オレフィンメタセシス触媒
金属アルキリデン錯体触媒存在下、2種のオレフィンの結合の組み替えが起こり、新たなオレフィンが生成する反応です。原則として平衡反応なので、生成系に進行させるためには工夫が必要となります(発生するエチレンガスを追い出すなど)。
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歴史的経緯
1990年代に入りRobert H.Grubbsらが有効かつ実用性の高い触媒の開発に成功しました。これによりオレフィンメタセシスは有機合成化学において頻繁に用いられる反応の一つとなりました。
その後さまざまなグループによって触媒の改良が施されました。以下に示す触媒が汎用的なものとして知られています。
モリブデンを中心金属とする Schrock触媒は、活性が大変高い一方で、水、プロトン性化合物、空気に不安定であり取り扱いが難しいです。
Ru-ベンジリデン型Grubbs第一世代/第二世代触媒は、オレフィン以外の化合物との反応性は低く、官能基受容性や取り扱いの容易さにおいてきわめて優れた性質を備えています。ただしSchrock触媒よりも活性の面で劣り、四置換オレフィン合成などへの適用は難しいです。
一人名反応ではあるものの、各方面へ与えたインパクトは測り知れないものがあります。2005年ノーベル化学賞は本触媒系の開発に多大な貢献をしたY.Chauvin、R.H.GrubbsおよびR.R.Schrockに与えられました。
反応機構
いずれの触媒を用いても大まかには共通の機構で進行します(Chauvin Mechanism)。
反応例
1990年代以降に開発された触媒でここまで広く用いられるものは他に類を見ません。あらゆる研究領域での応用例が膨大に知られています。
精密有機合成、特に大環状化合物合成においては、RCMはマクロラクトン化と同様、ほぼ定石扱いとなりました。これにより、多くの逆合成解析は激変しました。マクロラクトン化にない特徴として、タンデム反応により複数の環を一挙に構築できることも手法の強力さの一つです。
メタセシス触媒は精密有機合成のみならず、ポリマー合成にも大きなインパクトを与えました。官能基受容性が高いため、これまでは合成困難であった多官能基性ポリマーも合成できます。また、サイクリックポリマーという全く新しいポリマーの合成法も開拓されています。
構造チューニングを施した高活性Hoveyda-Grubbs型触媒は、通常Schrock型でしか為しえなかった四置換オレフィン合成にも用いることができます。1)
ROMとジビニルシクロブタン転位(変形Cope転位)を組み合わせた二環性骨格の効率的合成
Gambierolの全合成
高活性な不斉RCM触媒2)
Z-選択的なオレフィンメタセシス反応3)
金属下半分を完全にブロックしてしまえるような嵩高いBINOL誘導体を用いることがポイントです。これにより通常は不利となる「オレフィンの置換基同士がcis位に位置する遷移状態」が有効になります。
ルテニウム触媒を用いたZ体選択的クロスメタセシス反応4)
Rh-3b触媒を用いると、これまで適用が困難もしくは不可能であったアルコールやカルボン酸などを有する基質に対しても、高選択的にZ体のオレフィンを得ることができます。
参考文献
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