RAFT 重合試薬

RAFT 重合は可逆的付加-開裂連鎖移動 (Reversible Addition-Fragmentation Chain Transfer : RAFT) 型のリビングラジカル重合法で、1998 年に CSIRO (オーストラリア連邦科学産業研究機構) にて報告されました1)。チオカルボニルチオ化合物を連鎖移動剤 (以下、RAFT 剤) として、分子量分布が狭いポリマーを合成することが可能です。リビングラジカル重合の中で比較的新しい重合法です。

ポリマーの分子量分布を制御することで、機械特性、熱・光学特性などの物性を制御できるため、高機能性ポリマー材料への利用が期待できる重合法として着目されています。

当社ではジチオベンゾエート型、トリチオカルボネート型、ジチオカルバメート型の各種 RAFT 剤を取り揃えています。また、RAFT 剤のライブラリーの中から工業的に生産可能な化合物の量産化を進めています。詳細はこちら

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RAFT 重合の特長

  • 分子量分布が狭いポリマーを合成可能
  • 反応系にハロゲン・重金属を含まないため環境負荷が低い
  • モノマーや反応条件に適した RAFT 剤を用いることで広範囲のラジカル重合性モノマーの重合制御が可能
  • 水やイオン性物質の影響を受けにくい重合系であるため、官能基をもつモノマーや水系での重合にも比較的容易に適用可能

RAFT 剤の基本骨格と種類2, 3)

  • Z 部分は、中間体ラジカルの安定性に影響を及ぼし、ラジカルの付加速度・開裂速度は Z の構造に依存する。C=S の活性化に影響を与える
  • R 部分は、開裂して新しいラジカルを生じ、モノマーと反応することで新たな成長ラジカルを生じる
  • R 部分は、ニトリル基、芳香環、カルボニル基などのラジカルを安定化しやすい置換基が炭素に隣接しているものが多い
種類 構造 特長
ジチオベンゾアート型
  • 非常に高い移動定数
  • 加水分解しやすい
  • 高濃度条件で重合遅延する可能性がある
  • 共役モノマーに対して効果的である
    例) スチレン, (メタ)アクリラート, (メタ)アクリルアミド
トリチオカルボナート型
  • 高い移動定数
  • ジチオベンゾアート型と比較して加水分解に安定
  • 重合遅延の可能性が低い
  • 共役モノマーに対して効果的である
    例) スチレン, (メタ)アクリラート, (メタ)アクリルアミド
ジチオカルバマート型
  • N に結合する置換基の電子、共鳴効果によって活性が異なる
  • 加水分解しやすい
  • 電子リッチなモノマーに効果的である
  • N-アルキル基を持つ場合、非共役モノマーに対して効果的である
    例) 酢酸ビニル, N-ビニルピロリドン
ジチオカルボナート型
  • 低い移動定数
  • O-アルキル基を持つ場合、非共役モノマーに対して効果的である
    例) 酢酸ビニル, N-ビニルピロリドン

RAFT 重合の反応機構2)

モノマーと RAFT 剤の適合性2)

RAFT 重合は、共役モノマーだけではなく非共役モノマーも重合を制御できることからモノマー種の適用範囲が広いという利点があります。共役モノマーはジチオベンゾアート型やトリチオカルボナート型、非共役モノマーはジチオカルバマート型やジチオカルボナート型の RAFT 剤と適合性を示すことが知られています。

モノマーと RAFT 剤の適合表

トリチオカルボナート型

(A: PDI < 1.1, B: PDI = 1.1-1.3, C: PDI > 1.3を表し、× は使用に適していないことを表す。)

トリチオカルボナート型 (左右対称・両末端反応型)

(A: PDI < 1.1, B: PDI = 1.1-1.3, C: PDI > 1.3を表し、× は使用に適していないことを表す。)

ジチオベンゾアート型

(A: PDI < 1.1, B: PDI = 1.1-1.3, C: PDI > 1.3を表し、× は使用に適していないことを表す。)

ジチオカルバマート型

(A: PDI < 1.1, B: PDI = 1.1-1.3, C: PDI > 1.3を表し、× は使用に適していないことを表す。)

反応例

S,S-ジベンジルトリチオ炭酸 (製品コード:047-33981) によるポリスチレンの合成3)

RAFT 剤 (10.27 mmol/L) と AIBN (4.36 mmol/L) をスチレン (50 mL) に溶解し、窒素雰囲気下、15 分脱気する。60℃で 9 時間加熱反応する。反応物を液体窒素で冷却することで重合を停止する。残モノマーは減圧することで取り除き、冷メタノールに沈殿させることで目的とするポリマーを得る。


参考文献
  1. Chiefari, J., Chong, Y. K., Ercole, F., Krstina, J., Jeffery, J., Le, T. P. T., Mayadunne, R. T. A., Meijs, G. F., Moad, C. L., Moad, G., Rizzardo, E. and Thang, S. H. : Macromolecules, 31, 5559 (1998).
  2. 蒲池 幹治、遠藤 剛 他:「新訂版 ラジカル重合ハンドブック」 (エヌ・ティー・エス) (2010)
  3. Lefay, C., Gle, D., Rollet, M., Mazzolini, J., Bertin, D., Viel, S., Schmid, C., Boisson, C., D'Agosto, F., Gigmes, D. and Barner-Kowollik, C. : J. Polym. Sci. Part A: Polym. Chem., 49, 803 (2011).

製品一覧

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RAFT剤セット

ジチオベンゾエート型

トリチオカルボネート型

トリチオカルボネート型 (左右対称・両末端反応型)

両末端反応型の RAFT 剤は架橋反応などに活用できます。さらに得られたポリマーは反応基が残るので、鎖延長反応やブロックコポリマー合成へと展開できます。

ジチオカルバメート型

Strem社

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