水系RAFT重合試薬

近年のリビングラジカル重合、特にRAFT重合のめざましい発展により、高分子合成において水の中でも分子量や分子量分布の制御が可能なことがわかってきています。当社では、水系の溶媒中で重合が進行するRAFT重合試薬をラインアップしています。VOC規制に対応した環境にやさしい高分子合成法の開発にぜひご利用ください。

水中におけるN,N-ジメチルアクリルアミドのRAFT重合 (当社データ)

モノマーとして水溶性のN,N-ジメチルアクリルアミドを用い、様々なRAFT重合試薬を用いて水中での重合反応を検討しました(Table 1)。RAFT重合試薬として、カルボン酸を有するトリチオエステル型のRAFT重合試薬14を用い、水溶性アゾ重合開始剤VA-057 (2,2‘-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]n水和物)存在下、蒸留水中で60℃、2時間反応させました。RAFT重合試薬14を用いると、分子量分布の狭い高分子量ポリマーが合成できました(entries 1 and 4)。一方、RAFT重合試薬23を用いた場合、水への溶解性が影響し、高分散度のポリマーが得られました(entries 2 and 3)。これらの問題点を解消するため、RAFT重合試薬23をナトリウム塩にしたとこと、得られるポリマーの分散度が向上しました(entries 6 and 7)。

Table 1. RAFT重合試薬14を用いた水中でのN,N-ジメチルアクリルアミドの重合

水中でのN,N-ジメチルアクリルアミドのRAFT重合

モノマーの適用範囲(当社データ)

水中での重合に有効であったRAFT重合試薬1を用いて、様々な水溶性モノマーの重合反応を検討しました(Table 2)。アクリルアミド系であるN,N-ジメチルアクリルアミド(DMAA)、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、アクリル酸(AA)、およびp-スチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)において、狭い分子量分布で目的のポリマーが得られました(entries 1-4)。 一方、ビニル系モノマーであるN-ビニルアセトアミド(NVA)を用いた場合、他の水溶性モノマーと比較して分子量分布の分散が見られました(entry 5)。

Table 2. RAFT重合試薬1を用いた各種水溶性モノマーの重合

水中での水溶性モノマーのRAFT重合

親水性ブロックポリマーの合成

ブロックポリマー(ブロック共重合体)は、物理化学的性質の異なる2つの高分子鎖が同一分子内に含まれるポリマーであり、各高分子鎖が共有結合で結ばれているため特異な相分離構造が構築されます。また、RAFT重合を用いることで各セグメントの鎖長および組成の制御が可能であり、球、シリンダー、ラメラなど多様なミクロ相分離構造の構築が可能です。
実際のRAFT重合によるブロックポリマーの合成では、一段階目の単独重合により高分子連鎖移動剤(マクロ連鎖移動剤)を合成し、単離、精製後二段階目で次のモノマーを重合させる手法が用いられます。この際、マクロ連鎖移動剤の末端には定量的にチオカルボニルチオ基が存在する必要があります。例として、当社で実施したDMAAとAAのブロックポリマー、およびDMAAとAMPSのブロックポリマーの例を示します。DMAAとRAFT重合試薬1と反応させたマクロ連鎖移動剤に対して、アゾ重合開始剤存在下AAおよびAMPSを重合させたところ、分子量分布の狭い目的のブロックポリマーがそれぞれ合成できます(Figure 1)。

<DMAAとAAとのブロックポリマーの合成>

RAFT重合による親水性ブロックポリマーの合成

<DMAAとAMPSとのブロックポリマーの合成>

RAFT重合による親水性ブロックポリマーの合成

Figure 1. 親水性ブロックポリマーの合成(当社データ)

生体適合性ポリマーとして知られている2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)のブロックポリマーをRAFT重合で合成することが可能です(Figure 2)1)。RAFT重合試薬として、カルボン酸を有するジチオエステル型のRAFT重合試薬5を用い、水溶性アゾ重合開始剤V-501 (4,4‘-アゾビス(4-シアノ吉草酸) )存在下、水中で70℃、2時間反応させたところ、MPCポリマーを有するマクロ連鎖移動剤が得られました。さらに、スルホベタインモノマーである3-{[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチルアンモニオ}プロパン-1-スルホン酸をマクロ連鎖移動剤と反応させることによって、分子量分布の狭いMPCブロックポリマーが得られました。

RAFT重合によるMPCブロックポリマーの合成

Figure 2. MPCブロックポリマーの合成

<参考文献>

  1. Yu, B., Lowe, A. B., Ishihara, K.: Biomacromolecules, 10(4), 950 (2009).

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ジチオベンゾエート型

トリチオカルボネート型

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アゾ重合開始剤

モノマー

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