環水大管発第2506301号
    https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/watersupply/content/001898357.pdf
  3. 環境省:水質基準に関する省令の制定及び水道法施行規則の一部改正等並びに水道水質管理における留意事項について 別添4 水質管理目標設定項目の検査方法(平成15年10月10日健水発第1010001号[最終改正令和8年1月28日環水大管発第2601285~2601288号])
    https://www.env.go.jp/content/000378236.pdf
  4. ISO : Water quality -- Determination of perfluorooctanesulfonate (PFOS) and perfluorooctanoate (PFOA) -- Method for unfiltered samples using solid phase extraction and liquid chromatography/mass spectrometry (ISO 25101 : 2009), the International Organization for Standardization, Geneva, Switzerland (2009).
  5. ISO : Water quality -- Determination of perfluoroalkyl and polyfluoroalkyl substances (PFAS) in water -- Method using solid phase extraction and liquid chromatography-tandem mass spectrometry (LC-MS/MS) (ISO 21675 : 2019), the International Organization for Standardization, Geneva, Switzerland (2019).
  6. U.S. EPA : Method 537.1 Determination of selected per- and polyfluorinated alkyl substances in drinking water by solid phase extraction and liquid chromatography/tandem mass spectrometry (LC/MS/MS) (EPA/ 600/R-18/352), U. S. Environmental Protection Agency, Ohio, USA (2018).
  7. U.S. EPA : Method 533 : Determination of per- and polyfluoroalkyl substances in drinking water by isotope dilution anion exchange solid phase extraction and liquid chromatography/tandem mass spectrometry (815-B-19-020), U. S. Environmental Protection Agency, Ohio, USA (2019).
  8. Kobayashi, N. et al. : Journal of Water and Environment Technology, 20 (6), 219 (2022).doi: 10.2965/jwet.22-058

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