同仁化学 細胞外ATP測定キット
細胞死をより詳細にみる
細胞死は様々な疾患の病因に関わっているため、長年研究の対象とされています。これまで、その状況や誘導のトリガーとなる刺激によってアポトーシスとネクローシスの2種類に分けられていましたが、近年フェロトーシスやオートファジー性細胞死などアポトーシスやネクローシスと異なる経路をたどる細胞死が発見されています。その細胞死を詳細に解析し種類を見分けることは、疾患の治療方法を確立するためのアプローチとして研究されています。
「細胞外ATP測定キット(Extracellular ATP Assay Kit-Luminescence)」は、他試薬と併用することで、同一サンプルから複数の指標を測定できます。

特長
① 同一サンプルを複数指標で評価できる
細胞サンプルを細胞と上清に分け、それぞれを異なる指標(試薬の併用)で測定することで、細胞死のより詳細な解析が実現します。

- 本キットには、以下の製品は含まれません。併用実験の際は、別途お求めください。
● Annexin V apoptosis Plate Assay Kit
● Cell Counting Kit-8
● Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST
製品名 | 指標 | 生細胞 | 死細胞 | 検出 |
---|---|---|---|---|
(本キット) Extracellular ATP Assay Kit-Luminescence |
細胞外ATP | - | ✓ | 発光 |
Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST | 細胞毒性 (乳酸脱水素酵素(LDH)) |
- | ✓ | 吸光度 Abs=490 nm |
Annexin V apoptosis Plate Assay Kit | アポトーシス (ホスファチジルセリン) |
- | ✓ | 蛍光 Ex=488 nm, Em=525 nm |
Cell Counting Kit-8 | 細胞生存能力 (脱水素酵素活性) |
✓ | - | 吸光度 Abs=450 nm |
② より正確な測定のためのプロトコル
細胞外への ATP の放出はかなりセンシティブで、培地交換やピペッティングを行っただけでも放出されます。
本キットでは測定に影響を与えるファクターを考慮したプロトコルによって、誰でも刺激による細胞外 ATP 量の変化をホタル・ルシフェラーゼ発光法により測定することができます。

原理

解糖系およびミトコンドリアで産生される ATP は、細胞が生きていくためのエネルギー源として重要です。一方、細胞外に放出された ATP は、損傷を受けた細胞や死にかけている細胞から放出されるダメージ関連分子パターン (damage-associated molecular patterns; DAMPs) の1つとしても知られており、神経伝達や細胞増殖、炎症、免疫反応における重要な細胞間情報伝達物質として働きます。例えば、ヒト肺繊維芽細胞では、酸化ストレスにより放出された ATP を介して細胞老化が誘導されることが報告されています。また、ATP は細胞死の初期に放出される分子であることから、ネクロプトーシスやパイロプトーシスといった細胞死の詳細なメカニズム解明おいても注目されています。Extracellular ATP Assay Kit-Luminescence は、細胞培養上清中の ATP を検出できるキットです。96ウェルマイクロプレートに対応しているため多検体測定が可能です。
実験例
Staurosporine 処理した細胞を用いた評価
アポトーシスの誘導剤 Staurosporine で処理した HeLa 細胞および A549 細胞の細胞外 ATP 放出(本キット)と細胞生存率(Cell Counting Kit-8)の時間変化を評価しました。これらの結果から、細胞種によって挙動が異なることが確認されました。

アポトーシス阻害剤を用いた評価
アポトーシス阻害剤 Z-VAD で前処理した Jurkat 細胞と、Z-VAD で前処理をしていない Jurkat 細胞を Staurosporineで処理した場合の細胞外 ATP 放出(本キット)、細胞増殖(Cell Counting Kit-8)、細胞外 LDH(Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST)の時間変化を評価しました。その結果、Z-VAD によって細胞死は阻害されましたが、アポトーシスの初期段階で放出される細胞外 ATP は時間経過とともに増加しました。

異なる薬剤を用いた評価
アポトーシス誘導剤である Staurosporine または Doxorubicin で処理した Jurkat 細胞の細胞外 ATP 放出、細胞増殖 (Cell Counting Kit-8)、細胞外 LDH (Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST) の時間変化を評価しました。その結果、Staurosporine を処理した細胞では 4 時間後に細胞外への ATP の放出が最大になり、Doxorubicin で処理した細胞では 24 時間後に最大となりました。これらの結果から、薬剤の違いにより挙動に差があることが確認されました。

Erastin 処理した細胞を用いた評価
フェロトーシス誘導剤である Erastin を各濃度で24時間処理した HeLa 細胞の細胞外 ATP 放出、細胞増殖、細胞外 LDH、ホスファチジルセリン、細胞内 Fe2+ の変化を評価しました。その結果、Erastin 濃度 25 μmol/L 処理において、細胞増殖の低下および細胞外 ATP 放出、細胞外 LDH が増加したことから、高濃度の条件では細胞死が誘導されていることがわかった。興味深いことにアポトーシス誘導剤 Staurosporine刺激時に見られた刺激初期の細胞外ATPの増加は Erastin では認められなかった。(実験例:Staurosporine 処理した細胞を用いた評価参照)Erastin 処理によりアポトーシス関連マーカーのホスファチジルセリンはどの濃度でも大きな変化は見られなかったが、フェロトーシス関連マーカーである細胞内 Fe2+ 量は低濃度で処理した条件で大きく増加し、実際の細胞死が起きる前に増加する傾向があることが示唆された。


<使用製品>
細胞外 ATP :本キット
細胞外 LDH:Cytotoxicity LDH Assay Kit-WST
細胞増殖:Cell Counting Kit-8
ホスファチジルセリン:Annexin V Apoptosis Plate Assay Kit
細胞内 Fe2+:FerroOrange

Q&A
- 1キットで測定可能なサンプル数を教えて下さい。
- サンプルの測定をn=3で行った場合、最大32サンプルの測定が可能です。
- 発光シグナルはどの程度安定ですか?
- 発光シグナルは時間とともに徐々に低下します。
- 測定用のプレートは白色以外のプレートを使用できますか?
- 発光検出のため、96穴白色マイクロプレートをご使用ください。
使用実績のあるマイクロプレートは下記の通りです。メーカー 製品名 ウェル底 Cat No. 住友ベークライト 発光測定プレート96F 白色 白色 MS-8096W Thermo Scientific 96 Well White/Clear Bottom Plate, TC Surface 透明 165306 SPL Life Sciences 96ウェル ホワイトプレート TC表面処理 白色 30196 Greiner CELLSTAR, μClear, 96ウェル, マイクロプレート, TC
(透明底, 低蒸発フタ付, ホワイト, 滅菌, PS)透明 655098 - 白色以外のプレートでも測定はできますが、ブラックプレートや透明プレートを用いた場合、発光強度が下がります。また、透明プレートの場合はブランクが高くなりますので、96穴白色マイクロプレートを推奨しております。
- 測定試料は保存できますか?
- ATPが不安定なため保存できません。細胞培養上清回収後はすぐに ATP Assayを行ってください。
- working solutionは保存できますか?
- 冷凍(-20℃)で30日間の保存が可能です。
凍結融解を繰り返すことは試薬の劣化を招く恐れがありますので、その場合はあらかじめ小分けしてから保存することをお勧めします。
- 発光測定の波長を教えてください。
- 本キットには、ホタルルシフェリンを使用しているため、発光測定の波長は 556 nm となります。
- 血清を含む培地を使用して実験を行うことは可能ですか?
- 培地に血清を含む場合、細胞から放出されたATPが分解しやすくなるため、無血清培地の使用を推奨しています。血清を含む培地を使用する場合は、血清含量が1%以下になるように調製した培地のご使用をお勧めします。
- 細胞培養上清を回収した後、遠心操作は必要ですか?
- 付着細胞、浮遊細胞いずれを用いた場合においても、遠心操作は特に必要ありません。ただし、浮遊細胞を用いて実験を行う場合、細胞をプレートの底に沈めた状態で細胞培養上清を 96穴 白色マイクロプレートに移してください。
- 浮遊細胞を用いて実験を行う際、薬剤処理後の浮遊細胞を一度 1.5mL マイクロチューブ等に回収し、遠心後の上清を ATP Assay に用いても良いですか?
- 細胞外ATP Assayを行う場合、細胞が存在する状態でピペッティングを行うと、ピペッティングの影響によりATPが放出されてしまいます。細胞外ATPを正確に測定することができないため、細胞を回収する操作は行わず、薬剤処理後は上清のみを回収し、ATP Assayを行ってください。
- 本キット Extracellular ATP Assay Kit-Luminescence (E299) を使って細胞内の ATP 量を測定することはできますか?
- 本キットでは細胞内の ATP を測定することはできません。細胞内の ATP を測定したい場合は ATP Assay Kit-Luminescence (ATP測定キット)をご使用ください。
製品一覧
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- 掲載内容は本記事掲載時点の情報です。仕様変更などにより製品内容と実際のイメージが異なる場合があります。
- 掲載されている製品について
- 【試薬】
- 試験・研究の目的のみに使用されるものであり、「医薬品」、「食品」、「家庭用品」などとしては使用できません。
- 試験研究用以外にご使用された場合、いかなる保証も致しかねます。試験研究用以外の用途や原料にご使用希望の場合、弊社営業部門にお問合せください。
- 【医薬品原料】
- 製造専用医薬品及び医薬品添加物などを医薬品等の製造原料として製造業者向けに販売しています。製造専用医薬品(製品名に製造専用の表示があるもの)のご購入には、確認書が必要です。
- 表示している希望納入価格は「本体価格のみ」で消費税等は含まれておりません。
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