がん免疫療法のターゲット因子

カルナバイオサイエンス社 DGK (ジアシルグリセロールキナーゼ) タンパク質

DGK (ジアシルグリセロールキナーゼ) は セカンドメッセンジャー である ジアシルグリセロール(DAG) をリン酸化し、ホスファチジン酸(PA) に変換する酵素です。DAG を調節することにより、下流シグナル経路の活性を調節し、細胞の増殖、生存、運動並びに免疫応答等に関与しています。ヒトでは 10種類 の DGKアイソザイム が同定されており、それぞれが様々な病態に関与すること(もしくはその可能性)が報告、示唆されています。特に DGKα と DGKζ は、がん免疫治療の標的分子として注目されています*)
カルナバイオサイエンス社は、高活性、高品質の DGKタンパク質 を、GST、ビオチン の2種類のタグ製品でラインアップしています。Activity assay や、各種 Binding assay 等、幅広くご活用頂けます。

*) カルナバイオサイエンス社ホームページ, Carna Newsletter Vol.14, DGKα及びDGKζはがん免疫療法の重要なターゲット

DGKアイソザイム が関与する疾病

アイソザイム 関与する(もしくはその可能性のある)疾病
DGKα がん(肝臓、食道、胃、膵臓)、メラノーマ、 膠芽腫、免疫疾患(X連鎖リンパ増殖症候群1型、限局性侵攻性歯周炎)
DGKβ 双極性障害
DGKγ 結腸直腸がん、肝細胞がん
DGKδ 2型糖尿病
DGKε てんかん
DGKζ 骨肉腫、神経膠腫、免疫疾患(喘息)
DGKη 双極性障害
DGKθ パーキンソン病
DGKι 胃がん
DGKκ 脆弱X症候群

カルナバイオサイエンス社と他社製品の酵素活性比較

がん免疫治療の標的分子として注目される DGKα と DGKζ

DGK (ジアシルグリセロールキナーゼ) のアイソザイムの中で、DGKα と DGKζ は、 T細胞受容体(TCR) シグナル伝達の重要な制御因子として同定され、T細胞応答を負に調節する役割を担う因子として注目されています。
TCR が主要組織適合性複合体(MHC) に結合したペプチド抗原を認識して活性化すると、多くのタンパク質が関与する細胞内シグナル伝達カスケードが素早く開始され、幅広い細胞効果をもたらします。この活性化されたタンパク質の一つが PLC-γ1 であり、ジアシルグリセロール(DAG)を生成します。DAGは Protein Kinase C theta (PKCθ) や Ras guanyl nucleotide-releasing protein 1 (RasGRP1) などの下流シグナルを活性化し、TCRシグナル の効率的な伝達に必要とされる Ras-ERK経路 や PKC-NFκB経路 の活性化を引き起こします。

DGKα 又は DGKζ のいずれかのアイソザイムを欠損させると、ERK1/2 の活性化が促進され、これにより細胞増殖やサイトカインの産生など、CD8⁺T細胞 の機能的な反応が増加することが確認されています。また、がんマウスモデルでは、DGKα-/-マウス が WTマウス と比べ高い生存率を示し、抗 PD-1(Programmed cell death 1)抗体処方により、生存率をより高めることが報告されています。DGKζ-/-マウス では、生存率の上昇および 抗 PD-1 抗体処方による生存率の更なる向上が、抗 PD-1 抗体単剤治療に感受性のある MC38 結腸大腸がん細胞だけでなく 抗 PD-1 抗体治療に対する感受性が非常に低い B16F1メラノーマ細胞 を移植されたマウスでも確認されました。この結果から DGKζ は、抗 PD-1 抗体療法に抵抗性のあるがんにおいても、T細胞の抗腫瘍活性を高めるターゲットである可能性が示唆されます。 坂根教授らのグループは DGKα 選択的阻害剤として CU-3 を見つけ出し、この化合物がT細胞の活性化を誘導することを報告しました。この後彼らは DGKα に対して CU-3 より強い阻害活性を持つ type I DGK アイソザイム (DGKα, DGKβ 及び DGKγ) 阻害剤、DGKAI を 同定し、肝細胞が ん (HCC) マウスモデルにおいて DGKAI が T細胞免疫活性依存的に腫瘍の成長を抑制すること、そして 抗 PD-L1 抗体との併用により抗腫瘍活性が相乗的に高まることを示しました。 このように DGKα 又は DGKζ を阻害すると、DAG を介したTCRシグナル伝達の活性が促進されることにより T細胞の抗腫瘍活性が向上し、抗 PD-1 抗体 または 抗 PD-L1 抗体 の効果が相乗的に高まる可能性が示唆されています。

DGK (ジアシルグリセロールキナーゼ) タンパク質一覧

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キナーゼ名 Tag ビオチン化 製品名 メーカー
コード
Accession Number シークエンス 結合反応
速度例
DGKα(DGKA) N-terminal DYKDDDDK BTN-DGKα(DGKA) 12-401-20N NP_958852.1 1-735aa(end)
N-terminal GST DGKα(DGKA) 12-101 NP_958852.1 1-735aa(end)
DGKβ(DGKB) N-terminal DYKDDDDK BTN-DGKβ(DGKB) 12-402-20N NP_001337638.1 1-803aa(end)
N-terminal GST DGKβ(DGKB) 12-102 NP_001337638.1 1-803aa(end)
DGKγ(DGKG) N-terminal DYKDDDDK BTN-DGKγ(DGKG) 12-403-20N NP_001337.2 1-791aa(end)
N-terminal GST DGKγ(DGKG) 12-103 NP_001337.2 1-791aa(end)
DGKδ(DGKD) N-terminal DYKDDDDK BTN-DGKδ(DGKD) 12-404-20N NP_690618.2 1-1141aa
N-terminal GST DGKδ(DGKD) 12-104 NP_690618.2 1-1141aa
DGKε(DGKE) N-terminal DYKDDDDK BTN-DGKε(DGKE) 12-415-20N NP_003638.1 48-567aa(end)
N-terminal GST DGKε(DGKE) 12-115 NP_003638.1 48-567aa(end)
DGKζ(DGKZ) N-terminal DYKDDDDK BTN-DGKζ(DGKZ) 12-410-20N NP_003637.2 1-929aa(end)
N-terminal GST DGKζ(DGKZ) 12-110 NP_003637.2 1-929aa(end)
DGKη(DGKH) N-terminal DYKDDDDK BTN-DGKη(DGKH) 12-406-20N NP_821077.1 1-1147aa
N-terminal GST DGKη(DGKH) 12-106 NP_821077.1 1-1147aa
DGKθ(DGKQ) N-terminal DYKDDDDK BTN-DGKθ(DGKQ) 12-409-20N NP_001338.2 1-942aa(end)
N-terminal GST DGKθ(DGKQ) 12-109 NP_001338.2 1-942aa(end)
DGKι(DGKI) N-terminal DYKDDDDK BTN-DGKι(DGKI) 12-407-20N NP_004708.1 1-1065aa(end)
N-terminal GST DGKι(DGKI) 12-107 NP_004708.1 1-1065aa(end)
DGKκ(DGKK) N-terminal DYKDDDDK BTN-DGKκ(DGKK) 12-408-20N NP_001013764.1 216-1271aa(end)
N-terminal GST DGKκ(DGKK) 12-108 NP_001013764.1 216-1271aa(end)

参考文献

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その他の キナーゼタンパク質 および 基質タンパク質

カルナバイオサイエンス社は、上記 DGK (ジアシルグリセロールキナーゼ) タンパク質 以外にも、キナーゼタンパク質を幅広くラインアップしています。用途に合わせてご使用ください。

チロシンキナーゼはこちら
EGFR薬剤耐性変異体キナーゼはこちら
セリン/スレオニンキナーゼはこちら
脂質キナーゼはこちら
ビオチン化キナーゼはこちら

キナーゼタンパク質のリン酸化活性測定には、こちらの基質タンパク質をご利用ください。

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