腸管オルガノイド

腸管オルガノイドは、ES細胞やiPS細胞から単一の細胞を誘導するだけでなく、複数の細胞から形成される三次元組織として、腸管組織を再現したものです。ヒトの腸管が形成される過程をin vitroで観察できるようになったことで、大腸がんなどの病態研究や医薬品の安全性試験での活用が進められています。
腸管オルガノイドの基礎から作製原理、分化誘導プロトコル・使用する試薬をご紹介します。

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腸管オルガノイドの基礎

腸管オルガノイドの基礎

腸管は栄養吸収だけでなく、免疫機能や体内環境の維持にも重要な役割を果たす複雑な臓器です。しかし、ヒト腸管の発生過程や疾患メカニズムを直接解析することは容易ではなく、これまで動物モデルや培養細胞が主な研究手法として利用されてきました。

こうした課題を解決するため、近年注目されているのがヒト腸管オルガノイドです。ヒト腸管オルガノイドは、ヒトiPS細胞やES細胞から作製される三次元組織であり、ヒト腸管の構造や機能、発生過程を試験管内で再現できることから、次世代の腸研究モデルとして期待されています。

腸管オルガノイドは、ヒト多能性幹細胞を確定内胚葉へ分化誘導した後、WNTやFGFなどのシグナルを段階的に制御することで形成されます。まず中腸様組織へと分化が誘導され、ヒト腸オルガノイド (Human Intestinal Organoids:HIO) が形成されます。さらに、BMPシグナルを活性化することで結腸の特性を獲得し、結腸オルガノイド (Human Colonic Organoids:HCO) が形成されます。形成された球状体をマトリックス中で約1カ月培養すると、HIOおよびHCOは、腸上皮細胞、パネート細胞、杯細胞、腸内分泌細胞などを含む上皮組織と間葉系細胞に囲まれた組織構造を形成します。この分化・成熟過程は胚発生時の腸形成を再現しており、ヒト腸管発生を理解するための優れたモデルとなっています。

従来の成人組織由来オルガノイドが主に上皮細胞から構成されるのに対し、iPS細胞由来腸管オルガノイドは上皮細胞に加えて間葉系細胞も含みます。そのため、細胞間相互作用や組織形成過程をより生体に近い状態で解析できるという特徴があります。また、動物モデルで問題となる種差の影響を受けにくく、ヒト特有の生理機能や遺伝子発現を反映した研究が可能です。

現在、腸管オルガノイドは腸発生研究をはじめ、先天性消化管疾患、大腸がんなどの疾患研究に幅広く利用されています。さらに患者由来iPS細胞や患者由来オルガノイド (Patient-Derived Organoids:PDO) を用いることで、薬剤スクリーニングや個別化医療への応用も進んでいます。近年では、免疫細胞や腸管神経細胞との共培養、Organ-on-a-Chip技術との組み合わせによって、より生体内に近い腸モデルの構築も進められています。

このように腸管オルガノイドは、ヒト腸管の発生・生理機能・疾患メカニズムの解明から創薬・再生医療までを支える革新的な研究プラットフォームとして、今後さらなる発展が期待されています。

腸管オルガノイドの作製方法

腸管オルガノイドの作製方法には大きく2つあります。 1つは、患者由来の腸組織から腸陰窩を分離し、培養して作製する方法です。
もう1つは、ヒトES細胞 (hESC) やヒトiPS細胞 (hiPSC) などのヒト多能性幹細胞を段階的に分化誘導して作製する方法です。

腸管オルガノイドの作製方法
※Zhang, K et al,. 2026のデータを元に改変・作成

hPSC由来 腸管オルガノイド作製プロトコル

腸管オルガノイドの作製において、各過程で使用する試薬をご紹介します。
プロトコル詳細については、参考文献 (Tominaga, K et al., 2024、Liu, F et al., 2025) をご参照ください。

プロトコル例1 (Tominaga, K et al., 2024)

iPSCs 確定内胚葉 中腸/後腸内胚葉への
パターン形成
中腸/後腸球状体
培地 hPSC medium RPMI Advanced DMEM/F12
血清/添加剤 NEAA/FBS N2/B27/L-Glutamine/HEPES/PS
解離試薬 Accutase
足場材 EHS gel matrix EHS gel matrix
培養用化合物 Y-27632 Y-27632
CHIR99021
サイトカイン ActivinA FGF4 EGF
器材 6-well plate 24-well plate 24-well plate

※Tominaga, K et al., 2024 のデータを基に改変・作成

プロトコル例2 (Liu, F et al., 2025)

iPSCs 胚葉-中胚葉誘導 腸管パターン形成 腸管成熟
培地 hPSC medium RPMI/hPSC medium RPMI Advanced DMEM/F12
血清/添加剤 L-Ala-L-Gln/B27-insulin L-Ala-L-Gln/B27/N2
解離試薬 Trypsin-EDTA
足場材 EHS gel matrix
培養用化合物 A83-01/5AZA/PD98059/DAPT
サイトカイン BMP4/ActivinA Wnt3a/FGF4 EGF/R-Spondin 3/Noggin EGF
器材 96-well plate

※Liu, F et al., 2025 のデータを基に改変・作成

参考文献

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