重水素化合物(D化合物)

重水素化合物は、薬物の体内動態追跡,食品中残留農薬や環境中の内分泌撹乱物質などの微量定量分析,タンパク質やペプチドの高次構造解析や,光ファイバーなど様々な機能性物質の材料として利用されています。近年では、重水素効果により化合物の耐久性が向上することから医薬品や有機ELで用いる発光材料に使用され、需要が拡大しています。これは、C-D結合はC-H結合よりも結合解離エネルギーが大きく切断されにくいという特長が活用されています。その他、中性子回折用途での重水素化合物の需要が増えています。今後、さらに新しい用途が見つかる可能性が高い興味深い化合物です。

当社では重水素を導入した各種芳香族化合物をはじめとするいくつかの化合物をラインアップしています。また、特定の化合物の重水素化をご希望されるお客様に対して、受託合成サービスをご提案しています。本技術は当社で開発した技術であり、重水素交換反応によって、広範な重水素化合物を安価かつ大量に提供できます。是非とも当社と新しい用途を開拓してみませんか?お気軽にご相談ください。

医薬品での応用例

医薬品は生体内の酵素で代謝(失活)を受けて薬効を失います。より効果を長くするために、代謝を受ける部位の水素をフッ素や塩素、メチル基に変えて代謝を抑制する研究が行われてきましたが、これは、分子全体の性質を大きく変えてしまうことがあります。そこで注目されたのが、代謝を受ける部位の水素を重水素に変換することです。重水素に置換された医薬品は、重水素化医薬品(ヘヴィードラッグ)とも言われています。

抗うつ薬ベンラファキシンは、生体内でグルクロン酸抱合または脱メチル化を受けて活性を失うことが知られています。ここで、脱メチル化される箇所の水素を重水素に変換することで代謝を抑制し、体内での薬効の持続時間を延長することが知られています1)

近年では、ハンチントン病治療薬テトラベナジンの重水素置換体がテバ社により開発されました。この化合物は、2017年4月にアメリカ食品医薬品局(FDA)に新薬として承認されています。ここでは、脱メチル化される箇所の水素を重水素に置き換えることで、薬効の持続時間の延長させるとともに、副作用の発現を低減させる効果が得られたと報告されています2)

発光材料での応用例

有機EL(Electro Luminescence)とは、電圧をかけると有機物が発光する現象を指し、この現象を利用した有機発光ダイオード(Organic light emitting diode:OLED)と呼ばれる製品全般も有機ELと言われています。有機ELに電圧をかけると、陽極と陰極からそれぞれ「正孔」と「電子」が注入されます。これらが発光層で再結合すると、発光層の有機物は高エネルギー状態といわれる「励起状態」に活性化され、これが元の「基底状態」に戻る時にエネルギーが光として放出されます。

有機ELディスプレイは光の三原色となる赤色、緑色、青色の発光素子からなり、発光層に用いられる化合物は蛍光材料、燐光材料、近年では熱活性化遅延蛍光(TADF)材料と様々な企業や大学で開発されています。より強い発光強度、高い量子効率を持つ材料開発が進められてきましたが、ここで重水素化合物が注目されるようになりました。C-D結合はC-H結合よりも結合解離エネルギーが大きく切断されにくい特長があるため、化合物自体の耐久性を増すと言われています。

過去の一例をあげて説明します3)。fac-tris (2-phenylpyridinato)Ir(III)錯体(Ir(ppy)3)は強発光性で、電気的に中性なため蒸着膜を作製しやすいことから、発光層材料の有力候補のひとつとして広く研究されています。このIr(ppy)3-h24と重水素を導入したIr(ppy)3-d24で比較したところ、発光量子収率Φemと発光寿命τは、重水素の導入で値が増加しました(表1)。重水素化が発光速度には影響を与えず、無輻射失活を抑制した結果、発光収率が向上したと推定されています。

Ir(ppy)3発光層に含むOLED デバイスを作製し、初期輝度1000cd/m2、駆動電流0.17mAで輝度半減期を比較したところ、H 体で300 時間、D 体で800 時間となり、約2.7倍駆動寿命が延びる結果が得られたという報告があります。

有機EL関連のビルディングブロックD体はこちらからもご覧いただけます。
その他、米国Cambridge Isotope Laboratories社 (CIL社) の安定同位体標識化合物はこちらをご覧ください。

各ビルディングブロックの応用例

有機エレクトロニクス材料に使用されるD体ビルディングブロックをラインアップしております。
H体ビルディングブロックを用いた報告例をご紹介いたします。D体化合物を使用するための参考にご活用ください。

Carbazole

Carbazole

9,9-Dimethylfluorene⁴~⁷⁾

9,9-Dimethylfluorene

Dibenzofuran⁵~¹¹⁾

Dibenzofuran

合成実績のある化合物例

芳香族化合物

ヘテロ芳香族化合物

脂肪族化合物

参考文献

  1. 佐藤健太郎「広がる重水素の用途」:Wako Organic Square, 33, 2 (2010)                  
  2. JP6138322B2
  3. 川西祐司「電子デバイス用重水素化合物」:Wako Organic Square, 36, 2 (2011)
  4. WO2012134203A2
  5. JP2008239529A
  6. WO2011050888A1
  7. KR20100045587A
  8. WO2014034584A1
  9. WO2014067614A1
  10. WO2015014434A1
  11. WO2014034893A1

製品一覧

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ビルディングブロックD体

電解液D体

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