Birch Reduction

バーチ還元

芳香族化合物は液体アンモニア/アルコールの混合溶媒中、アルカリ金属(Li, Na, K)もしくはアルカリ土類金属(Ca, Mg)で処理すると、1,4-シクロヘキサジエンに還元されます。一置換ベンゼンの場合、置換基が電子供与性(EDG)か求引性(EWG)かで得られる生成物が異なります。

α,β-不飽和カルボニル化合物、共役ジエン、アルキンなども還元対象になります。特にアルキンを基質として反応させると、E-オレフィンが選択的に得られます。ベンジル基・アリールスルホニル基の脱保護条件としても用いられます。

よりマイルドな還元条件としてLi/DBB(4,4′-di-t-bulylbiphenyl)、Na/naphthaleneなどが知られています。 アンモニアBirch条件よりも官能基受容性に優れます。

液体アンモニアの代わりに低級アルキルアミンを用いると、アミンがプロトン源となり、より高温で反応が行なえるため還元力も強くなります(Benkeser還元)。

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反応機構

生じるオレフィンの位置選択性は、アニオン性中間体が安定化されるかどうかで決まります。EDG置換基では、根元にアニオンが出る中間体が不安定化され、EWGの場合は安定化されます。 (参考:J. Am. Chem. Soc., 115, 2205 (1993), Acc. Chem. Res., 45, 164 (2012).)

アルコールを添加しておくことで、系中で生成する強塩基NH2による望まぬ異性化が抑えられます。

ベンゼンを還元する反応の相対速度は Li(360)>Na(2)>K(1)です。

アルキンをBirch還元すると、E-アルケンが選択的に得られます。Lindlar還元やジイミド還元ではZ-アルケンが得られるため、相補的に用いられます。還元的に生成されるジアニオン種は、電子的反発を避けるように生成します。このため、E-アルケンが選択的に生成してきます。t-BuOHを加えておくことで過剰還元などの副反応を抑制できます。

反応例

エノラートによるアルキル化反応

Birch還元中に生成する電子求引基で安定化された炭素アニオンは、さらにアルキルハライドやアルデヒドなどの求電子剤と反応して炭素-炭素結合を形成できます1)

硫酸アンモニウム共存下、末端アルキンのBirch還元

末端アルキンは脱プロトン化を受けるためBirch還元の適用外です(内部アルキンのみを選択的に還元することが可能)が、硫酸アンモニウム共存下に行えば還元することが可能です2)

実験手順

ピロール類のBirch還元3)

実験のコツ・テクニック

  • アンモニアの沸点は約-33℃なので、ジムロートではなく低温濃縮が行えるDewer冷却器を用います。
  • テフロン被覆の攪拌子はBirch条件で侵され、黒ずんでしまいます。ガラス製攪拌子を用いることを推奨します。
  • リチウムワイヤーは、付着する油分をあらかじめペンタンで洗い落とし、ハサミで小さく刻んで用います。
  • 活性種が生じていれば深青色の溶液になっているはずです。
  • イソプレンは一電子還元剤のクエンチ目的でしばしば用いられます。

 

参考文献

  1. Schultz, A. G. and Pettus, L. : J. Org. Chem., 62, 6855 (1997). DOI:10.1021/jo9707592
  2. Henne, A. L. and Greenlee, K. W. : J. Am. Chem. Soc., 65, 2020 (1943).
  3. Donohoe, T. J. and Thomas, R. E. : Nat. Protoc., 2, 1888 (2007). doi:10.1038/nprot.2007.245

基本文献

  • Birch, A. J. J. Chem. Soc. 1944, 430.
  • Birch, A. J. J. Chem. Soc.1945, 809.
  • Birch, A. J. J. Chem. Soc.1946, 593.
  • Birch, A. J. J. Chem. Soc.1947, 102, 1642.
  • Birch, A. J. J. Chem. Soc.1949, 2531.

 

Benkeser reduction

 

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