負極材料

リチウムイオン電池 (LIB) の負極は充電時にリチウムイオンを吸蔵し、放電時にはリチウムイオンを放出することで電極としてはたらきます。LIBの負極はリチウムイオンの吸蔵、放出に直接関与する活物質、電極材料を集電箔に結着させるバインダーから構成され、これらの物質を混合したスラリーを集電箔に塗布し、乾燥させることで作成します。また、電極内の導電性を高めるため、導電助剤を用いる場合もあります。

負極活物質

負極活物質としてグラファイトやチタン酸リチウムが主に使用されています。グラファイトはグラフェンシートが積層した層構造を有しており、この層間にリチウムイオンが挿入、脱挿入されることで負極活物質として働きます。グラファイトは0.1~0.2 V vs Li+/Liと非常に強い還元力を示すため、初回充電時に負極表面で電解液や電解質が還元され、固体電解質界面(solid-electrolyte interphase、SEI)が形成されます1)。このSEIはイオン伝導性であるものの電気絶縁性であるため、リチウムイオンの移動は妨げずに電解液のそれ以上の分解を防ぎます。グラファイトの理論容量は372 mAh/gであり、金属リチウムの理論容量3860 mAh/gの10分の1程度ですが、安全性の観点からグラファイトが使用されています。

チタン酸リチウムはスピネル型の結晶構造を有し、リチウムイオンを吸蔵、放出することで負極活物質として働きます。チタン酸リチウムはリチウムの吸蔵、放出の過程で体積変化がほとんどないため、負極の崩壊が抑えられることにより優れたサイクル特性を示します2)。またリチウム挿入電圧は1.5 V vs Li+/Liと高い電位であるため、リチウムがデンドライトを形成する心配がほとんどなく、安全性に優れています。理論容量は175 mAh/gとグラファイトより小さいものの、サイクル特性、安全性の面から大型リチウム電池などの一部の用途において広く利用されています。

また近年、リチウムと合金化するシリコン系材料も注目されています3)

バインダー

バインダーは活物質、導電助剤を集電箔に結着させるために用いられます。また電気化学的に安定であること、電解液に溶解しないことなど多くの条件を満たす必要があります。代表的なバインダーとしては、ポリフッ化ビニリデンのような溶剤系バインダーやスチレンブタジエンコポリマーのような水系バインダーが挙げられます。電極材料同士の結着や、電極材料の集電箔への結着が壊れると電極内の導電性が低下し、それによって容量や出力の低下を引き起こすため、適切なバインダーを用いることが重要です。また、当社では架橋型ポリアクリル酸バインダーであるCLPAHを独自に取り扱っており、CLPAHを用いることで、電池特性が向上することが報告されています4)

導電助剤

導電助剤は電極内の導電性を高めるために用いられます。活物質の導電性が十分でない場合、Liイオンの移動が抑制されることで電力を取り出しにくくなります。そのため、電極内部の抵抗を減らし、効率的に電力を取り出すために導電助剤が利用されます。主な導電助剤としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素系材料があります。

参考文献

  1. Peled, E.:J. Electrochem. Soc., 126, 2047 (1979).
  2. Ohzuku, T., Ueda, A. and Yamamoto, N.:J. Electrochem. Soc., 142, 1431 (1995).
  3. Kasavajjula, U., Wang, C. and Appleby, A. J.:J. Power Sources, 163, 1003 (2007).
  4. Aoki, S., Han, Z. J., Yamagiwa, K., Yabuuchi, N., Murase, M., Okamoto, K., Kiyosu, T., Satoh, M. and Komaba, S. : J. Electrochem. Soc., 162, A2245 (2015).
  5. 金村 聖志 他:「リチウムイオン電池の部材開発と用途別応用《普及版》」(シーエムシー出版(株))(2018).

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バインダー

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