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凍結分野の今後の展望:亀田IVFクリニック幕張 平岡先生

凍結分野でご活躍なさっている亀田IVFクリニック幕張の平岡先生から、日本における凍結分野の課題や、保険適用と今後の展望についてお話しいただきました。

亀田IVFクリニック幕張 平岡先生

Q:凍結分野における日本の課題は何ですか?

A
感染症対策だと思います。現在、世界中でコロナ禍にあることからも気になっている方達が多いと思います。凍結タンクに検体を保管する観点から見ますと、具体的には検査により感染症なしが判明している方達、検査結果が出るまでの感染症あり/なしが不明の方達、感染症ありの3グループに分かれると思います。可能であれば、最低限、この3グループに分けて検体を保管する必要があります。しかし、現実的には凍結タンクを置くスペースが限られている、管理が煩雑になる等の理由から、分けて保管することが困難になっているのが現状だと思われます。また、凍結時の液体窒素への接触の観点から見ると、現在は受精卵が直接液体窒素に触れる開放型で凍結保存・保管が行われているケースが大部分を占めていると思われます。

Q:助成金拡大や保険適用で、どのように変化するでしょうか?

A
体外受精の治療件数は増加すると思います。それに伴い、今後、凍結保存をする受精卵の数も増えるのではないかと考えています。また、現在、コロナ禍にあることを考えますと、感染症対策に更に力を入れることも求められると思います。具体的には、感染症のある患者さんの検体は別の凍結タンクで保存することがもっと強く求められるようになると思います。また、今後、受精卵を凍結する際、液体窒素に直接触れない閉鎖型で凍結保存を行う、また、他の凍結デバイスとの接触を防ぐために凍結デバイスを密閉することが求められると思います。

Q:クリニックや胚培養士が対応すべきことはありますか?

A
現在、増え続ける凍結タンクの管理に頭を悩ませている方が多いと思います。感染症のある患者さんの検体は別に保管すること、また、治療件数の増加により保管スペースが少なくなることが予想されますので、凍結タンクの保管スペース確保の対策を考えることだと思います。また、感染症対策をより厳密に行うために、今後、受精卵の凍結保存は液体窒素に直接触れずに行う閉鎖型で行うこと、また、凍結デバイスは患者さん毎に密閉して保管する方法を考えることだと思います。

Q:凍結融解の手技に関するアドバイスなどあれば教えてください。

A
凍結工程と融解工程では、生存に大きく影響するのは融解工程であることが報告されています。凍結工程では、液体窒素に投入する直前、凍結デバイスに載せる液量が一定であるという前提でいけば、液体窒素の温度は-196°と変わらないことから、凍結工程の手技にバラつきは出にくいと考えられます。しかし、融解工程では、融解液の温度、液体窒素から取り出された凍結デバイスが融解液に投入されるまでの時間の統一が難しく、融解工程の手技にバラつきが出やすいことが、融解工程が生存に大きく影響する要因の一つと考えられます。したがって、融解工程では融解液を極力37℃に維持すること、そして、液体窒素から取り出した凍結デバイスを必ず1秒以内に融解液に投入することを常に心掛けています。
凍結工程で特に気を付けていることは拡大した胚盤胞、あるいは、透明帯を完全に脱出した胚盤胞の前処理になります。胚盤胞は大きくなればなる程、胞胚腔内部の胞胚腔液の脱水が困難になり、凍結融解後の生存率が低下する傾向にあります。一般的に拡大した胚盤胞の凍結に必要な処理方法は、平衡化液への長時間浸漬、人工的胞胚腔収縮操作(針、レーザー、ショ糖溶液、ピペッティング)の併用などがありますが、凍結時の形態の変化を良く見て、どの方法(当院では長時間浸漬、レーザー、ピペッティングを適宜選択)が最も適しているのか見極めることを常に心掛けています。

凍結融解用デバイス
S-Cryolock

  • 閉鎖/開放型に対応
  • ゴブレットに最大7本収納可能なため、省スペース
  • 様々な凍結培地と互換性あり

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