【総説】PSアフィニティー法を用いた組織EVの単離と組織特異的EVマーカーの探索
本記事は、和光純薬時報 Vol.94 No.4(2026年10月号)において、
東京大学大学院農学生命科学研究科 応用生命化学専攻 山内 祥生 様に執筆いただいたものです。
1. はじめに
細胞外小胞 (Extracellular Vesicle、以下、EV)は、ほとんどすべての細胞が分泌する、脂質二重膜から構成される小胞である。EVの形成メカニズムやサイズは多様であり、それらによって、直径50〜150 nmのエクソソーム、直径300〜1,000 nmのマイクロベシクル、直径100〜5,000 nmのアポトーシス小体に大別される1)。EVは核酸やタンパク質、脂質をはじめとする様々な生理活性分子を内包しており、これらの生理活性分子を細胞から細胞へ運搬していることから、細胞間コミュニケーションのメディエーターとして重要な役割を果たしている1)。
近年、EVが細胞機能の調節や疾患の制御において、多様な役割を演じていることが明らかとなり、EVを介した細胞間コミュニケーションの重要性に注目が集まっている。また、EVは、血液や尿などの体液中にも存在することから、EVに内包されている分子は侵襲性の低いバイオマーカーとして、疾患の早期診断への応用が期待されているほか、ドラッグデリバリーのツールとしても応用が期待されている。一方、様々な細胞がEVを分泌するため、体液中のEVがどの臓器に由来するかを識別することはほぼ不可能であり、その体内動態は不明な点が多い。その原因の一つは、各臓器に由来するEVのマーカー分子が十分に同定されていないことにある。そのため、血中EVに占める各臓器由来EVの割合はほとんど明らかになっておらず、臓器特異的なEVマーカーを同定することは世界的にも重要な課題となっている。
2. 骨格筋由来EVマーカータンパク質の同定
骨格筋は、体重の約40%を占める人体最大の臓器であり、運動などの身体活動において必須の役割を果たしているほか、全身の代謝恒常性の観点からも重要な機能を担っている。骨格筋はマイオカインとして総称される多様な液性因子を分泌しており、骨格筋組織内もしくは全身的に機能することで、全身の恒常性維持や運動による有益な効果の発現に役割を果たしている2)。また、骨格筋細胞はマイオカイン以外に骨格筋特異的なmiRNAを内包するEVも分泌しており、骨格筋細胞由来EVが筋細胞の分化を調節することが報告されている3)。しかしながら、骨格筋由来EVの特異的なマーカー分子やその体内動態は不明な点が多く残されている。そこで、我々は、骨格筋EVマーカータンパク質を同定することで、骨格筋EVが血中にどの程度含まれるか解析することを試みた4)。
まず、マウスC2C12筋芽細胞、C2C12筋管細胞、および2種類のヒトiPS細胞由来骨格筋細胞 (409B2株、414C2株)から超遠心法にてEVを単離し、骨格筋細胞が直径30〜150 nm (平均約60 nm)のEVを分泌することを確認した (図1A)。続いて、単離したEVをプロテオミクス解析に供し、骨格筋細胞由来EVに含まれるタンパク質を網羅的に解析した。その結果、ATP2A1 (別名:SERCA1)を含む、骨格筋を特徴付ける複数のタンパク質が骨格筋細胞由来EVに含まれており、これらのタンパク質が骨格筋EVのマーカータンパク質となりうることが示唆された (図1B)。

図1.骨格筋由来EV
C2C12筋芽細胞 (MB)、 C2C12筋管細胞 (MT)、およびヒトiPS細胞由来骨格筋細胞が分泌するEV
A) C2C12筋芽細胞、 C2C12筋管細胞、およびヒトiPS細胞由来骨格筋細胞 (409B2株、414C2株)が分泌するEVの電子顕微鏡写真。Scale bar, 100 nm
B) 各骨格筋細胞が分泌するEVに含まれる骨格筋EVマーカータンパク質の存在量を示すヒートマップ。
C) 骨格筋組織の走査電子顕微鏡像。small EVとlarge EV様の構造をそれぞれ矢頭と矢印で示す。
Scale bar, 1μm (左)、500 nm (右)
図は文献4より引用 (一部改変)。
3. 骨格筋由来EVの体内動態
骨格筋細胞由来EVの解析から同定した骨格筋EVマーカータンパク質を含むEVが個体でも検出できるか検証するため、MagCapture™ Exosome Isolation Kit PS Ver.2 (富士フイルム和光純薬製、以下、PSアフィニティー法) を利用してマウスの血漿および骨格筋間質からEVを単離した。その結果、骨格筋間質から単離したEVには骨格筋EVマーカータンパク質が高いレベルで含まれていたが、血漿EVは骨格筋EVマーカータンパク質をほとんど含まないことが示された。また、骨格筋組織内にEV様粒子が存在し、これらが細胞外マトリックス様の構造に付着している様子が観察された (図1C)。以上のことから、骨格筋はEVを分泌するが、骨格筋EVの血中存在量は非常に低く、骨格筋EVは主に骨格筋組織内に濃縮して存在することが示唆された4)。
運動によって血中EV量は増加することが報告されている5)が、どの組織由来のEV量が増加するかは明らかでない。そこで我々は、同定した骨格筋EVマーカータンパク質を追跡することで、運動によって骨格筋EV量が変動するか明らかにすることを試みた。安静状態および運動後のマウス血漿および骨格筋組織からPSアフィニティー法にてEVを単離し、各EVサンプルに含まれる骨格筋EVマーカータンパク質の変動を解析した。その結果、運動前後で骨格筋EVマーカータンパク質の変動は血漿EVおよび骨格筋組織EVのどちらでも認められなかったことから、少なくとも我々の実験条件では、運動によって骨格筋EVの分泌は変化しないことが示唆された4)。
4. 骨格筋由来EVの機能解析
骨格筋EVが骨格筋組織内に豊富に存在することから、骨格筋EVは主に骨格筋組織内で機能していると考えられる。骨格筋には骨格筋特異的なmiRNA (以下、myomiR)が発現していることから、骨格筋EVにmyomiRが含まれるか検証した。血漿および骨格筋間質EVサンプル間でmyomiRレベルを比較したところ、骨格筋間質EVでは血漿EVの20〜50倍程度のmyomiRを含んでいることが示された。miRNAの細胞間輸送はEVの主要な機能の一つであり、myomiRは筋分化を調節することが知られている。そこで、骨格筋間質から単離したEVが筋分化を制御するかC2C12筋芽細胞を用いて検討した結果、骨格筋間質EVは筋分化マーカー遺伝子の発現を調節することが示された4)。以上のことから、骨格筋EVは主に骨格筋組織内に存在しており、筋分化を正に制御していることが示唆された。
5. 各組織EVの単離とマーカータンパク質の同定
各組織に由来するEVを特徴付けるマーカータンパク質の同定は進んでいるが、各組織に由来する培養細胞を用いた解析が中心であり、培養細胞で同定されたEVマーカーが個体レベルで各組織に由来するEVマーカーとして利用できるかは十分に検証されていない。各組織の間質にはその組織に由来するEVが濃縮されていると上述の骨格筋の結果からも考えられることから、各組織の間質からEVを単離し、プロテオミクス解析を行うことで、各組織EVを特徴付けるタンパク質の探索を行うこととした。まず、骨格筋、心臓、肝臓、脂肪組織の間質から超遠心法およびPSアフィニティー法にて組織EVを単離する方法の確立に取り組み、各組織間質に含まれるEVを高純度に単離することに成功した6)。
各組織EVのマーカータンパク質を同定することを目指し、骨格筋EV、心臓EV、肝臓EV、脂肪組織EVのプロテオミクス解析を行い、各組織EVに含まれるタンパク質を網羅的に同定した。その結果、各組織EVに特異的に含まれるタンパク質が複数存在することを見出した (図2A)。また、各組織EVのGO解析を行ったところ、各組織に特徴付けられるタンパク質が各組織EVに含まれることが示された。得られた各組織EVのプロテオームデータをより詳細に解析した結果、各組織EVのマーカーになりうるタンパク質が同定された6)。
骨格筋は最大の臓器であるにもかかわらず、血中EVに占める骨格筋EVの割合は想像以上に低いことが示され、骨格筋は血中EVの主要な供給源ではないことは上述の研究より示唆される4)。そこで、各組織EVと血漿EVのタンパク質プロファイルを網羅的かつ統合的に比較解析し、由来の異なるEVの特徴や血中EVに対する各組織EVの貢献度を解析した。主成分分析の結果、骨格筋EV、心臓EV、脂肪組織EVは同じグループに分類されるのに対し、肝臓EVや血中EVはそれぞれ別のグループを形成しており、血中EVは様々な細胞や組織に由来すると考えられた (図2B)。また、血中EVへの貢献について推測したところ、解析した4臓器の中で、脂肪組織EVが血中に最も豊富に存在することが示唆された一方、骨格筋EVの血中存在量は、4臓器の中で最も少ないことが再確認された (図2C)。さらに、同定した各組織EVのマーカータンパク質が血中EVに含まれるか検証するため、PSアフィニティー法、CD81アフィニティー法、CD63アフィニティー法を用いてマウス血液からPS陽性EV、CD81陽性EV、CD63陽性EVをそれぞれ単離した。その結果、PS陽性EV、CD81陽性EV、CD63陽性EVにおいて組織EVマーカータンパク質は含まれているが、その存在量はそれぞれのEVで異なる結果を得た。以上の結果より、各組織から分泌されたEVは血中へ移行するものの、血中EV全体への量的な寄与は臓器毎に大きく異なっているほか、血中EVは多様性に非常に富んでいることが示唆された6)。

図2.組織EVのプロテオミクス解析
A) 各組織 (骨格筋、心臓、肝臓、脂肪組織)から単離した組織EVのプロテオミクス解析結果をVenn図で示す。
B) 骨格筋EV、心臓EV、肝臓EV、脂肪組織EV、および血漿EVの主成分分析結果。
C) 血漿EVに含まれる各組織EVのマーカータンパク質の割合をVenn図で示す。
図は文献6より引用 (一部改変)。
6 展望
EVは臓器間、細胞間コミュニケーションにおいて重要な役割を果たしている一方、血中には様々な組織や細胞に由来するEVが混在しており、各組織に由来するEVの分泌や血中存在量が生理的、病態生理的条件下でどのように変動するかは未だ不明な点が多く残されている。また、EVの体内動態や生理機能を理解する研究において、単離したEVを血液中にインジェクションして解析している研究も散見されるが、組織EVの体内動態を正確に反映しているかは十分な検証が必要である。本研究で同定された組織EVマーカータンパク質やタンパク質プロファイルデータは、組織EVの体内動態や機能解析のほか、バイオマーカーとしても利用されることが期待される。
〔参考文献〕
- Kalluri, R. and LeBlue, V.S. : Science, 367, 6478 (2020).
- Hoffmann, C. and Weigert, C. : Cold Spring Harb Perspect Med, 7, A029793 (2017).
- Rome, S. et al. : Front Physiol, 10, 929 (2019).
- Watanabe, S. et al. : PNAS Nexus, 1 (4), Pgac173 (2022).
- Crewe, C. et al. : Cell, 175, 695 (2018).
- Watanabe, S. et al. : Extracellular Vesicle, 6, 100097 (2025).
