DPNG, IPEMA
DPNG (Diprenyl Glycerin Ether)およびIPEMA (Isoprenyl Methacrylate)は、空気下でのUV硬化においてそれぞれ異なるメカニズムで酸素による硬化阻害を低減し、硬化を促進させる添加剤です。加えて、DPNGは単独で酸素を吸収・分解する機能を有することから、樹脂に酸化防止効果を付与することができ、IPEMAは異なる二つのラジカル反応性基をもつ架橋剤であることから、樹脂に柔軟性、耐擦傷性などの効果を付与することができます。
UV硬化促進剤
UV硬化技術は、熱による同技術と比較して少ない溶剤で高速で硬化が進行することから、生産性が高く省エネルギーで環境配慮に優れた技術です。ラジカルによるUV硬化技術において普遍的な課題は、空気中の酸素による反応阻害であり、特に体積当たりの表面積が大きい薄膜の場合その影響が顕著になります。酸素阻害の対策としては、窒素パージ下でのUV硬化、酸素遮断用のカバー貼付、アミン類などの酸素吸収性化合物の添加、開始剤の増量などが一般的です。しかし、これらの対策はコスト増や物性低下につながるなどの問題があり、未だ実質的な課題解決には至っていません。本問題を解決するため、新規添加剤DPNGおよびIPEMAが開発されました(図1)。
図1. DPNGとIPEMAの構造式
DPNGおよびIPEMAを添加剤として用いたUV硬化の時間変化を図2に示します。モノマーとしてトリアクリル酸ペンタエリトリトール、ラジカル重合開始剤として1-ヒドロキシシクロへキシル=フェニル=ケトンを用い、リアルタイムIR測定で反応率の変化を追跡しました。酸素遮断条件では開始30秒で反応率74.5%で重合反応が進行したのに対し(凡例1)、空気雰囲気下では酸素の影響で反応率は4.3%に留まりました(凡例6)。一方、DPNGあるいはIPEMAを添加した場合、空気雰囲気下でも反応率はそれぞれ46.2%、44.5%を示し、反応率が10倍以上向上しました(凡例2, 3)。また、反応率の時間変化を見ると、DPNGあるいはIPEMAを添加することによって、酸素遮断条件と同様にUV照射直後から反応率が急上昇していることも大きな特長です。
図2. UV照射によるオレフィン反応率の時間変化
分解物解析より推定されるDPNGの酸素吸収メカニズムを図3に示します。反応時にDPNGのアリル位にラジカルが生成、続いて酸素と反応することでDPNGの過酸化物ラジカルの生成と共に酸素が補足されます。生成した過酸化物ラジカルは他のDPNGの水素を引き抜くことでDPNGラジカルを再生し、DPNGの酸素吸収サイクルが進行すると考えられています。一方、IPEMAは酸素吸収能をもたないため、DPNGとは異なる機構でUV硬化を促進していると考えられています。イソプレノールやメタクリル酸メチルの添加ではUV硬化を促進する効果が見られないことから、イソプレニル基とメタクリロイル基を同一分子内にもつことが促進効果に寄与すると推定されています。
図3. 推定されるDPNGの酸素吸収メカニズム
樹脂への機能付加―黄変抑制
塗料・コーティング中に含まれる樹脂成分は経時的に酸化を受け、その酸化によって黄変やひび割れなどの樹脂劣化を引き起こします。そのため、塗料・コーティングの多くには酸化防止剤が添加されています。しかし、特にフェノール系の酸化防止剤はラジカル重合の停止剤として作用して硬化不良を引き起こすことがあり、酸化防止に十分な処方量の添加が難しいケースがあります。
DPNGは酸素吸収性を有することから、酸素をトリガーとして進行する樹脂の酸化劣化を防止する添加剤として機能します。一般的な酸化防止剤の多くは固体であるのに対して、DPNGは液体であり樹脂やコーティング液に高い相溶性を示します。DPNGをUV硬化組成物に処方すると、DPNGはUV硬化時に硬化促進剤として働き、硬化後は樹脂の劣化を防ぐ酸化防止剤として働きます。
DPNGを配合したポリウレタン樹脂の耐候性試験を図4に示します。DPNG添加品は未添加品や他の酸化防止剤と比べてΔYI値(黄変度の変化量を示す値)が小さく、黄変が抑制されていることがわかります。既存の酸化防止剤はラジカル種や過酸化物をクエンチすることで酸化を防止する一方、DPNGは酸素そのものを吸収・分解することで酸化を防止します。したがって、他の酸化防止剤と併用することによって、酸化防止の相乗効果が期待されます。
耐候性試験後のポリウレタン樹脂、(左) ブランク、(右) DPNG添加
図4. ポリウレタン樹脂の耐候性試験における添加剤の効果
樹脂への機能付加―硬度と柔軟性の両立・カール抑制
UV硬化塗料・コーティングに添加される多官能モノマー/オリゴマーは高粘度であるため、粘度を低減してハンドリング性を向上する目的で反応性希釈剤が配合されます。反応性希釈剤を用いる際の問題として、液の粘度が低下し酸素の拡散速度が増加することによって硬化性が低下することや、希釈により官能基密度が低減することに起因した硬化膜の物性低下が挙げられます。このような問題に対して、IPEMAは効果的な反応性希釈剤として使用することができます。
IPEMAを反応性希釈剤として多官能アクリレートに配合した際の硬化膜物性を表1に示します。一般的な反応性希釈剤である二官能アクリレートモノマーHDDAと比較して、IPEMAは粘度を低減しながらも硬化に必要な光量も少なく、酸素阻害を受けにくいことがわかります。さらに、得られた硬化膜には特異な物理的性質を付与し、優れた表面硬度と耐擦り傷性に加え、耐屈曲性試験では6 mmΦという高い耐屈曲性を示しました。本来トレードオフの関係である硬度と柔軟性を両立できている点において、 IPEMAを配合した硬化膜は興味深い材料であると言えます。また、写真で示すようにIPEMAを配合した硬化膜は基材の反りが小さく、HDDA配合の硬化膜と比較してカールが抑制されていることがわかります。
これらの特異な物性は、反応性に富むメタクリロイル基と重合終盤に取り込まれるイソプレニル基を同一分子内にもつ分子構造に由来していると考えられます。官能基の重合タイミングが異なることにより、硬化時の応力が緩和された架橋の進行や、特異な架橋構造の形成が進行していると解釈され、IPEMAのユニークな機能発現に繋がっています。
表1. 反応性希釈剤による塗膜物性の変化
<参考文献>
- 野口大樹:フォトポリマー懇話会ニュースレター, p. 5, No. 94, April (2021).
- 加藤直也、福本隆司:月刊MATERIAL STAGE, 22, 76 (2022).
*本品は株式会社クラレの開発品です。写真は同社よりご提供していただきました。
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