オレキシン ELISAキット
オレキシンは神経ペプチドの一種であり、ヒポクレチンとも呼ばれます。オレキシンの機能は多岐に渡りますが、よく知られている機能に摂食行動の制御と覚醒の維持があります。睡眠障害の一つであるナルコレプシーの研究がきっかけとなり、オレキシンの覚醒に関する機能が明らかとなりました。研究が進むにつれ、臨床応用にも期待が高まり、オレキシン受容体のアンタゴニストは不眠症、アゴニストはナルコレプシーの治療薬として実用化されています。
試験研究におけるオレキシンAの測定はこれまで放射性同位体 (RI) を使用したラジオイムノアッセイ (RIA) が広く用いられてきました。しかしながらRIの取り扱いには専用の施設が必要であり、RIを使用せずにオレキシンAを測定できるELISAキットが求められていました。当社では、RIを使用せずに少量検体から高感度にオレキシンAを測定することができるオレキシンA ELISAキットワコーを販売しています。
オレキシンとは?
オレキシン (Orexin) は神経ペプチドの一種であり、ヒポクレチン (Hypocretin) とも呼ばれます。オレキシンにはオレキシンA (ヒポクレチン-1) とオレキシンB (ヒポクレチン-2) の2種類が存在し、ともにGタンパク共役型受容体であるオレキシン1受容体 (OX1R) とオレキシン2受容体 (OX2R) に結合します。オレキシン産生神経細胞は視床下部外側野や脳弓周囲野、視床下部後部などに存在し、これらの神経細胞は脳の広範囲に投射していることが知られています1)。
オレキシンの機能は多岐にわたりますが、よく知られている機能に摂食行動の制御と覚醒の維持があります。これまでにマウスやラットの脳室内にオレキシンを投与すると摂食量が増加し、絶食によってオレキシン前駆体のmRNA発現が上昇することから2) 、オレキシンは摂食を制御する神経ペプチドであると考えられています。研究が進むにつれ、この摂食促進作用は後述の覚醒の維持や報酬系への影響によるものではないかという見方が広がっています。
オレキシンの最も重要な機能の一つは覚醒の維持であり、その解明のきっかけはナルコレプシーの研究です。ナルコレプシーは、日中の強い眠気や突然の脱力 (カタプレキシー) などを症状とする睡眠障害です。1998年にオレキシンが発見され2-3)、その翌年に遺伝性ナルコレプシーを発症するイヌのOX2R遺伝子に変異があることが報告されたため4)、覚醒-睡眠の制御とオレキシンの関連に注目が集まりました。その後の研究で、オレキシン遺伝子やその受容体を欠損したマウスがナルコレプシー様の表現型を示すこと5-6)や典型的なカタプレキシーを伴うナルコレプシー患者のほとんどで脳脊髄液中のオレキシンAの著しい低下がみられること7)から、オレキシンが覚醒を維持するために必要な物質であることが明らかになりました。「ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン」にはナルコレプシーの補助診断として脳脊髄液中のオレキシンA濃度の計測が記載されています8)。オレキシンによる覚醒維持のメカニズムが明らかになるにつれ、実用化への期待も高まり、日本ではすでにオレキシン受容体のアンタゴニストは不眠症治療薬として実用化されており、アゴニストについてもナルコレプシー治療薬として実用化されています。
試験研究におけるオレキシンAの測定はこれまで放射性同位体 (RI) を使用したラジオイムノアッセイ (RIA) が広く用いられてきました。しかしながらRIの取り扱いには専用の施設が必要であり、RIを使用せずにオレキシンAを測定できるELISAキットが求められていました。
オレキシンA ELISAキットワコー
オレキシンA ELISAキットワコーは検体中のオレキシンAを測定可能なELISAキットです。ラジオアイソトープ (RI) を使用せずに少量検体から高感度にオレキシンAを測定することができます。
キット性能
| 測定対象 | オレキシンA |
|---|---|
| 検量線範囲 | 4.69-300 pg/mL |
| 測定対象検体 | ヒト 脳脊髄液 ラット 脳脊髄液/血清/血漿 |
| 必要検体量 | 25 μL |
| 測定時間 | 約20時間 |
| 検出法 | 発色系 (測定波長: 450 nm) |
測定原理

データ
希釈直線性試験
ヒトおよびラットの脳脊髄液 (CSF) に3濃度のスタンダードを添加し、本製品を用いて希釈直線性試験を実施した。


添加回収試験
> ヒト脳脊髄液
| 添加量 (pg/mL) |
測定値 (pg/mL) |
期待量 (pg/mL) |
回収率 (%) |
|
|---|---|---|---|---|
| 検体1 | 0 | 12.25 | - | - |
| 5 | 14.29 | 17.25 | 82.84 | |
| 20 | 23.25 | 32.25 | 72.09 | |
| 100 | 65.16 | 112.25 | 58.05 | |
| 平均 | 70.99 | |||
| 検体2 | 0 | 47.21 | - | - |
| 5 | 50.45 | 52.21 | 96.63 | |
| 20 | 55.71 | 67.21 | 82.89 | |
| 100 | 107.12 | 147.21 | 72.77 | |
| 平均 | 84.10 | |||
| 検体3 | 0 | 24.41 | - | - |
| 5 | 25.99 | 29.41 | 88.37 | |
| 20 | 35.07 | 44.41 | 78.97 | |
| 100 | 83.51 | 124.41 | 67.13 | |
| 平均 | 78.16 | |||
> ラット脳脊髄液
| 添加量 (pg/mL) |
測定値 (pg/mL) |
期待量 (pg/mL) |
回収率 (%) |
|
|---|---|---|---|---|
| 検体1 | 0 | 51.82 | - | - |
| 5 | 54.96 | 56.82 | 96.73 | |
| 20 | 63.74 | 71.82 | 88.75 | |
| 100 | 120.77 | 151.82 | 79.55 | |
| 平均 | 88.34 | |||
| 検体2 | 0 | 47.69 | - | - |
| 5 | 55.55 | 52.69 | 105.43 | |
| 20 | 63.40 | 67.69 | 93.66 | |
| 100 | 109.95 | 147.69 | 74.45 | |
| 平均 | 91.18 | |||
| 検体3 | 0 | 38.05 | - | - |
| 5 | 43.99 | 43.05 | 102.18 | |
| 20 | 59.12 | 58.05 | 101.84 | |
| 100 | 101.16 | 138.05 | 73.28 | |
| 平均 | 92.43 | |||
> ラット血清
| 添加量 (pg/mL) |
測定値 (pg/mL) |
期待量 (pg/mL) |
回収率 (%) |
|
|---|---|---|---|---|
| 検体1 | 0 | ND | - | - |
| 5 | 5.64 | 5.00 | 112.80 | |
| 20 | 19.94 | 20.00 | 99.70 | |
| 100 | 89.58 | 100.00 | 89.58 | |
| 平均 | 100.69 | |||
| 検体2 | 0 | 6.42 | - | - |
| 5 | 12.26 | 11.42 | 107.36 | |
| 20 | 25.05 | 26.42 | 94.82 | |
| 100 | 93.60 | 106.42 | 87.95 | |
| 平均 | 96.71 | |||
> ラット血漿
| 添加量 (pg/mL) |
測定値 (pg/mL) |
期待量 (pg/mL) |
回収率 (%) |
|
|---|---|---|---|---|
| 検体1 | 0 | 1.45 | - | - |
| 5 | 6.81 | 6.45 | 105.58 | |
| 20 | 20.30 | 21.45 | 94.64 | |
| 100 | 91.13 | 101.45 | 89.83 | |
| 平均 | 96.68 | |||
| 検体2 | 0 | 2.28 | - | - |
| 5 | 7.20 | 7.28 | 98.90 | |
| 20 | 21.64 | 22.28 | 97.13 | |
| 100 | 90.51 | 102.28 | 88.49 | |
| 平均 | 94.84 | |||
[結果]
添加量100 pg/mLでは回収率が低下する傾向にあったものの、いずれの検体も測定範囲内でおおむね良好な回収率を示した。
参考文献
- Soya, S. and Sakurai, T.: Front. Neurosci., 14, 691(2020).
Evolution of orexin neuropeptide system: structure and function - Sakurai, T. et al.: Cell, 92(4), 573(1998).
Orexins and orexin receptors: a family of hypothalamic neuropeptides and G protein-coupled receptors that regulate feeding behavior - de Lecea, L. et al.: Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 95(1), 322(1998).
The hypocretins: hypothalamus-specific peptides with neuroexcitatory activity - Lin, L. et al.: Cell, 98(3), 365(1999).
The sleep disorder canine narcolepsy is caused by a mutation in the hypocretin (orexin) receptor 2 gene - Chemelli, R. M. et al.: Cell, 98(4), 437(1999).
Narcolepsy in orexin knockout mice: molecular genetics of sleep regulation - Willie, J. T. et al.: Neuron, 38(5), 715(2003).
Distinct narcolepsy syndromes in Orexin receptor-2 and Orexin null mice: molecular genetic dissection of Non-REM and REM sleep regulatory processes - Mignot, E. et al.: Arch. Neurol., 59(10), 1553(2002).
The role of cerebrospinal fluid hypocretin measurement in the diagnosis of narcolepsy and other hypersomnias - 日本睡眠学会: 「ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン」
https://jssr.jp/files/guideline/narcolepsy.pdf (2026年9月閲覧)
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