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ちょっと変わったイオン液体

本記事はWEBに混在する化学情報をまとめ、それを整理、提供する化学ポータルサイト「Chem-Station」の協力のもと、ご提供しています。

概要

反応溶媒、電池材料などで注目を集めるイオン液体ですが、新たな機能が新たに付け加えられて、応用範囲は広がりつつあります。アミノ酸イオン液体、磁性イオン液体、農薬イオン液体、さらには核酸医薬にも使われています。

液体の物質、化合物

元素の単体のうち、常温で液体であるものは臭素と水銀です。また、ガリウムも融点30度なので、溶けている場合もあります。液体の化合物のうち最も思いつくものは水です。臭素や水の固体は分子結晶、水銀やガリウムは金属結晶です。

ではイオン結晶はどうでしょうか?代表的なイオン結晶の食塩は常温下で固体ですが、常温下でも液体である例外が、イオン液体 (ionic liquid) です。イオン液体の発見は1914年までさかのぼります1)。「ワルデン反転」で有名なワルデン (Paul Walden) の報告1)した融点12度の硝酸エチルアンモニウム (CH3CH2NH3NO3) が最初の化合物です。イオン液体には100年近い歴史がありますが、取り扱い方法が改善され、反応溶媒や電池材料に適用されるようになったのは、これよりかなり後ということになります。さらに従来は思いもよらなかった機能が付加されたイオン液体も登場しています。

アミノ酸で作ったイオン液体

アミノ酸イオン液体は、使い終わったら自然に分解されるような、環境にやさしいイオン液体を目指して開発されました2)。1-エチル-3-メチルイミダゾリウム (1-ethyl-3-methylimidazolium) 塩の場合、ガラス転位温度は、最も構造が単純なアミノ酸であるグリシンで-61 ℃、他の標準アミノ酸で-57 ℃~+6 ℃でした。反応溶媒・潤滑剤・薬剤輸送担体など、様々な応用が期待されています。

図1.グリシンを使ったアミノ酸イオン液体の例
図1.グリシンを使ったアミノ酸イオン液体の例

磁石に応答するイオン液体

塩化鉄と1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムの塩 ([bmim]FeCl4)です3)。磁石に反応する流体としては、この磁性イオン液体の他に、磁性流体という粉末磁石を懸濁させた油などが知られています。しかし、これらは固体と液体に分離してしまいやすく不安定でした。磁性イオン液体は極めて安定であり、揮発せず燃えないなどのイオン液体らしい性質を持っています。固体磁石にはできなかった液体磁石に向けて応用が期待されています。

図2.磁性イオン液体の挙動
図2.磁性イオン液体の挙動
[参考文献3)の図を引用して抜粋]

除草剤で作ったイオン液体4, 5)

双子葉植物にはめっぽうよく効き、単子葉植物にはほとんど効かない2,4-ジクロロフェノキシ酢酸 (2,4-dichlorophenoxyacetic acid; 2,4-D) およびその類縁体は、農業上とりわけ重要な化合物です。イオンの組み合わせを工夫したイオン液体が作られており、実際に植物に投与して効果が調べられています。農薬は植物の葉の上にどう残るか、その動態によっても効き目が変わるので、イオン液体にしてみようという発想はユニークです。

図3.農薬イオン液体
図3.農薬イオン液体

核酸医薬を溶解したイオン液体

とくに、メドレックス社の開発したイオン液体が有名で、アンジェスMG社とともに塗り薬タイプの核酸医薬を目的としています。特許文献6)には次のように記述されています。

「炭素数2~20の脂肪酸と炭素数4~12の有機アミン化合物とから得られる脂肪酸系イオン液体に、転写因子デコイを溶解して含有する、皮膚透過性の良好な転写因子デコイの外用剤組成物を提供する。」

参考文献
  1. P. Walden, et al. : Bull. Acad. Sci. St. Petersburg, 1914.
  2. K. Fukumoto, et al. : J. Am. Chem. Soc., 127, 2398 (2005). DOI: 10.1021/ja043451i
  3. S. Hayashi, et al. : Chem. Lett., 33, 1590 (2004). DOI: 10.1246/cl.2004.1590
  4. J. Pernak, et al. : Tetrahedron, 67, 4838 (2011). DOI: 10.1016/j.tet.2011.05.016
  5. J. Pernak, et al. : Tetrahedron, 68, 4267 (2012). DOI: 10.1016/j.tet.2012.03.065
  6. WO2009119836A1「転写因子デコイを有効成分とする外用剤組成物」

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