siyaku blog

- 研究の最前線、テクニカルレポート、実験のコツなどを幅広く紹介します。 -

【総説】RNA結合蛋白質によるオリゴデンドロサイトの分化制御とマーカー抗体

本記事は、和光純薬時報 Vol.94 No.4(2026年10月号)において、
東京慈恵会医科大学 矢野 真人 様、矢野 佳芳 様に執筆いただいたものです。

1. はじめに

オリゴデンドロサイトは、中枢神経系において神経軸索にミエリン鞘を形成するグリア細胞であり、神経インパルスの跳躍伝導の担い手である。また、単なるミエリン形成細胞としてだけではなく、軸索への乳酸などのエネルギー代謝物の供給や神経細胞保護機能を担うことから、中枢神経系の恒常性、堅牢性の維持に必須の細胞である。オリゴデンドロサイトは、胎生期における特定の領域の神経幹細胞から発生し、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC : oligodendrocyte precursor cell)への運命決定後、分化成熟過程を経て、オリゴデンドロサイトとなる。その分化成熟は、マウスでは生後1ヶ月程度、ヒトにおいては思春期まで活発である。特に、オリゴデンドロサイトの成熟過程は、ミエリン形成に伴うダイナミックな形態変化やコレステロール等の脂質の大規模な合成が必要となるため、細胞内では極めて高度な遺伝子発現制御が行われていることが想定され、RNA結合蛋白質が、転写後調節を介してオリゴデンドロサイト分化を制御する重要な因子として注目されている。

オリゴデンドロサイト研究で古くから用いられてきたマーカー分子の中にも、RNA代謝に関連するRNA結合蛋白質が含まれること、さらに著者らによる新たなオリゴデンドロサイト特異的RNA結合蛋白質が見出されていることは、大変興味深い。本稿では、オリゴデンドロサイト分化におけるRNA結合蛋白質の役割に焦点を当て、代表的なRNA結合蛋白質であるQkiおよび新規因子Secisbp2L(Sbp2L)を中心に概説するとともに、研究ツールとして有用なSbp2L抗体について紹介する。

2. オリゴデンドロサイト分化マーカーとRNA関連分子

オリゴデンドロサイト分化は、神経幹細胞より細胞運命決定されたPDGF受容体α(CD140)陽性のOPCから成熟オリゴデンドロサイトへと進行する多段階のプロセスである(図1)。この過程では、Olig2、Sox10、Myrfなどの転写因子が重要である一方で、pre-mRNAスプライシングやmRNA翻訳制御など、転写後調節機構の重要性が明らかになりつつある。その代表的なRNA結合蛋白質が、Qk遺伝子産物であるQuaking(Qki)蛋白質である。QkiはSTAR (Signal Transduction and Activator of RNA) ファミリーに属するRNA結合蛋白質であり、オリゴデンドロサイト細胞系譜で高発現する。Qki蛋白質をコードするQk遺伝子領域の欠失型自然発生変異を有するquaking viableマウスが、重篤なミエリン形成異常を呈することから、Qki蛋白質は古くから知られており、オリゴデンドロサイト分化に必須の分子として位置づけられている。さらに、オリゴデンドロサイトマーカーとして広く利用されるCC1抗体の抗原が、Qk遺伝子から産生されるQki7蛋白質であることがわかっている。

また、CNPase (2',3'-cyclic nucleotide 3'-phosphodiesterase)は、成熟オリゴデンドロサイトの代表的マーカーとして知られるが、分子機能はその名の通り環状核酸の脱リン酸化酵素であり、RNA結合活性を有することからRNA結合蛋白質としても分類されている。CNPaseについては、マーカー分子として有名であるものの、生化学的な標的や生理学的機能は、実のところ、あまり知られていない。このようなRNA結合蛋白質として分類される分子群がオリゴデンドロサイト系譜で発現しているという事実は、オリゴデンドロサイト分化やミエリン形成への固有のRNA制御機構が本質的な役割を担っていることの裏付けであり、またマーカー分子としても大きな役割を担ってきたと言える。

図1.オリゴデンドロサイト系統におけるマーカー蛋白質の発現

図1.オリゴデンドロサイト系統におけるマーカー蛋白質の発現

分化に伴う各マーカー蛋白質の発現時期、発現強度を模式的に示している。

3. Qki5による選択的スプライシング制御とオリゴデンドロサイト分化

Qk遺伝子自体もまた、C末部をコードするエクソンの選択的スプライシングにより、細胞質型のQki6/7、核内型のQki5のように、細胞内局在が異なる複数のアイソフォームが産生される。特にQki5は、神経系細胞系譜における詳細な組織学的解析により、胎生期神経幹細胞、胎生期および成体のOPCで高発現する一方、神経細胞系譜では一部の特殊な神経細胞を除いては、組織学的にほとんど発現がみられない1)。このような特徴的な発現パターンは、神経系における細胞タイプ特異的なトランスクリプトーム情報の生成に、RNAスプライシング制御が密接に連携していることを示している。実際、我々は、培養OPCおよび遺伝学的マウスモデルを用いて、Qki5がオリゴデンドロサイト特異的スプライシング制御のうち、48%にあたるエクソンのスプライシング制御に関与し、オリゴデンドロサイトのスプライシング制御の主要因子として機能し、特に胎生期からOPC分化過程において、オリゴデンドロサイトらしさを選択的スプライシングを介して担っているということを、明らかにしている2)。

4. オリゴデンドロサイト分化制御RBP:Sbp2Lの発見

Qk遺伝子に加えて、我々は1542種類のRNA結合蛋白質群を対象としたスクリーニングから、新しいオリゴデンドロサイト制御RNA結合蛋白質として、Sbp2L(SECIS-binding protein 2-like)を同定した3)。我々が、新規に作成した抗Sbp2L抗体による免疫組織学的解析において、脳や脊髄の白質領域に存在するオリゴデンドロサイトの細胞質で高い発現が認められ、Sbp2L欠損マウスにおいては、そのシグナルが完全に消失することから、本抗体が、非常に明瞭な成熟オリゴデンドロサイトの新規の分子マーカーであることが実証された。分化の過程では、PDGF受容体α陽性のOPCに発現が認められず、CC-1陽性細胞よりわずかに遅れて未熟なオリゴデンドロサイトに発現を開始し、成熟オリゴデンドロサイトまで持続して発現をする、非常に特異性の高いマーカーである(図2)。

一方で、Sbp2Lは、セレノ蛋白質合成に寄与するRNA結合蛋白質である、Sbp2のファミリー分子である。しかしながら、両者の相同性はRNA結合モチーフにおいても69%、その他の領域では極めて低く、Sbp2Lは天然変性領域に富んだRNA結合蛋白質であり、機能未知であった。その中で、我々は、Sbp2Lが、ミエリン関連遺伝子群やコレステロール生合成に関わる遺伝子群の転写調節を担うであるTcf7l2を翻訳レベルで制御していることを発見し、オリゴデンドロサイトの分化や成熟過程を制御するマスター調節因子の一つであることを見出した。実際、Sbp2Lのノックダウンによりミエリン関連遺伝子群やコレステロール生合成に関わる遺伝子群の発現が減弱し、Sbp2L欠損マウスの中枢神経系の組織解析においても、オリゴデンドロサイトの成熟の遅延が確認された。

図2.新規オリゴデンドロサイト特異的RNA結合蛋白質Sbp2Lの発現

図2.新規オリゴデンドロサイト特異的RNA結合蛋白質Sbp2Lの発現

生後7日目マウス脊髄における免疫組織染色。(A) Sbp2L蛋白質(赤)は、白質に存在するOlig2(緑)陽性オリゴデンドロサイトに発現する(矢頭)。(B) 野生型マウスで見られるSbp2L陽性のシグナルは(上段)、Sbp2L欠損マウスにおいては消失し(下段)、抗体の特異性を示している (Yugami et al, iScience 2023より改変)。

5. オリゴデンドロサイト新生と加齢〜認知症研究におけるオリゴデンドロサイトの新展開〜

ヒトにおいて、オリゴデンドロサイトの分化成熟は、生後から思春期にかけても継続的に進行すると言われている。一方で、加齢に伴いOPCの分化能も低下し、新規ミエリン形成能力も大きく低減する4)。その中で、近年、オリゴデンドロサイト新生の学習や認知機能における役割が注目され、加齢に伴うミエリン可塑性低下、認知機能低下との関連性が論じられるようになってきた5)。加えて、炎症反応、免疫調節作用における、オリゴデンドロサイトの役割に関する多くの報告がなされている。

このように、オリゴデンドロサイトは神経細胞への(跳躍伝導を可能とする)機能面、(エネルギー供給による)代謝面での支持的な役割に加え、神経機能を能動的に制御し、堅牢性維持に大きく寄与する細胞として再評価されている。すなわち、静的な支持細胞というだけではなく、脳機能の高度化、神経系の防御など、より動的で重要な機構を担う細胞として認知され、グリア細胞の概念が変わりつつあるとも言える。このような知見は、多発性硬化症のような脱髄疾患だけでなく、アルツハイマー病や前頭側頭型認知症などの神経変性疾患においても、オリゴデンドロサイトの異常が深く関与する可能性を強く示唆している6)。

実際、近年の単一細胞トランスクリプトーム解析や空間トランスクリプトーム解析により、認知症脳ではオリゴデンドロサイト集団が大きく変容することが報告されている。アルツハイマー病患者脳では、ミエリン関連遺伝子群の発現異常やOPCの分化障害が観察されている。また最新の研究では、認知症病態に特異的なオリゴデンドロサイトのサブタイプの存在も報告されており、神経変性とオリゴデンドロサイト機能異常との関連が注目を集めている。さらに遺伝学的解析からは、アルツハイマー病リスク遺伝子の一部がオリゴデンドロサイト機能と関連することも示されており、神経変性疾患において、従来の神経細胞を中心とした病態の捉え方が、大きく変わりつつある。

6. おわりに

オリゴデンドロサイトは、ミエリン形成のみならず神経保護や代謝制御、高度な神経系機能を担う重要な細胞であり、その分化や機能維持に、QkiやSbp2LをはじめとするRNA結合蛋白質による選択的スプライシングや蛋白質翻訳などの転写後調節が深く関与している。特に、Qki5によるオリゴデンドロサイト特異的スプライシング制御や、Sbp2Lによる成熟機構は、オリゴデンドロサイトらしさを生み出す鍵を成すことを示している。また、加齢や認知症との関連が次々と明らかになる現在、オリゴデンドロサイト研究は神経科学における重要分野の一つとなっている。今後、オリゴデンドロサイト固有に発現するRNA結合蛋白質の研究による分化制御機構のさらなる解明は、神経変性疾患や加齢関連疾患の新規治療戦略の創出につながることが期待される。

〔参考文献〕

  1. Hayakawa-Yano, Y., Suyama, S., Nogami, M., Yugami, M., Koya, I., Furukawa, T., Zhou, L., Abe, M., Sakimura, K., Takebayashi, H. et al. : Genes Dev., 31, 1910 (2017).
  2. Hayakawa-Yano, Y., Furukawa, T., Matsuo, T., Ogasawara, T., Nogami, M., Yokoyama, K., Yugami, M., Shinozaki, M., Nakamoto, C., Sakimura, K. et al. : Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 121, e2401531121 (2024).
  3. Yugami, M., Hayakawa-Yano, Y., Ogasawara, T., Yokoyama, K., Furukawa, T., Hara, H., Hashikami, K., Tsuji, I., Takebayashi, H., Araki, S. et al. : iScience. 26, 108451 (2023).
  4. de Faria, O., Pivonkova, H., Varga, B., Timmler, S., Evans, K. A., and Káradóttir, R. T. : Nat Neurosci., 24, 1508 (2021).
  5. Iram, T., Kern, F., Kaur, A., Myneni, S., Morningstar, A. R., Shin, H., Garcia, M. A., Yerra, L., Palovics, R., Yang, A. C. et al. : Nature, 605, 509 (2022).
  6. Kedia, S. and Simons, M. : Nat Neurosci., 28, 446 (2025).

関連リンク

キーワード検索

月別アーカイブ

当サイトの文章・画像等の無断転載・複製等を禁止します。