シャープレス・香月不斉エポキシ化反応
Ti(OiPr)4-酒石酸ジエチル(DET)-t-ブチルパーオキシド系を用いることで、アリルアルコールの不斉エポキシ化を行う反応です。
生成するエポキシドの絶対配置は、DETの絶対配置にのみ依存します(右図参照)。これまでにプロキラルな基質において例外は知られていません。基質の立体をほとんど問題にしないうえ、官能基選択性も非常に高く、合成中盤でも使用できます。大量スケールでの実施も可能な、強力な手法です。
MS3Aまたは4Aを共存させることで、Ti(OiPr)4とDETを触媒量にまで減らすことが可能です。少量の水が触媒種を壊すため、それを除去する必要があると言われています。
二級アリルアルコールの速度論的光学分割を行うことも可能です。この場合、用いる配位子は、酒石酸ジイソプロピル(DIPT)が最も適しています。
Z体のアリルアルコールは反応性が低く、収率、不斉収率ともに十分でないことがしばしばあります。
生成したエポキシドは、系内に存在するアルコキシドにより開環をうけることがありますが、Ti(OiPr)4のかわりにTi(OtBu)4を用いることで改善されることがあります。
本法およびSharpless不斉ジヒドロキシル化反応の開発により、Scripps研究所のK.B.Sharplessは2001年ノーベル化学賞を受賞しています。
本記事はWEBに混在する化学情報をまとめ、それを整理、提供する化学ポータルサイト「Chem-Station」の協力のもと、ご提供しています。
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反応機構
類縁錯体の結晶構造解析および成績体の立体化学から、以下のような二核錯体が活性種であると考えられています。(参考:J.Am. Chem. Soc., 106, 6430 (1984). J. Am. Chem. Soc., 113, 106 (1991).)
反応例
確実に不斉の酸素原子を入れたいときに用いられます。アリルアルコール・ホモアリルアルコール以外のオレフィンは通常反応しません。1)
Ti-DET系では一般にホモアリルアルコールの不斉誘起は困難ですが、山本らによって開発されたバナジウム触媒系ではこの制限を克服すること成功しています。2)
実験手順
触媒条件の例3)
実験のコツ・テクニック
- TBHPは潜在的に爆発性があるため、大スケールの反応時は防爆板をたてる、フード付きドラフト内で行うなどの注意を払ってください。
参考文献
- Hatakeyama, S. et al. : J. Am. Chem. Soc., 110, 5201 (1988). DOI: 10.1021/ja00223a055
- Zhang, W. and Yamamoto, H. : J. Am. Chem. Soc., 129, 286 (2007). DOI: 10.1021/ja067495y
- Gao, Y., Klunder, J. M., Hanson, R. M., Masamune, H., Ko, S. Y. and Sharpless, K. B. : J. Am. Chem. Soc., 109, 5765 (1987). DOI: 10.1021/ja00253a032
基本文献
- Katsuki, T. and Sharpless, K. B. : J. Am. Chem. Soc., 102, 5974 (1980). DOI: 10.1021/ja00538a077
- Hanson,, R. M. and Sharpless, K. B. : J. Org. Chem., 51, 1922 (1986). DOI: 10.1021/jo00360a058
- Gao, Y., Klunder, J. M., Hanson, R. M., Masamune, H., Ko, S. Y. and Sharpless, K. B. : J. Am. Chem. Soc., 109, 5765 (1987). DOI: 10.1021/ja00253a032
Review
- Johnson, R. A. and Sharpless, K. B. : Comprehensive Organic Synthesis, 7, 389 (1991).
- Johnson, R. A. and Sharpless, K. B. : “Catalytic Asymmetric Synthesis“ Ojima, I. Ed., VCH Publishers, Weinheim, New York (1993).
- Katsuki, T. and Martin, V. S. : Org. React., 48, 1 (1996).
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