肝臓オルガノイド
肝臓オルガノイドは、ES細胞やiPS細胞から単一の細胞を誘導するだけでなく、複数の細胞から形成される三次元組織として、肝臓組織を再現したものです。ヒトの肝臓が形成される過程をin vitroで観察できるようになったことで、肝臓がんなどの病態研究や医薬品の安全性試験での活用が進められています。
肝臓オルガノイドの基礎から作製原理、分化誘導プロトコル・使用する試薬をご紹介します。
肝臓オルガノイドの基礎

肝臓は、代謝調節、解毒、タンパク質合成、胆汁分泌など、多様な生理機能を担う重要な臓器です。しかし、ウイルス性肝炎、代謝機能障害関連脂肪肝疾患 (Metabolic dysfunction‐associated steatotic liver disease:MASLD)、肝硬変、肝細胞がんなどの肝疾患は世界的な健康課題となっており、新たな治療法や研究モデルの開発が求められています。従来の二次元培養細胞や動物モデルは広く利用されていますが、ヒト肝臓の複雑な構造や機能を十分に再現することは難しく、ヒト特有の病態や薬物応答を評価するうえで限界があります。
オルガノイドは、幹細胞や組織前駆細胞から誘導される三次元 (3D) 培養組織であり、細胞が自発的に自己組織化することで、生体組織の構造や機能の一部を再現します。2009年の腸オルガノイド培養成功以降、この技術はさまざまな臓器へ展開され、肝臓オルガノイドも重要な研究分野として発展してきました。
肝臓オルガノイド研究は、2013年にマウス肝臓オルガノイドの長期培養を確立後、成人肝組織由来オルガノイドやiPS細胞由来オルガノイドへと発展してきました。近年では、シングルセル解析、遺伝子編集、バイオエンジニアリング技術の進歩により、肝細胞だけでなく胆管細胞、血管関連細胞、免疫細胞を含むより高度なモデルの開発が進んでいます。これらの次世代オルガノイドは、生体肝臓に近い細胞間相互作用や代謝機能を再現できることから、より生理学的な研究モデルとして注目されています。
肝臓オルガノイドの疾患モデリングへの応用
ヒトiPS細胞由来肝臓オルガノイドは、患者ごとの病態を再現できるだけでなく、安定した細胞供給が可能であることから、疾患研究や創薬研究への応用が期待されています。現在では、MASLD/MASH、肝線維化、ウイルス性肝炎、遺伝性肝疾患、肝がんなどのモデルとして活用されているほか、薬物代謝評価や肝毒性試験、さらには再生医療やバイオ人工肝臓 (Bioartificial liver:BAL) システムへの応用も進められています。
一方で、肝細胞の成熟度や血管構造の再現、非実質細胞を含む微小環境の構築など、解決すべき課題も残されています。これらの課題を克服することで、肝臓オルガノイドは基礎研究から再生医療まで幅広い分野で活用される次世代ヒト肝臓モデルとして、さらなる発展が期待されています。
hPSC由来 肝臓オルガノイド作製プロトコル
肝臓オルガノイドの作製において、各工程で使用する試薬をご紹介します。
プロトコル詳細については、参考文献(Saiki, N et al., 2025、Minocha, E et al., 2026)をご参照ください。
プロトコル例1(Saiki, N et al., 2025)
| iPSCs | 原始線条/ 卵黄嚢中胚葉 |
血管芽細胞誘導 | 静脈血管芽細胞の誘導 | 類洞様内皮誘導 | ヒト肝芽様 オルガノイド形成 |
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|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
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| 培地 | hPSC medium |
Essential 8 | Essential 6 | StemPro™-34 | Endothelial cell growth media/ Hepatocyte culture media |
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| 血清/添加剤 | L-Ala-L-Gln | ||||||||
| 足場材 | EHS gel matrix | EHS gel matrix | |||||||
| 培養用化合物 | CHIR99021 | SB431542 | Y-27632 | Dexamethasone | |||||
| サイトカイン | BMP4/ VEGF-A |
bFGF/SCF/ VEGF-A |
VEGF-A/SCF/ Flt-3L/IL-3/TPO |
SCF/Flt-3LIL-3/IL-6/TPO/IL-11/IGF-1/EPO | VEGF-A/OSM | OSM/HGF/SCF/ Flt-3L/IL-3/IL-6/ TPO/IL-11/ IGF-1/EPO | |||
| 器材 | 10cm dish | 24-well plate | |||||||
※Saiki, N et al., 2025のデータを基に改変・作成
プロトコル例2(Minocha, E et al., 2026)
| iPSCs | 中胚葉、内胚葉 | 肝前駆細胞 | ヒト肝臓オルガノイド形成 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
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| 培地 | hPSC medium |
RPMI1640 | Hepatocyte Culture Medium | ||||||
| 血清/添加剤 | B27-insulin | B27 plus supplement | |||||||
| 解離試薬 | Trypsin-EDTA | ||||||||
| 足場材 | EHS gel matrix | ||||||||
| 培養用化合物 | CHIR99021 | A83-01 | |||||||
| Retinoic Acid | Dexamethasone | ||||||||
| サイトカイン | ActivinA/BMP4/FGF2 | FGF2/FGF10/BMP4/VEGF | VEGF/HGF | VEGF/HGF/OSM/EGF | |||||
| 器材 | 24-well plate/polycarbonate isopore Membrane | ||||||||
※Minocha,E et al., 2026のデータを基に改変・作成
参考文献
【本サイト掲載情報について】
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