ヒトES/iPS細胞モニタリングキット
rBC2LCN(AiLecS1) はBurkholderia cenocepacia 由来のレクチンであるBC2L-CのN末端ドメインを大腸菌で発現させた組換えタンパク質です。rBC2LCNはヒトES/iPS細胞表面に存在するポドカリキシン上のムチン様O型糖鎖であるH-type3(Fucα1-2Galβ1-3GalNAc)に高い親和性を持つため、ヒトES/iPS細胞の未分化マーカーとして報告されています。
rBC2LCNにより認識される糖タンパク質(H-type3結合ポドカリキシン)はヒトES/iPS細胞表面から培養液中に放出されます。本キットでは、rBC2LCNと未分化マーカー抗体を用いたサンドイッチアッセイで、ヒトES/iPS細胞から培養液中に放出された糖タンパク質を定量的に測定することで、ヒトES/iPS細胞数を推測できます。
特長
- 培養上清を分析することで、未分化細胞数の増減をモニタリング可能
- 測定対象が培養上清であるため、細胞を検査に消費することなく、細胞はそのまま培養を継続可能
- 少量の培養上清(50μL)で分析可能
- ELISA法を用いるため、簡便に多検体を処理可能
キット構成
構成品名 | 容量×個数 |
---|---|
rBC2LCN固相化プレート | 96ウェル×1枚 |
HRP標識抗体溶液 | 400μL×1本 |
陰性コントロール | 1mL×1本 |
陽性コントロール | 100μL×1本 |
希釈液 | 15mL×1本 |
洗浄液(10×) | 100mL×1本 |
TMB溶液 | 10mL×1本 |
発色停止液 | 10mL×1本 |
プレートシール | 4枚 |
製品情報
原理
標準曲線の作成
本キットには標準曲線作成用の標準品は添付されておりません。したがって、下記手順に従い標準品を調製いただいた後、標準曲線を作成頂きますようお願いいたします。
- 未分化維持培養条件下でヒトES/iPS細胞を培養し、培地交換した翌日(18~24時間後)に培養上清を回収する。
- 細胞を剥がし、ヒトES/iPS細胞数を測定する。
- 回収した培養上清に含まれるヒトES/iPS細胞数を算出する。例えば、培地量が5mL、測定した細胞数が5×106cellsであった時、回収した培養上清に含まれるヒトES/iPS細胞数を1×106cells/mLとする。
- 回収した培養上清を未分化維持用培地もしくは分化用培地を用いて、既知細胞濃度の希釈系列を作成し、標準曲線を作成する。
分化誘導時の使用例
- 未分化維持培養時のヒトES/iPS細胞の培養上清をサンプリングし、ヒトES/iPS細胞数をカウントする。
- 1)の培養上清を分化用培地で希釈し、希釈系列を作成し、本キットを用いて標準曲線を作成する。
- 本キットを用いて、ヒトES/iPS細胞数を確認したい培養上清サンプルを測定する。
- 分化条件での残存ヒトES/iPS細胞数を推測する。
細胞株間及び培地間の比較
ヒトiPS細胞201B7株及び253G4株を各未分化維持用培地(培地A, B, C, D)で培養後、培地交換翌日に培養上清を回収した。細胞数をカウントし、各未分化維持用培地を用いて2,000cells/mLとなるように各培養上清を希釈し、本キットを用いて吸光度を測定した。その結果を下図に示す。この結果により、細胞株あるいは培地などの培養条件により細胞数(cells/mL)が一定であっても、シグナル強度が異なることが分かる。そのため、標準曲線は培養条件ごとに作成して頂く必要があります。
ヒトiPS細胞培養上清の測定
ヒトiPS細胞201B7株をStemSure® hPSC培地Δを用いて培養を行い、培地交換翌日にその培養上清を回収した。同時に細胞数をカウントし、培養上清を段階的にStemSure® hPSC培地Δで希釈し、希釈した培養上清を本キットに供した。結果、高い相関係数をもつ近似式が得られた。この近似式より、この培養条件下でのヒトiPS細胞の検出下限値※を求めると、108 cells/mL であった。
※検出下限値:培地のみのバックグラウンドの吸光度平均 + 3.3SDと近似式から算出した細胞数。
分化細胞培養上清へのヒトiPS細胞培養上清のスパイク実験
線維芽細胞及びヒト膝関節軟骨(NHAC-kn)細胞の血清含有の培養上清に添加したヒトiPS細胞の培養上清が測定可能か確認した。ヒトiPS細胞の混合割合を0~20%(0~2×104 cells/mL:総細胞数 1×105 cells/mL)となるように、線維芽細胞及びヒト膝関節軟骨細胞の培養上清へヒトiPS細胞の培養上清を混合し、本キットに供した。血清および線維芽細胞存在条件で作成した培養上清中においてもヒトiPS細胞の培養上清を測定可能であった。
また、線維芽細胞またはヒト膝関節軟骨細胞とiPS細胞の混合試料から得られた近似式よりこの条件下でのヒトiPS細胞の検出下限値※を求めると、それぞれ170 cells/mL、96 cells/mL であった。
使用上の注意
- 細胞株、あるいは培地の種類などの培養条件により、シグナル強度と細胞数(cells/mL)の関係が異なるため、標準曲線は細胞株ごとおよび未分化維持培養条件ごと、分化誘導培地ごとに作成する必要があります。
- 異なる培養条件ではシグナル強度の高低で未分化性を評価することはできません。同じ培養条件で評価してください。
- このキットを用いて、算出されるヒトES/iPS細胞数と実際の細胞数とは必ずしも一致いたしません。未分化維持状態および細胞分化の進行をモニタリングする一つの指標とお考えください。
Q&A
Q1. ポドカリキシンは培養上清中に残存しますか?
A1. ポドカリキシンは培養上清中に放出されます。培養上清を37℃で8日間保管しても、シグナルの低減が認められていないため、本キットの測定対象であるポドカリキシン上の糖鎖は安定であることを確認しています。また、冷凍保管した場合は、4ヶ月安定であることを確認しています(ただし、凍結融解の繰り返しは避けてください)。
Q2. ポドカリキシンを標準品として使用できますか?
A2. 本キットは、ポドカリキシン上の糖鎖を検出します。糖鎖を付加したタンパク質を合成することは困難なため、本キットに使用できるスタンダードを作ることは難しいと考えられます。糖鎖を付加していないポドカリキシンを作ることは可能と思われますが、標準品として適切なものになるかは不明です。
Q3. 放出されるポドカリキシンの長さは一定でしょうか?
A3. ポドカリキシンは55kDaのタンパク質でアミノ酸配列は一定ですが、実際はO型糖鎖、N型糖鎖、グリコサミノグリカンが付加されており、240kDa以上の分子量を示す巨大なムチン様分子となっています。糖鎖修飾の程度や性質が異なる分子群が混在しているヘテロな糖タンパク質群であるため、分子量は一定ではありません。電気泳動では>240kDaのスメアのバンドを示します。
Q4. 3次元培養でもポドカリキシンは放出されますか?
A4. 3次元培養でも放出されることを確認しています。
Q5. ポドカリキシンの役割は何でしょうか?
A5. ヒトiPS細胞における機能は不明ですが、未分化細胞の形態、増殖性、分化能などに密接に関係していると考えられます。腎臓では糸球体足細胞に発現する主要な糖タンパク質であり、足細胞の形態形成や機能に必須の役割を担っています。ポドカリキシン欠損マウスでは腎臓に異常がでて致死となります。
Q6. 培養上清を回収するとき、混ぜる必要はありますか?
A6. ディッシュ/プレートを揺らすなどして、軽く混ぜた後、培養上清を回収してください。
Q7. 陽性コントロールと陰性コントロールは何に使用しますか?
A7. キットの反応系が正常に働いているか確認いただくためにご使用ください。
参考文献
Tateno, H., Onuma, Y., Ito, Y., Hiemori, K., Aiki, Y., Shimizu, M., Higuchi, K., Fukuda, M., Warashina, M., Honda, S., Asashima, M. and Hirabayashi, J.: Sci. Rep., 4, 4069 (2014).
製品一覧
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