低酸素応答解析試薬

2019年ノーベル生理学・医学賞が、細胞の低酸素応答の仕組みを解明した米ジョンズホプキンス大学のセメンザ(Gregg L. Semenza)教授,英オックスフォード大学のラトクリフ(Sir Peter J. Ratcliffe)教授,米ハーバード大学のケーリン(William G. Kaelin)教授に贈られました。

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細胞の低酸素応答の仕組み

酸素レベルが正常な環境下では、プロテアソームによってHIF-1αは迅速に分解されますが、低酸素環境下では、HIF-1αにユビキチンが結合せず、分解されないため細胞内に増加します。細胞が一体どのように周囲の酸素環境を感知しているのかは長年不明でした。今回その仕組みの解明が評価され、セメンザ教授とラトクリフ教授、ケーリン教授がノーベル生理学・医学賞を受賞しました。

低酸素環境下で、HIF-1αは分解を免れて核内に移行し、ARNTと複合体を形成して低酸素応答遺伝子の転写調節領域にあるDNA領域(HRE)と結合することで低酸素応答性の遺伝子を発現します。一方、正常酸素レベルの環境下ではHIF-1αは水酸化修飾を受けます。修飾を受けたHIF-1αはVHLタンパク質と結合することでユビキチンリガーゼを形成し、プロテアソームによる分解を受けます。

このメカニズムの解明は、透析治療中の腎性貧血に対する医薬品であるHIF活性化薬の創出につながりました(2019年9月承認)。その他にも、HIFは慢性炎症や虚血症状、がんの転移などに関与しているという報告もされており、創薬研究においてHIFをはじめとした低酸素応答の分野が注目されています。

HIF-1 (低酸素誘導因子, hypoxia-inducible factor 1)

身体が低酸素状態になると、酸素の運搬能力を上げるために造血促進因子であるエリスロポエチン(EPO)をというホルモンを分泌して赤血球数を増やします。低酸素状況下でEPO遺伝子発現を活性化する転写因子として同定されたのがHIFです。HIFはαとβの2つのサブユニットから構成されており、HIF-1αの発現が低酸素状況下で上昇することが知られています。また、βサブユニットにはARNT1(HIF-1β)とARNT2が存在することも明らかになっています。

正常酸素レベルにおいて、HIF-1αはプロテアソームによる分解を受けます。この分解には、プロリン水酸化酵素PHDによるHIF-1αのプロリン残基の水酸化と、HIF-1αへのVHL(von Hippel-Lindau)タンパク質の結合が必要となります。VHLタンパク質が欠損した細胞ではHIF-1αは分解を受けず、通常酸素条件下でも安定して発現するようになります。

当社では、HIF-1α, HIF-1βの抗体やELISAキットを取り扱っております。
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PHDとVHL (von Hippel-Lindau)

VHL

今回のノーベル賞受賞者であるケーリン教授は、がんが多発する遺伝性疾患であるフォン・ヒッペル・リンドウ病の患者ではがん抑制に働くVHL遺伝子に変異があることと、この遺伝子が欠損したがん細胞では低酸素応答の関連遺伝子の発現が高くなることを明らかにしました。また、同じく受賞者のラトクリフ教授はVHLタンパク質とHIF-1αの結合がHIF-1αの分解に必須であることを見出しました。

HIF-1αとVHLタンパク質が結合するにはHIF-1αのプロリン残基が水酸化されることが必要で、この水酸化を担うのがPHDという水酸化酵素です。水酸化されたHIF-1αは、VHLタンパク質などで形成された複合体型のユビキチンリガーゼによってユビキチン化され、プロテアソームによって分解されます。

PHD

プロリン水酸化酵素であるPHDはPHD1-3の3種類が存在しています。正常酸素レベル下では、PHD2がHIF-1αのプロリン水酸化反応を触媒しています。PHDは酵素活性に酸素分子を必要とすることから、生体内の酸素を検知する酵素として注目されてきました。

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プロテアソームとユビキチン化

プロテアソーム

プロテアソームはATP依存的にユビキチン化タンパク質を分解するタンパク質分解酵素複合体です。プロテアーゼ活性を持つ触媒ユニット Core particleとユビキチン化タンパク質の分解に働く制御ユニット regulatory particleから成っています。

プロテアソームはユビキチン化された基質タンパク質のポリユビキチン鎖をRPで認識したのち、ATPase活性が上昇します。そして基質タンパク質の構造をほどいた後、ユビキチン鎖を除去し、最後にタンパク質を分解します。

ユビキチン化

ユビキチン化はタンパク質修飾の一種です。ユビキチンリガーゼがユビキチンを基質タンパク質に付加することでポリユビキチン鎖を形成します。プロテアソームがこのユビキチン鎖を認識することでユビキチン化されたタンパク質を分解します。

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