BDNF ELISAキット

脳由来神経栄養因子(BDNF)は脳に豊富に存在する神経栄養因子のひとつで、神経細胞の生存・維持や伸長・成熟、シナプス伝達の長期増強などに関与しています。またうつ病をはじめとした精神疾患のバイオマーカーとしても期待されています。その他にも心疾患、糖尿病、痛風、歯周病、ストレス、運動などにも関連することが報告されており、幅広い分野で研究のターゲットとなっています。

BDNFは前駆体であるproBDNFがプロセシングを受けてMature BDNF(mBDNF)となります。proBDNFとmBDNFは異なる生理活性を有することが報告されており、それぞれのBDNFを区別して測定することが重要です。

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BDNFとは?

脳由来神経栄養因子 (BDNF) は神経機能の発達、維持に重要な役割を果たす分子です。近年では種々の疾患への関与が報告され、バイオマーカーへの利用にも期待が高まっています。BDNFは前駆体 (proBDNF) がプロセシングを受けて成熟体 (mBDNF: Mature BDNF) になりますが、proBDNFとmBDNFが全く異なる作用を有するため、mBDNFを正確に解析する手法が求められています。

脳由来神経栄養因子 (BDNF: Brain-Derived Neurotrophic Factor)

BDNFは、1982年にBardeらが脳に高頻度で発現する神経栄養因子の1つとしてブタの脳から単離した分泌型タンパク質です。BDNFはニューロトロフィンファミリーにおいて2番目に同定された神経栄養因子であり、神経系の発生期から成熟期にかけて脳内において広く分布しています。その代表的な作用としては、高親和性受容体であるTropomyosin related kinase B (TrkB) を介した神経細胞の生存・維持、シナプス形成の促進が知られています1,2)。BDNFは神経機能の形成や維持に寄与する重要な因子であることから、神経科学分野において非常に注目されています。

精神疾患バイオマーカーへの期待

BDNFは精神疾患のような脳に起因する疾患に深く関わることが指摘されています3)。特にうつ病においてはKaregeらがうつ病患者の血清中におけるBDNFが健常者に比べて低値であることを初めて報告して以降4)、バイオマーカーとしての利用が期待されています。抗うつ剤を使用していないうつ病患者においては特にその減少が認められる点からも、BDNFの定量解析がうつ病治療の指標に利用できる可能性があります。また、近年ではいくつかのメタ解析からうつ病のみならず双極性障害や統合失調症においても血清中のBDNFの低下が示唆されています5)。現時点では特定の精神疾患におけるBDNFの特徴的な変化は不明ですが、種々の精神疾患の鍵因子である可能性が高いと考えられています。

成熟体BDNF、前駆体BDNF

BDNFは前駆体BDNF (proBDNF) として発現して分泌部位に輸送され、プロセシングを受けて成熟体BDNF (mBDNF) になります6)。これまで前駆体であるproBDNFは生理的役割を担っていないと考えられていましたが、近年mBDNFとは全く異なる生理的役割を有することが明らかになってきました。 mBDNFはTrkBを介してシナプス伝達の長期増強 (LTP: Long-term potentiation) や神経の新生・発達を促進します。一方、proBDNFは低親和性受容体であるp75NTRを介してシナプス伝達の長期抑圧 (LTD: Long-term depression) や神経のアポトーシスを促進します7) (図1)。このようなプロセシングの違いで効果が変化する点は、BDNFに極めて複雑な神経系の制御機構が存在することを示唆しています。そのため種々の精神疾患のメカ二ズムを明らかにするうえで、mBDNFを正確に解析する手法が求められています。

図1 BDNFのプロセシングと機能

図1 BDNFのプロセシングと機能

Mature BDNF 測定の課題とELISAキットの開発

これまでのmBDNFの測定では、「mBDNFに対する特異性」と「検出感度」に課題がありました。従来のキットはproBDNFに対する交差率が比較的高く、proBDNFとmBDNFを区別して測定することは困難でした。さらに、マウスの血清・血漿やヒト唾液中のmBDNF濃度は従来キットの検量線下限値よりも低く、信頼ある測定値を得ることは難しいとされていました。

このような背景の中、当社ではmBDNFを特異的かつ高感度に測定可能なELISAキットとして、「Mature BDNF ELISAキットワコー、高感度品」 (コードNo. 290-85801)を開発しました。本キットでは、捕捉抗体にmBDNFのN末断端を認識する抗体を使用しており、proBDNFとの交差率を抑えました。さらに検出に発光測定系を採用することで、従来キットに比べて大幅に感度を向上させています(図2)。なお当社では上記キットに加え、吸光プレートリーダーで測定可能な「Mature BDNF ELISAキットワコー」 (コードNo. 296-83201)をラインアップしています(表1)。

本キットの登場で、mBDNFとproBDNFの役割の違いがより詳細に解析できるだけでなく、これまで困難だったモデルマウスでの検証や唾液中バイオマーカーの開発など、BDNF研究が今後発展していくことが期待されます。

図2 Mature BDNF ELISAキットワコー、高感度品の測定原理

図2 Mature BDNF ELISAキットワコー、高感度品の測定原理

表1 当社キットと従来キットの比較
当社 (発光系) 当社 (発色系) A社キット B社キット C社キット
検量線下限値 0.116 pg/mL 4.1 pg/mL 62.5 pg/mL 15.6 pg/mL 15.0 pg/mL
ヒトproBDNFとの交差率 1.30 % 約10 % 約10 % 約15 % 約50 %

製品ラインアップ

製品名 Mature BDNF ELISAキットワコー、高感度品 Mature BDNF ELISAキットワコー
コード No. 290-85801 296-83201
検量線範囲 0.116 - 50 pg/mL 4.1 - 1,000 pg/mL
測定対象 mBDNF mBDNF
ヒトproBDNFとの交差率 1.30% 約10%
測定対象検体 マウス 血清 / 血漿 / 脳破砕液
ラット 血清 /血漿
ヒト 血清 / 血漿 / 唾液
ヒト血清 / 血漿
必要検体量 13 μL 血清: 10μL
血漿: 5μL
測定時間 約4時間 約4時間
検出法 発光系 (発光測定用プレートリーダーが必要) 発色系

Mature BDNF ELISAキットワコー、高感度品

Mature BDNF ELISAキットワコー、高感度品は、mBDNFのN末断端特異的なモノクローナル抗体とBDNFモノクローナル抗体の組合せによるサンドイッチELISAです。断端抗体を用いることでproBDNFと交差性が非常に低く抑えられており(ヒトproBDNFとの交差率: 1.30 %)、発光基質を用いることで高感度化しています(検量線下限値: 0.116 pg/mL)。

キット性能

検量線範囲 0.116 - 50 pg/mL
ヒトproBDNFとの交差率 1.30%
測定対象検体 マウス 血清 / 血漿 / 脳破砕液
ラット 血清 / 血漿
ヒト 血清 / 血漿 / 唾液
必要検体量 13 μL (4倍希釈時)
測定時間 約4時間
検出法 発光系 (発光測定用プレートリーダーが必要)

希釈直線性試験

ヒ ト

血清
血漿
唾液

マウス

血清
血漿

類似タンパク質との交差率

タンパク質 交差率 (%) タンパク質 交差率 (%)
ヒト proBDNF 1.30 マウス proBDNF 0.328
ヒト NGF-β < 0.232 マウス NGF-β < 0.232
ヒト NT-3 < 0.232 マウス NT-3 < 0.232
ヒト NT-4 < 0.232 マウス NT-4 < 0.232
[結果]
proBDNFおよびニューロトロフィンファミリー (NGF、NT-3、NT-4)とはほとんど交差しないことが確認できた。

野生型およびBDNFノックアウトマウス 脳破砕液での測定

BDNFへの特異性を確認するため、本キットで野生型マウスおよびBDNFノックアウトマウスの脳破砕液中のmBDNFを測定した。

[結果]
BDNFノックアウトマウスでは非常に低い測定値となっており、BDNFに対する特異性が確認された。

Mature BDNF ELISAキットワコー

ture BDNF ELISAキットワコーは、mBDNFのN末断端特異的なモノクローナル抗体とBDNFポリクローナル抗体の組合せによるサンドイッチELISAです。発色系のため、吸光プレートリーダーで測定可能です。

キット性能

検量線範囲 4.1 - 1,000 pg/mL
ヒトproBDNFとの交差率 約10%
測定対象検体 ヒト 血清 / 血漿
必要検体量 血清: 10μL (10倍希釈時)
血漿: 5μL (20倍希釈時)
測定時間 約4時間
検出法 発色系

アプリケーションデータ

精神疾患患者の臨床検体(血清)での測定

本キットで精神疾患患者(大うつ病、躁うつ病、統合失調症)および健常者の血清中mBDNFを測定した。

健常者 (n=6) 大うつ病 (n=6) 躁うつ病 (n=4) 統合失調症 (n=4)
18.1±3.41 ng/mL 16.3±4.02 ng/mL 15.1±4.53 ng/mL 16.6±5.17 ng/mL
[結果]
BDNFノックアウトマウスでは非常に低い測定値となっており、BDNFに対する特異性が確認された。

参考文献

  1. 1) Schinder, A.F. and Poo, M.: Trends Neurosci ., 23(12), 639(2000). The neurotrophin hypothesis for synaptic plasticity
  2. 2) Huang, E. J. and Reichardt, L. F.: Annu. Rev. Neurosci ., 24, 677(2001). Neurotrophins: roles in neuronal development and function
  3. 3) Hempstead, B. L. : Trans. Am. Clin. Climatol. Assoc .,126, 9(2015). Brain-Derived Neurotrophic Factor: Three Ligands, Many Actions
  4. 4) Karege, F. et al .: Psychiatry Res ., 1s09(2), 143(2002). Decreased serum brain-derived neurotrophic factor levels in major depressed patients
  5. 5) Cattaneo, A. et al .: Translational Psychiatry , 6, e958(2016). The human BDNF gene: peripheral gene expression and protein levels as biomarkers for psychiatric disorders
  6. 6) Lessmann, V. and Brigadski, T.: Neurosci. Res ., 65(1), 11(2009). Mechanisms, locations, and kinetics of synaptic BDNF secretion: an update
  7. 7) Barker, P.A.: Nat. Neurosci ., 12(2), 105(2009). Whither proBDNF?

製品一覧

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Mature BDNF ELISAキットワコー、高感度品 (発光系)

Mature BDNF ELISAキットワコー (発色系)

関連製品一覧

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抗BDNF抗体

BDNF(タンパク質)

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