プロテオミクス用タンパク質可溶化剤

LysoPure™ Protein Extraction-PTS Solution

プロテオミクスにおいて、LC-MS/MSの前工程であるタンパク質抽出や断片化は実験の結果を大きく左右します。特に膜タンパク質は疎水性が高いため、抽出が難しいことが知られており、強力な可溶化剤を使用する必要があります。しかしながら、強力な可溶化剤はその後の工程で使用する消化酵素の活性を阻害したり、LC-MS/MSでの分離やイオンの検出に悪影響を与えてしまうことが課題でした。
LysoPure™ Protein Extraction-PTS Solutionはプロテオミクスの前処理であるタンパク質抽出で使用する可溶化剤です。相間移動溶解剤 (PTS: Phase Transfer Surfactant) を用いた前処理方法であるPTS法に基づき、抽出が難しいタンパク質を可溶化しつつ、消化酵素の活性は阻害しない、なおかつ液液分配による除去が容易という特性を有しています。本製品はこれまでのPTS溶液よりもタンパク質の可溶化能とタンパク質消化酵素の活性が高く、さらに消化酵素による切断ミスの発生も低いことが特長です。エクソソームなど細胞外小胞のプロテオミクスにも使用できます。

プロテオミクスにおけるタンパク質抽出の課題

プロテオミクス (Proteomics) は、サンプル中に存在するタンパク質を網羅的に解析する手法です。サンプルからタンパク質を抽出後、消化酵素で断片化し、液体クロマトグラフィータンデム質量分析計 (LC-MS/MS) でペプチドの構造情報を取得することで分析をおこないます。これまでLC-MS/MSではカラムや充填剤の改良、MSの高感度化・高速化など多くの改良が重ねられ、現在では複数サンプルの同時分析や低発現タンパク質の定性・定量分析が可能になっています。
LC-MS/MSの前工程であるタンパク質抽出や断片化もプロテオミクスの結果を大きく左右します。これらの工程ではいかにロスなく、多くのタンパク質を抽出し、断片化できるかが肝心です。特に膜タンパク質は疎水性が高いため、抽出が難しいことが知られています。プロテオミクスで膜タンパク質まで抽出しようとすると強力な可溶化剤を使用する必要があります。しかしながら、強力な可溶化剤はその後の工程で使用する消化酵素の活性を阻害したり、LC-MS/MSでの分離やイオンの検出に悪影響を与えてしまうことが課題でした。
そのような中、抽出が難しいタンパク質を可溶化しつつ、消化酵素の活性は阻害しない、なおかつ除去が容易である理想的な可溶化剤として、デオキシコール酸ナトリウムを主成分とする相間移動溶解剤 (Phase Transfer Surfactant) が開発されました1)。これを用いた前処理方法はPTS法と名づけられ、膜タンパク質をはじめとする疎水性タンパク質の前処理において多くの実績が報告されています。

  1. PTS
    タンパク質
  2. サンプルから
    タンパク質を抽出

  3. 酵素による
    タンパク質消化

  4. 溶液の酸性化と
    攪拌・遠心

  5. 上層の除去

  6. LC-MS/MS

図1 PTS法によるタンパク質抽出文献1)を元に作成

LysoPure™ Protein Extraction-PTS Solution

LysoPure™ Protein Extraction-PTS Solutionはプロテオミクスの前処理であるタンパク質抽出で使用する可溶化剤です。相間移動溶解剤 (PTS: Phase Transfer Surfactant) を用いた前処理方法であるPTS法に基づき、抽出が難しいタンパク質を可溶化しつつ、消化酵素の活性は阻害しない、なおかつ液液分配による除去が容易という特性を有しています。本製品は既存の報告1-2)に改良を加えたPTS溶液であり、これまでのPTS溶液よりもタンパク質の可溶化能とタンパク質消化酵素の活性が高く、さらに消化酵素による切断ミスの発生も低いことが特長です。エクソソームなど細胞外小胞のプロテオミクスにも使用できます。

特長

  • 抽出が困難な疎水性の高いタンパク質 (膜タンパク質など) も抽出可能
  • 消化酵素の活性を阻害しない
  • 可溶化剤は液液分配によって容易に除去可能

プロトコル

細胞からのタンパク質抽出

  1. サンプル準備細胞を回収後、
    遠心分離し、上清を除去

  2. タンパク質抽出PTS溶液を添加し、
    細胞を懸濁

  3. 還元・アルキル化DTT, IAAを添加

  4. タンパク質消化TEABやAmBicで希釈し、
    Lys-C/トリプシンを添加

  5. 疎水性溶媒の添加酢酸エチルを添加

  6. 酸性化TFAを添加

  7. 界面活性剤の除去上層を取り除く

  8. 脱塩

  9. LC-MS/MS

細胞外小胞 (EV) からのタンパク質抽出 (MagCapture™ Exosome Isolation Kit PS Ver.2を使用した場合)

  1. サンプル準備EVが結合した磁気ビーズ
    を磁気スタンドで沈殿させ、
    上清を除去

  2. タンパク質抽出PTS溶液を添加し、
    ビーズを懸濁

  3. 還元・アルキル化DTT, IAAを添加

  4. タンパク質消化TEABやAmBicで希釈し、
    Lys-C/トリプシンを添加

  5. 疎水性溶媒の添加酢酸エチルを添加

  6. 酸性化TFAを添加

  7. 界面活性剤の除去上層を取り除く

  8. 脱塩

  9. LC-MS/MS

詳細なプロトコルは製品詳細ページの取扱説明書をご覧ください。

データ

タンパク質の可溶化能

複数の界面活性剤を混合した異なる組成の各種PTS溶液を用いて、ヒト肝ミクロソーム画分からタンパク質抽出を行い、それぞれのタンパク質濃度を比較した。

[結果]

本製品は他の界面活性剤で構成される従来のPTS溶液よりも、高い可溶化能を示した。

タンパク質消化酵素の活性と切断ミスの発生率

タンパク質消化酵素の活性
PTS溶液 トリプシン リシルエンドペプチダーゼ (Lys-C)
PTS溶液の濃度 活性 初速度 PTS溶液の濃度 活性 初速度
SDC+SLS 4 mM 12.6 4.4 4 mM 2.5 1.9
SDC+SC 8 mM 5.7 2.3 8 mM 2.6 2.4
SDC+CDC 8 mM 7.5 4.4 8 mM 2.4 1.8
本製品 8 mM 10.3 4.6 8 mM 2.6 1.8
切断ミスの発生数
PTS溶液 切断ミス発生数
UDC 586
SDC+SLS 723
SLS+SC 273
本製品 291
CDC
ケノデオキシコール酸
SC
コール酸ナトリウム
SDC
デオキシコール酸ナトリウム
SLS
ラウロイルサルコシン酸ナトリウム
UDC
ウルソデオキシコール酸
[結果]

トリプシンの酵素活性はPTS溶液Bが最も高かったものの、切断ミスの発生数も最も多かった。本製品はトリプシンでの酵素活性はPTS溶液Bに劣るものの、リシルエンドペプチダーゼの切断活性は最も高く、切断ミスも少なかった。したがって本製品は酵素活性は高く、切断ミスの発生数が少ないバランスの優れたPTS溶液であることが示唆された。

参考文献

  1. 1)Masuda, T., Tomita, M. & Ishihama, Y.: J. Proteome Res., 7(2), 731(2008).
    Phase transfer surfactant-aided trypsin digestion for membrane proteome analysis
  2. 2) Masuda, T. et al.: Mol. Cell. Proteomics, 8(12), 2770(2009).
    Unbiased Quantitation of Escherichia coli Membrane Proteome Using Phase Transfer Surfactants

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