固体電解質材料
固体電解質について
全固体電池の実用化に対しての一番のハードルは、イオンが流れやすい、すなわち高いイオン伝導性を有する固体電解質を見つけることだと言われています。流動性のない無機固体において、その構成粒子であるイオンを高速で伝導させるのは元来容易なことではありません。無機固体電解質は、大まかに結晶とガラスに大別されます。結晶性の材料では、欠陥構造や層状構造、平均構造といった特殊な構造デザインがイオン伝導性を高めるうえで不可欠です。一方、ガラス材料の場合は、導電率を増大させるためにはキャリアであるカチオン濃度を高めることが最も重要です。
現在開発が進んでいるリチウム系固体電解質において、その元素組成から主に酸化物系と硫化物系の二つに分けることができます。硫化物系電解質は、リチウムイオンに対する硫化物イオンの分極率が大きいためリチウムイオンの伝導性が高く、広い電位域において電気化学的に安定であり、室温加圧のみで粒界抵抗を大幅に削減できるなどのメリットがあります。一方、酸化物系電解質の方が硫化物系より有利な点として、大気中での高い安定性が挙げられます。硫化物系電解質を大気中に放置すると、空気中の水分と反応して毒性の硫化水素が発生しますが、酸化物系電解質は大気中でも比較的安定に存在します。しかし、デメリットとして酸化物系電解質は、粒子間の粒界抵抗が大きいことが挙げられ、高温で焼結処理するなどの処理によって、活物質との良好な接触界面を形成させる工夫が必要です。
これまでに開発されたリチウム系固体電解質について説明します。別表に、代表的な酸化物系および硫化物系固体電解質について、室温(25℃)における導電率を示します。一般的なリチウムイオン二次電池の電解液の導電率は、10-2 S cm-1であり、バルク系全固体電池へ応用するためには、10-3 S cm-1以上の導電率を示す電解質が望ましいとされています。結晶の酸化物系固体電解質においては、さまざまな結晶構造を有する電解質が開発され、ペロブスカイト型のLa0.51Li0.34TiO2.94、NASICON型のLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、ガーネット型のLi7La3Zr2O12 (LLZ)のように室温で10-4~10-3 S cm-1の高い導電率を示す系が開発されています。また酸化物ガラスの導電率は、高いものでも10-6 S cm-1とあまり高くありません。酸化物系の全固体電池への利用については、Li3PO4の一部を窒化した、通称LiPONと呼ばれるアモルファス薄膜がスパッタ法により作製されており、おもに薄膜電池の電解質として用いられています。
一方、硫化物系固体電解質はガラスを中心に開発が進められてきました。Li2S⁻SiS2系などの二成分系や、そこに分極率の大きいヨウ化物イオンやリン酸イオンなどを加えた三成分系において材料探索がなされ、室温で10-3 S cm-1以上の導電率を示すガラスが得られています。結晶タイプの硫化物系固体電解質では、1.2×10-2 S cm-1というきわめて高い導電率を示すLi10GeP2S12 (LGPS)が開発され、これをきっかけに同グループからLGPSの伝導度を約2倍上回る超イオン伝導体Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3が開発されています。また、アルジロダイト (Li6PS5Cl)も世界的に注目されている材料で、室温で約10-3 S cm-1の導電率が得られています。ガラスを結晶化させて得られるガラスセラミックスでは、特にLi2S-P2S5系が高い導電率を示し、その導電率は析出する際の結晶相に大きく左右されます。たとえばLi2Sを70 mol%含むガラスからはLi7P3S11結晶が析出し、熱処理条件を最適化することによって室温で1.7×10-2 S cm-1の導電率が得られています。
代表的な固体電解質の室温導電率
酸化物系固体電解質
組成 | 室温導電率 (S cm-1) | 分類 |
---|---|---|
Li0.34La0.51TiO2.94 | 1.4 × 10-3 | 結晶 (ペロブスカイト型) |
Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3 | 7 × 10-4 | 結晶 (NASICON型) |
Li7La3Zr2O12 (LLZ) | 3 × 10-4 | 結晶 (ガーネット型) |
50Li4SiO4・50Li3BO3 | 4.0 × 10-6 | ガラス |
Li2.9PO3.3N0.46 (LiPON) | 3.3 × 10-6 | アモルファス (薄膜) |
Li3.6Si0.6P0.4O4 | 5.0 × 10-6 | アモルファス (薄膜) |
Li1.07Al0.69Ti1.46(PO4)3 | 1.3 × 10-3 | ガラスセラミックス |
Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3 | 1.4 × 10-4 | ガラスセラミックス |
硫化物系固体電解質
組成 | 室温導電率 (S cm-1) | 分類 |
---|---|---|
Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3 | 2.5 × 10-2 | 結晶 |
Li10GeP2S12 (LGPS) | 1.2 × 10-2 | 結晶 |
Li6PS5Cl | 1.3 × 10-3 | 結晶 (アルジロダイト) |
30Li2S・26B2S3・44LiI | 1.7 × 10-3 | ガラス |
50Li2S・17P2S5・33LiBH4 | 1.6 × 10-3 | ガラス |
63Li2S・36SiS2・1Li3PO4 | 1.5 × 10-3 | ガラス |
57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4 | 2.0 × 10-3 | ガラス |
70Li2S・30P2S5 | 1.6 × 10-4 | ガラス |
Li7P3S11 | 1.7 × 10-2 | ガラスセラミックス |
Li3.25P0.95S4 | 1.3 × 10-3 | ガラスセラミックス |
参考文献
(1) 辰巳砂昌弘、林晃敏:化学, 67(7), 19 (2012).
(2) 辰巳砂昌弘:The TRC News, 201806-01 (2018).
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