PAH
PAH
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ドキュメント
製品概要
PAHは、ポリアクリル酸でありリチウムイオン二次電池向け高容量シリコン負極用に開発されたバインダーです。この分散液を中和することによって、粘性・電池特性の調整が可能です。
特長
- PAH のカルボキシル基が中和によって解離し、電極中の活物質の分散が大幅に改善。
- 中和度合によって、粘性・電池特性の調整が可能。
製品の紹介1)
PAHバインダーのレオロジー
PAH溶液にAOH(A = Li、Na、K)水溶液を滴下した際の、振動式粘度計で測定した粘度変化を図1(a)に示します。 LiOHで中和した場合PAH溶液の粘度は、比較的緩やかに上昇するのに対し、アルカリ源としてNaOH水溶液を使用すると、PAH溶液の粘度は低い中和度で急速に増加しますが、完全に中和されると減少しました。また、アルカリ源としてKOH水溶液を使用すると、PAH 溶液の粘度はNaOH水溶液より中和度の低いところから急速に増加します。ポリアクリレート溶液の粘度は、側鎖の脱プロトン化されたカルボキシル基 (–COO-) 間の分子間静電反発により、ポリマー分子鎖がストレッチコンフォメーションをもつ場合に増大します。これらの結果は、カリウムとナトリウムがリチウムと比較してポリアクリレートを容易に解離することを示唆しています。これはルイス酸性がLi+からNa+および K+イオンの順に低下し、-COOLi の解離度が低下するという知見と一致しています。回転粘度計によるせん断速度測定でも同様の傾向が見られ、PAH、PANa、PAH0.2Na0.8の順で粘性が増大します(図1(b))。溶液中のポリアクリレート鎖のコンフォメーションは、動的粘度の変化と密接に関連しており、PAH 水溶液が PANa と比較して低い粘性を示すのは、水溶液中の凝集した分子構造によるものと考えられます。図1(a)で示すように、 PAHが中和されることによって分子鎖がストレッチコンフォメーションをもつため、粘度は連続的に増加します。
PAHとその中和体の水溶液中でのコンフォメーションの模式図を図2に示します。PAHは分子内水素結合により凝集した分子構造をもつため水溶液の流動抵抗が小さく、水溶液の粘性は低くなります。中和すると、隣接するカルボキシル基の分子内静電反発によってポリマー鎖が徐々に伸びるために水溶液中の流動抵抗が増加して粘性が増大します。PAH0.2Na0.8において、ポリマーの未中和カルボキシル基間で水素結合を介した物理架橋を形成することで、ポリマー鎖が実質的に長くなるため、完全中和体よりも粘性が高くなると考えられます。
PAHバインダーを使用した場合の電池特性
従来使用されるポリフッ化ビニリデン(PVdF)とPAHをバインダーに使用した際の初回充放電曲線を図3に示します。電極は、10 wt%のバインダー水溶液を用い、シリコン (粒径100 nm) : グラファイト : ケッチェンブラック : バインダーを3 : 5 : 1 : 1の重量比となるように混合したスラリーを銅箔上に塗布、乾燥させて作成し、定電流充放電試験は対極にリチウム箔を用いたコインセルで実施しました。PVdF バインダーを使用すると、初期還元容量が約2300 mAh/gと最も高い値を示しましたが、可逆容量は約1000 mAh/gであり、約40%と低い初期クーロン効率になりました。また、初期還元プロセス中に電解質分解に関連する0.8 Vでの長いプラトー電位が観察されました。対照的に、ポリアクリレート(PAH1-xNax)バインダーを含む複合電極を使用した場合、そのようなプラトー電位はそれほど重大ではなくなることから、電解質分解が効果的に抑制されたことを示しています。さらに、x = 0.0から0.8への中和度の増加に伴い、初期還元と可逆容量が著しく増加し、PAH1-xNax電極の初期クーロン効率もPAHの約55%からPAH0.2Na0.8の69%に大幅に改善されました。ただし、完全に中和されたPANaの場合、初期還元および可逆容量が減少し、PAH0.2Na0.8バインダーでは可逆容量が約1400 mAh/gであるのに対し、 PANaバインダーでは1100 mAh/gと可逆容量が減少しました。
各バインダー電極の繰り返し充放電時の放電容量変化を図4に示します。PVdFバインダーを使用した複合電極の可逆容量は、最初の数サイクルで600から300 mAh/gと大幅に低下しましたが、PAH1-xNaxバインダーを使用した複合電極は、 PVdFバインダーより優れた容量保持を示しました。特に、PAH0.2Na0.8バインダーを含む複合電極は、約1200 mAh/gの高い可逆容量に加え、20サイクルで約98%のクーロン効率と良好な容量保持を示しました。以上の結果から、PAH0.2Na0.8バインダーは、テストしたバインダーの中でけい素-グラファイト複合電極に最も適していることがわかりました。 PAH0.2Na0.8バインダーによる高い可逆容量は、自己形成された多孔質構造に由来すると考えられています2) 。
PAHの中和度合とpH対応表
PAHの中和度に達するのに必要なpH値を各水酸化物ごとにまとめたものを表1に示します。例えば、水酸化物として水酸化ナトリウムを使用して中和度80%のポリアクリル酸を調製したい場合、pH値を6.7まで中和することによって調製が可能です。
表1. 水酸化物を用いた場合のポリアクリル酸の中和度に対応するpHの値
ポリアクリル酸 | 水酸化物 (AOH)による中和度 (%) | pH値 | |||
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A = Li | A = Na | A = K | A = NH4 | ||
PAH | 0 | 2.7 | 2.7 | 2.7 | 2.7 |
PAH0.8A0.2 | 20 | ― | 4.7 | ― | ― |
PAH0.6A0.4 | 40 | ― | 5.5 | ― | ― |
PAH0.4A0.6 | 60 | 5.8 | 6.1 | 6.2 | 5.8 |
PAH0.2A0.8 | 80 | 6.5 | 6.7 | 6.9 | 6.5 |
PALi, PANa, PAK or PANH4 | 100 | 9.7 | 9.7 | 9.7 | 8.0 |
参考文献
- Han, Z. J., Yamagiwa, K., Yabuuchi, N., Son, J. Y., Cui, Y. T., Oji, H., Kogure, A., Harada, T., Ishikawa, S., Aoki, Y., Komaba, S.: Phys. Chem. Chem. Phys., 17, 3783 (2015).
- Han, Z. J., Yabuuchi, N., Hashimoto, S., Sasaki, T., Komaba, S.: ECS Electrochem. Lett., 2, A17 (2013).
謝辞
本製品ページを作成するにあたり、東京理科大学理学部第一部応用化学科駒場慎一先生に図の提供をしていただきました。この場を借りて、御礼申し上げます。
概要・使用例
使用上の注意 | アルゴン封入 |
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物性情報
外観 | 白色の粉末、塊 |
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「物性情報」は参考情報でございます。規格値を除き、この製品の性能を保証するものではございません。
本製品の品質及び性能については、本品の製品規格書をご確認ください。
なお目的のご研究に対しましては、予備検討を行う事をお勧めします。
製造元情報
別名一覧
- ポリアクリル酸
- 掲載内容は本記事掲載時点の情報です。仕様変更などにより製品内容と実際のイメージが異なる場合があります。
- 製品規格・包装規格の改訂が行われた場合、画像と実際の製品の仕様が異なる場合があります。
- 掲載されている製品について
- 【試薬】
- 試験・研究の目的のみに使用されるものであり、「医薬品」、「食品」、「家庭用品」などとしては使用できません。
- 試験研究用以外にご使用された場合、いかなる保証も致しかねます。試験研究用以外の用途や原料にご使用希望の場合、弊社営業部門にお問合せください。
- 【医薬品原料】
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