NMR装置

当社では、日本電子株式会社のNMR装置を取扱っております。
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特長

  • ハイエンド機とほぼ同等の基本機能を有しながら分光計はさらなる小型化を実現
  • Supper CooLプローブ (オプション) などの超低温プローブ技術を応用した超高感度オートチューンプローブを付属することにより世界最高クラス感度を実現

本ページでは製品紹介に加え、qNMRのデータ取得 (NMR測定) において注意するポイントを、「第十七改正日本薬局方第二追補 試薬・試液 (E)-ケイ皮酸, 定量用」の測定条件を例にご紹介します1)

パラメータ 設定値
装置 1H共鳴周波数400 MHz以上の核磁気共鳴スペクトル測定装置
測定対象とする核 1H
デジタル分解能 :0.25 Hz以下
観測スペクトル幅 :-5 ~ 15 ppmを含む20 ppm以上
スピニング :オフ
パルス角 :90℃
13Cデカップリング :あり
遅延時間 :繰り返しパルス待ち時間60秒以上
積算回数 :8回以上
ダミースキャン :2回以上
測定温度 :20~30℃の一定温度
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  • 定量NMR (qNMR) の原理についてはこちら
  • qNMRの基準物質の選定、試料調製についてはこちら
  • 重溶媒の選択についてはこちら
  1. 第十七改正日本薬局方第二追補 試薬・試液 (E)-ケイ皮酸, 定量用 (2016).
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特長

世界最小の分光計

400MHzのNMR分光計としては世界最小です。漏洩磁場の小さい超伝導磁石 (SCM) との組み合わせで、より柔軟な設置レイアウトが可能です。

STSによる先進アーキテクチャ

集積デジタル回路技術と最新高周波技術の融合により、新たに開発された送受信そシステムSTS (Smart Transceiver System) を搭載。従来機から培われたマルチシーケンサ方式を最大限活用し、8チャンネルの周波数ソースを標準搭載しています。全てのチャンネルは同期/非同期関わらず自由に制御可能であり、日々の分析業務に使用されうる全てのパルスプログラムをストレスなく実行できるだけでなく、より複雑で長大なパルスプログラムを編集、実行できます。

高安定度・高精度デジタル分光計

高品質なスペクトルを得るために必要な高い安定度を保つように、ラジオ波発生回路や、NMRロック回路など、デジタル化が有効な全ての回路をデジタル化。優れた安定性を持つ分光計は、溶媒信号消去や差スペクトル測定にも威力を発揮し、多種多様なNMRスペクトルを美しくかつ容易に得ることができます。

ROYALプローブ

NMR spectrometer Zに標準搭載される、JEOLのプローブ技術の粋を集めて設計されたROYALプローブは、従来のオートチェーンプローブと比べて約2倍の1H感度を達成します。これにより、従来通りの使い勝手でありながら、より短時間で測定結果を得ることができます。スピードが求められる現代のNMR測定現場において、感度の向上による測定の迅速化を実感していただけます。また、極低温プローブや3重共鳴プローブなど、多彩なプローブをオプションとしてラインナップしており、目的に合わせてお選びいただけます。

先進的なソフトウェアと自動化技術

NMR spectrometer Zは、インターフェイスがさらに改良された分光計制御/データ処理ソフトウェア「Delta」を採用。Deltaの優れた自動測定インターフェイスと標準化されたグラジエントシムの組み合わせにより、極めてシンプルな操作により、常に最良の分解能で自動測定が行えます。また、オートサンプルチェンジャーとオートチューニングを活用することで、日常測定業務のすべてを自動化することができます。

ネットワーク分光計

NMR spectrometer Zは、真の意味でネットワークに対応した分光計です。オペレーション端末と独立して動作する分光計は、ネットワーク上のどのコンピューターからもコントロールすることができます。

大地震でも転倒しなかった実績のある防振台

JEOLがSCMに取り付けるベースプレート付き防振台は、NMRスペクトルに影響を及ぼす床から伝わる微小振動を極限まで取り除くことが出来ます。NMRメーカーで唯一大地震でのSCM転倒を防いだ信頼性の高い防振台です。

外部磁場強度

NMRスペクトルにおける感度と分解能・分離度は、外部磁場の大きさに依存します。分析の目的・目標精度にに適した外部磁場強度のNMR装置を選択することが大切です。

酢酸エチルの同じ試料溶液を、外部磁場強度45 MHzと400 MHzで測定した際の1H NMRスペクトルの比較結果を示します1)。この結果から、45 MHzと比べて、400 MHzの方が、感度・分解能ともに極めて良好であり、外部磁場の大きさがNMRスペクトルに与えるインパクトの大きさが一目でわかります。

日本薬局方における分析値は、原則として二桁保証となっており、(E)-ケイ皮酸のqNMR純度規定では、400 MHz以上の核磁気共鳴スペクトル装置の使用を規定し、これにより得られるNMRスペクトルに対して良好な感度と分解能・分離度を確保することで、qNMR分析結果の二桁目まで信頼性が担保されるような仕組みとなっています。

  1. 高岡真也, 三浦亨 他, 第1回日本定量NMR研究会年会, ポスターセッション (2019).

デジタル分解能・観測幅

NMR信号 (Free Induction Decay or FID) は、アナログ信号として検出され、ADコンバータでデジタル化されます。この際のFIDのデータポイント数は、フーリエ変換後のNMRスペクトルに反映され、このときのポイント間の間隔をデジタル分解能 (Hz) と呼びます。

日本薬局方(E)-ケイ皮酸のqNMR純度規定においては、デジタル分解能は、0.25 Hz以下に設定すると規定されています。デジタル分解能は一般的に、パラメータとして設定せずにデータポイント数と観測幅から自動的に設定されます。少ないデータポイント数では、アナログデータにおける本来の信号形状を忠実に再現することができません。

qNMR測定では、十分なデジタル分解能を達成できるデータポイント数でNMR信号を取得することが推奨されています。ただし、データポイント数が大きすぎると、その逆数である取り込み時間が長くなり、不要なノイズの取り込み=SN比の低下を生じるので、注意が必要です。

パルス角と遅延時間

パルス角とは、静磁場中の熱平衡状態における核磁化ベクトルが、ラジオ波パルスによって静磁場の方向から倒れた角度のことを言います。遅延時間とは、パルス列の最初のパルスを打ってから、次の積算で同じパルスを打つまでの待ち時間を言います。まずはベクトルモデルからNMR信号の検出原理を考えます。

  1. ① 原子核は正の電荷を持ち、その回転によって磁石としての性質を持ちます (核スピンと呼びます)。
  2. ② 通常、無数の核スピンはランダムな方向を向いていますが、静磁場中に入ると、静磁場方向とその反対方向にきれいに分かれます (静磁場方向を向いている核スピンの方が、わずかに数が多いため、核スピン全体の振る舞いとしては、静磁場方向のベクトル (磁化ベクトル) を考えます)。
  3. ③ ここでNMR現象を考えるために、ベクトルモデル(回転座標系と磁化ベクトルの動きを考えるやり方)を利用します。
  4. x軸方向からパルスを照射すると磁化ベクトルはy-z平面内で時計回りに回転 (傾き) します。
  5. ⑤~⑩ y-z平面内で傾いた磁化ベクトルは、共鳴周波数で回転しながら、z軸方向に戻ります (緩和)。緩和過程をy軸方向のみに限定すると、振動しながらその強度を小さくしていくことが分かります。
  6. ⑪~⑫ 検出コイルを配置して、この磁化ベクトルのy軸方向成分を検出したものがNMR信号 (FID) です。

ここで、パルス角に着目した場合、ベクトルモデルから分かるように、磁化ベクトルのy軸方向成分 (シグナル強度) は、90°パルスを使用したときが最大 (最も感度が高い) になります。さらに、遅延時間 (Tr)、縦緩和時間 (T1) 及び磁化回復率 (%) の関係性を示した以下表から分かるように、磁化を99.9%以上回復させることを前提とした場合、一定時間内の積算で得られる感度 (SN比) は、90°パルスの方が、30°パルスよりも有利であることが分かります。ここで、縦緩和時間 (T1) とは、NMRにおいて原子核がラジオ波を吸収して励起された状態から熱平衡状態に戻る過程を緩和と呼びますが、その緩和に要する時間を表す時定数を言います。

  • Tr / T1 パルス角
    90℃ 30℃
    1 63.2 92.8
    4 98.2 99.8
    7 99.9 100.0
    10 100.0 100.0
  • ここで
    Tr:遅延時間 (s)
    T1:縦緩和時間 (s)

また、遅延時間に着目した場合、ベクトルモデルから分かるように、磁化回復の前に次のパルスを照射してしまうと (積算してしまうと)、y軸方向成分 (シグナル強度) の飽和が生じることになります。この際に、シグナル間でT1値が異なる場合、シグナル間でその強度にバイアスを生じることになり、その結果、qNMR測定において正確な定量値が得られないことになります。

使用する重水素化溶媒の種類やNMR装置の外部磁場強度にもよりますが、一般的な有機化合物のT1は≦8秒程度であることから、遅延時間を60秒に設定することで、全てのシグナルの磁化回復率が概ね99.9%以上を満たすことが可能となり、シグナル間でその強度にバイアスを生じないことになります。qNMR測定では、初期設定として、90°パルス角と60秒の遅延時間を設定し、分析時間や、分析の目的・目標精度などに応じて、これら条件を最適化することを推奨しています。

積算回数

積算回数とは、同一条件下で測定を繰り返したときのFID信号を積算する回数を言います。NMR測定で得られる感度は積算回数の平方根に比例することが知られており、積算すればするほど感度は向上します。

積算回数の設定は、実際には得られるNMRスペクトルの感度 (SN比) を基準に設定するのが一般的です。NMR測定で得られる感度は、積算回数に加えて、試料溶液濃度、NMR装置の外部磁場強度に依存することから、これらを3つの要素を勘案し、SN比を確認しながら条件設定することが必要と言えます。

なお、日本薬局方試薬・試液の項のqNMR純度規定においては、定量値の二桁保証を前提として、定量に利用するシグナルのSN比が100以上になるように、試験条件 (NMR装置の外部磁場強度、試料溶液濃度、積算回数) が設定されています。

分解能

NMR装置の外部磁場は一般的に不均一性を有していますが、検出部周辺に配置されたシム (Shim) と呼ばれるコイル群に流れる電流を変化させることで、この不均一性を補正し、均一性を保っています。この操作をシム調整と言います。外部磁場が不均一である場合、得られるNMRスペクトルの分解能が悪くなり、その結果、正確な積分値を得ることが困難になります。以上から、とりわけ正確な積分値の評価が求められるqNMR測定においては、シム調整は極めて重要な手順となります。

上記以外で、NMRスペクトルの分解能を低下させる主な要因を、以下に例示します。

  • 試料の溶媒への溶解が不十分
  • 化合物構造そのものに由来する
  • NMRチューブの寸法精度が悪い (真円度が低い、反りがある等)

以上のように、積分値の精確さが求められるqNMR測定においては、良好な分解能が得られる寸法精度の高いNMRチューブの利用が求められます。当社のNMRチューブは、JIS K 0138定量核磁気共鳴分光法通則 (qNMR通則) に適合した寸法精度の高いNMRチューブです。感度・分解能が良好となるよう真円度が高く、反りが小さいほうけい酸がガラス製のもので、キャップの材質は、可塑剤などの溶出が低減されたものが使用されています。本製品は、当社における数百品目を超えるqNMRを利用した試薬製品の品質試験においても実用され、良好な測定結果が得られることが確認されております。

qNMRのデータ処理・データ解析で注意するポイント

ゼロフィリング

ゼロフィリングはFIDの後ろに強度ゼロのデータ点を追加する処理です。これによりFID後のデータ点が増加し、各データ点が補間されるため、見かけ上のデジタル分解能を向上させ、積分値の精確さが向上します。積分値の精確さが求められるqNMR測定では、ゼロフィリングすることを推奨しています。

位相補正

NMR信号の位相は測定前には明らかでないため、NMR信号取得後に位相を合わせる必要があり、この補正を位相補正といいます。昨今の解析ソフトウェアの進歩によって、位相補正は自動で精度良く実施可能となっていますが、微小な位相のずれが残ることがあります。位相があっていないNMRスペクトルでは、積分値が正しく計算されません。位相のずれは積分値のバイアスやばらつきの要因となるため、qNMR測定では、測定対象成分やqNMR用基準物質のシグナルが正しい吸収波形になるように、注意深く手動で位相補正する必要があります。

ベースライン補正

NMRスペクトルは、フィルターの感度特性等の影響で歪みを有しているのが一般的です。この歪みを平坦にする処理をベースライン補正と言います。昨今の解析ソフトウェアでは、ベースライン補正用に複数のアルゴリズムが準備されていますが、qNMR測定では「ベースラインと見なされるデータポイント」を複数補正点として利用して歪みを平坦にする処理を行うのが一般的です。このベースライン補正の際、シグナルの裾の部分に補正点があるとシグナル形状に歪みが生じてしまうので、歪みが生じないようにシグナルの外側に補正点を設定することが望ましいと言えます。

積分区間の設定

NMR信号は一般的にローレンツ型であり、裾部の広がりが大きく、適切な積分区間の開始点と終点を設定しない場合、正確な積分値が得られません。ローレンツ波形のシグナルは、理論的には半値幅の±10倍でその約94%、±30倍でその約98%を包含します。NMRスペクトルで観測される各シグナルは、クロマトグラフのシグナルと違って、単一性 (シングレットシグナル) であることは稀であり、以上から全てのシグナルに対して単純に半値幅を基準に積分区間を設定することはできません。qNMR測定での積分範囲の設定は、サイエンティフィックには、ある地点を基準に積分区間を左右外側へ等間隔に拡大し、積分値が平衡化した地点をその区間として設定する手法が考えられます1)

  1. Yamazaki, T., Saito, T., Miura, T. and Ihara, T. : BUNSEKI KAGAKU, 61, 963 (2012).
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