ヒトiPSC由来腸管上皮細胞 F-hiSIEC アプリケーションのご紹介③
1.F-hiSIECによるヒトノロウイルス培養プロトコル
F-hiSIECによる培養スケジュール

F-hiSIECによる培養方法

消毒剤による消毒効果の評価方法

2.F-hiSIECによるヒトノロウイルス培養結果
各種遺伝子型 ヒトノロウイルス(HuNoV)RNA コピー数の変化
ヒトノロウイルスには様々な遺伝子型が存在します。F-hiSIECへ各種遺伝子型のヒトノロウイルスを接種・培養した結果、培地中のHuNoV RNAコピー数は、感染 0 日後と比較して 5 日後に増加しました。

- 各遺伝子型の HuNoV を F-hiSIECに接種し、0.03% ブタ胆汁添加培地にて培養しました。ウイルス接種量(HuNoV RNA copies/well)は GI.2, 2.29×107 ; GII.2, 9.71×107 ; GII.3, 3.78×108 ; GII.4, 4.52×106 ; GII.6, 5.04×107 ; GII.17, 2.62×108 としました。
- グラフの値は平均値 ± 標準偏差を示しています (n=3)。
HuNoV RNA の増殖曲線
GII.6 及び GII.17 の HuNoV RNA 量を経時的に定量したところ、接種1日後までに顕著な増加が認められました。
- 各遺伝子型の HuNoVを F-hiSIECに接種し、500μM グリコケノデオキシコール酸(GCDCA) 添加培地にて培養、接種 0、1、3及び 5日後に培養上清を回収しました。
- グラフの値は平均値±標準偏差を示しています (n=3)。なお、GII.6 の接種 0 日後の値には定量下限値が含まれているため、標準偏差を算出しておりません。
培地添加物の影響評価
培地添加物なし(None)、0.03%ブタ胆汁添加(Bile)、胆汁酸のひとつであるグリコケノデオキシコール酸添加(GCDCA)の3条件で培養後、HuNoV RNA量を定量したところ培地中への GCDCA 添加により GI.2、GII.6、GII.17 の HuNoV RNA 量の更なる増加が認められました。

- グラフの値は平均値 ± 標準偏差を示しています (n=3, #; n=2)。
熱処理の影響
熱処理したヒトノロウイルスの接種では、HuNoV RNA 量は増加しませんでした。

- 10%HuNoV 陽性便検体溶液を85℃、5分間熱処理し、培地で希釈しました。熱処理した便検体または無処理の便検体をF-hiSIECに接種し、0.03% ブタ胆汁添加培地にて培養しました。
- グラフの値は平均値±標準偏差を示しています(n=3)。
Caco-2 細胞との比較
F-hiSIECではヒトノロウイルスの接種・培養によりHuNoV RNA量の増加が認められましたが、Caco-2細胞では変化がありませんでした。

- Cell culture insertで培養したF-hiSIEC及び Caco-2の管腔側に各遺伝子型のHuNoVを接種し、0.03%ブタ胆汁添加培地にて培養、管腔側の培養上清のHuNoV RNAコピー数を定量しました。
- グラフの値は平均値±標準偏差を示しています(n=3)
3.消毒活性評価
ヒトノロウイルスに対する消毒活性評価の現状
ヒトノロウイルスに対する消毒活性の評価は、一般的に代替ウイルスの使用、遺伝子の検出による消毒活性評価という2つの手法で行われてますが、それぞれに課題があります。
①代替ウイルスの使用
ヒトノロウイルスの類縁ウイルスであるマウスノロウイルスやネコカリシウイルスを代替ウイルスとして用いて評価しています。代替ウイルス間でも消毒剤に対する感受性が異なることが報告されており、消毒剤の消毒活性は代替ウイルスとヒトノロウイルスで異なる可能性が指摘されています。
②遺伝子の検出による消毒活性評価
ヒトノロウイルスに消毒剤を作用させた後、消毒剤で壊されなかったヒトノロウイルスの遺伝子を検出することにより、消毒活性を評価します。ウイルスの遺伝子を検出しているため、消毒剤でウイルス粒子が壊れていても遺伝子が残っていれば、検出されてしまいます。このため、消毒剤の効果を正確には評価できていないと考えられています。
F-hiSIECを用いた消毒活性評価
0.1% NaClO処理によりHuNoV RNA量の減少が認められましたが、70% エタノール処理によるRNA量の減少は認められませんでした。これより、NaClOはヒトノロウイルスに対して消毒効果があることを、F-hiSIECを用いて評価できる可能性が示唆されました。

- 10%HuNoV 陽性便検体溶液を3倍量の70% エタノール(EtOH)または 0.1% 次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)と混合し、室温で 5 分間反応させました。コントロールとして水を使用しました。反応後の便検体溶液を F-hiSIECに接種し、500 μM GCDCA 添加培地にて培養しました。接種5日後のHuNoV RNAコピー数についてDunnettの多重比較検定にて比較しました(*; p<0.05. N.S. ; not significance)。
- グラフの値は平均値±標準偏差を示しており(n=3)、破線は定量下限値を示しています。
4.ヒトノロウイルスの継代培養
GII.17はF-hiSIECを用いて、4回の継代が可能でした。

- 15日あるいは16日間前培養した F-hiSIECにHuNoV を接種し、 500 μM GCDCA を添加した basal mediumにて培養しました。接種1日後に培養上清を回収し、2ウェル分を1つにまとめ(n=1)、ウイルスRNAコピー数の定量及び次回の接種に供しました。
- 破線は定量下限値を示しています。
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薬物動態評価や毒性評価はこちら、腸管免疫評価のアプリケーションはこちらにて紹介しております。
参考: 日本薬学会第141年会 ポスター発表、第68回日本ウイルス学会学術集会 ポスター発表