DNA抽出/精製試薬・キット

生命科学分野の発展において分子生物学的手法は大きな役割を果たしており、DNA関連実験はその中心的な存在でした。DNA関連実験において、核酸の効率的な精製は実験の結果を左右する重要な要素の1つです。当社は動物や植物、細菌、土壌、食品といった種々のサンプル、およびアガロースゲルからの精製など、用途に適したDNA抽出・精製キットを提供しています。

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学術コンテンツ

DNA抽出・精製キットの基本操作と原理

DNA抽出・精製キット

DNAの抽出と精製は遺伝子工学や遺伝子解析の最初のステップであり、高純度なDNAをできるだけ高収量で得ることが、以降の実験の成功につながります。

現在では、様々な生物やサンプルに対応してDNA抽出・精製の手法も数多く存在しますが、基本的には以下の3つの工程によってDNAの抽出や精製が行なわれています。

1.細胞の溶解

DNA抽出・精製の最初のステップは細胞の溶解です。界面活性剤、変性剤、強アルカリなどの化学的処理や熱処理で細胞膜を溶解します。植物や細菌など細胞壁を持つものは細胞壁を酵素などで分解したり、ガラスビーズを用いて物理的に破壊する必要があります。

2.夾雑物の除去

細胞にはDNA以外にもタンパク質やRNAなどの様々な夾雑物が存在します。タンパク質は変性剤を用いて変性させたり、プロテイナーゼで分解します。RNAはRNA分解酵素(RNase)で分解します。またフェノール抽出もしくはフェノール/クロロホルム抽出でDNAと夾雑物(タンパク質など)を分離します。中性条件下でフェノールもしくはフェノール/クロロホルムを加えると、DNAは水層に移行するので、水層のみ分取することでDNAが分離できます。

なおニッポンジーンのISOSPINシリーズをはじめ市販のDNA抽出キットは、主にカオトロピックイオン(グアニジウムイオンなど)の存在下でDNAがシリカメンブレンに吸着する原理(Boom Technology)を採用しています。カオトロピックイオンを含む結合バッファーを加えた細胞の溶解液を、スピンカラムにセットしたシリカメンブレンに通すことで、DNAはシリカメンブレンに吸着し、それ以外の夾雑物は通過するため夾雑物を効率的に取り除くことができます。

3.エタノールによる洗浄と溶解・溶出

夾雑物を除いたDNA溶液に残っている塩やフェノールを除去する必要があります。DNA溶液にエタノールと塩(ナトリウム塩やアンモニウム塩など)を加え、遠心分離を行うとDNAは沈殿します。これは塩によってDNAの負電荷が中和され、エタノール下で親水性の高いDNAが凝集しやすくなるためで、遠心分離により容易に沈殿します(エタノール沈殿)。その後、エタノールを除去し、DNAの沈殿を水やTEバッファーに溶解させれば純度の高いDNAを得ることができます。

シリカメンブレンを用いた方法でも、エタノールを主成分とした洗浄バッファーを通過させることで塩などの除去が可能です。最後に水やTEバッファーをシリカメンブレンに加え、DNAがシリカメンブレンから離れると高純度のDNAを溶出することができます。

動物からのDNA抽出

動物細胞

動物からのDNA抽出は、タンパク質分解酵素Proteinase Kによりタンパク質を分解し、フェノールで変性してDNAを単離する方法が用いられています。キットを使用する場合は、細胞溶解後、DNAをカオトロピックイオン存在下でシリカに吸着させ、精製するものがよく用いられます。

動物細胞・組織からDNAを抽出する際、新鮮な試料、あるいは液体窒素により凍結し、-80℃で保存したものを用いることで、内在性のヌクレアーゼ活性を最小限に抑え、DNAの分解を防ぐことができます。細胞破砕後からDNAを単離するまでの過程において、DNAの分解を最小限に抑えることが重要です。

DNA抽出

当社では、細胞や組織からのDNA抽出キットISOGENOMEを取り扱っており、新鮮な組織からのゲノム回収率が70%以上、約30分でゲノム抽出が完了します。

また、昆虫、魚介類、全血、毛髪などに使用できる、幅広いDNA抽出キットを取り揃えています。

ISOSPIN Tissue DNA
動物組織、魚介類、昆虫からのDNA抽出キット

ISOSPIN Blood and Plasma DNA
全血、血清、血漿からの DNA 抽出キット(スピンカラム)

ISOHAIR EASY
毛根からのDNA抽出キット

ISOHAIR
毛髪・爪からのDNA抽出試薬

ISOHAIR Jr.
毛、爪、口腔粘膜を用いた教育実習用キット

植物からのDNA抽出

植物細胞

植物からのDNA抽出は、動物細胞などと比べて煩雑です。その理由は、試料調製のしにくさにあると考えられます。植物には細胞壁があり、極めて強固な構造体であるため、破壊が困難です。また、細胞破砕液にはフェノール類や多糖類が多く含まれています。これらが核酸に結合することにより、DNAの回収率や精製度に大きな影響を及ぼします。

そのため、植物からDNAを抽出する場合、細胞壁を物理的もしくは化学的に破壊し、多糖類等を除去する必要があります。

植物のDNA抽出方法としては、CTAB法が広く用いられています。まず、液体窒素で凍結した試料を破砕することで、物理的に細胞を破壊します。続いて、界面活性剤によりタンパク質や多糖類等を吸着させ、有機溶媒に集めることによって除去し、水層からDNAを単離します。その後、エタノール沈殿によりDNAを精製します。

植物培養

当社では、DNA抽出キットISOSPIN Plant DNAISOPLANTISOPLANT IIを取り扱っています。塩化ベンジルにより、細胞壁、細胞膜および核膜などを破壊し、界面活性剤で可溶化するため、グラインドする(すりつぶす)ことなくDNA を抽出できます。多数のサンプルを処理する際の時間短縮になります。

ISOPLANTおよび ISOPLANT IIは、酵母および細菌からのDNA抽出にも使用できます。

ISOSPIN Plant DNA

  • 植物の葉からDNAを抽出する試薬
  • 高粘性でDNA抽出困難なバラ科植物からも効率よくDNA抽出可能

ISOPLANT

  • 塩化ベンジルにより、細胞壁、細胞膜および核膜などを破壊し、界面活性剤で可溶化するため、グラインドする(すりつぶす)ことなくDNA を抽出可能
  • 多数のサンプルを処理する際の時間短縮

ISOPLANT II
多糖類、ポリフェノール類等の阻害物質を効率的に除去可能にした改良版ISOPLANT

土壌からのDNA抽出

採取した土壌

土壌中の細胞外DNAは、微生物間での遺伝情報交換や土壌微生物の多様性に重要な役割を果たします。

近年の遺伝子組み換え生物(GMOs)の利用増加に伴い、GMOsの安全性に注目が集まっています。GMOsの外来DNAは、微生物間だけでなく、作物-微生物間での形質転換、複製、置換を起こすことが報告されています。また、植物や微生物から放出されたDNAは、砂や粘土といった土壌粒子に吸着することにより、ヌクレアーゼへの反応性を変化させ、分解が起こりにくくなることが報告されています。

土壌からのDNA抽出

したがって、土壌中のDNAの存在状態や水平伝播の頻度を理解することは、GMOsが生態系に与える影響を評価する上で重要であり、また、土壌微生物の多様性を維持するメカニズムの解明に重要です 。

土壌には1g当たり最大100億個、数万種類の細菌が存在するとされています。しかし、その中の99%以上は培養が困難な微生物(VBNC:viable but nonculturable)であるため、土壌から直接DNAを検出する方法が用いられます。

当社では、土壌DNA抽出キットISOILシリーズ(ISOILISOIL for Beads BeatingISOIL Large for Beads ver.2) およびISOSPIN Soil DNAを取り扱っています。

DNA抽出が困難な火山灰土壌(黒ボク土)からの土壌DNAも効率よく抽出可能です。

食品からのDNA抽出

遺伝子組み換え食品(ダイズ)

国内で流通している遺伝子組み換え(GM)食品は、摂取する際の安全性の確保、また消費者の合理的な食品選択の機会を確保するため、食品衛生法に基づく安全性審査が義務付けられています。

現在、国内では農作物9種類(331品種)、添加物74品目の安全性が確認され、販売・流通が認められています(令和4年9月6日現在)。また、GM食品の品質表示基準により、GM食品については「遺伝子組み換え」と表示することが義務付けられています。この表示制度の実効性を確保するために科学的な検査法が必要であり、定性・定量解析が行われています。

遺伝子組み換え食品(コメ)

DNA抽出方法としては、CTAB法、シリカゲル膜タイプキット法、イオン交換樹脂タイプキットなどが挙げられます。CTAB法は、高純度なDNAを取得できる一方、フェノール、クロロホルムなどの毒性有機溶媒を使用すること、煩雑な作業および時間を費やすという欠点があります。これらの欠点から、近年、キットを用いたDNA抽出方法が広く用いられています。

シリカゲル膜タイプキット法は、カオトロピックイオン存在下で、DNAをシリカメンブレンに結合させ、 その他の夾雑物から分離する方法です。イオン交換樹脂タイプキット法は、陰イオン交換体にDNAを結合させ、その他の夾雑物から分離する方法です。これらのキット法は毒性有機溶媒を使用せず、短時間でDNAを抽出することができます。

当社では、シリカゲル膜タイプキット法を採用したDNA抽出キットを取り扱っています。抽出したDNA はPCR や制限酵素反応にそのまま使用可能です。

GM quicker
トウモロコシ、ダイズからDNAを抽出するキット

GM quicker 2
コメ、ナタネ、ジャガイモからDNAを抽出するキット

GM quicker 3
加工食品からDNAを抽出するキット

GM quicker 4
加工食品からの DNA 抽出キット(スピンカラム)

GM quicker 96
トウモロコシ種子粉砕物からの DNA 抽出キット

大腸菌からのプラスミドDNA抽出

大腸菌からのプラスミド抽出

大腸菌からプラスミドDNAを抽出する方法として、「アルカリ抽出法」が広く用いられています。DNA二本鎖は、アルカリ処理により一本鎖に解離します。ゲノムDNAのような巨大分子の場合、DNA鎖に切れ目が入りやすく、解離した相補鎖が離れた状態になります。一方プラスミドDNAは、分子量が小さく閉環状の構造のため、解離した相補鎖が離れずとどまります。そこで溶液に酸を加えることによりpHを中性に戻すと、ゲノムDNAは完全に再会合できませんが、プラスミドDNAは相補鎖が近傍にあることにより再会合します。解離したゲノムDNAは、菌体成分のタンパク質やSDSと凝集物を形成して除去され、プラスミドDNAは、溶液として回収されます。

大腸菌からのプラスミド抽出は、一般的に下記の流れで行われます。

  1. 大腸菌の回収
  2. 細胞溶解
  3. アルカリ-SDS変性
  4. 中和反応
  5. フェノール・クロロホルム抽出
  6. エタノール沈殿

当社では、スピンカラムを用いて簡単に高純度なプラスミドDNAを抽出できるキットISOSPIN Plasmidを取り扱っています。本キットを使用して得られたプラスミドDNAは、制限酵素反応、形質転換、シークエンスなどの分子生物学実験に使用できます。

アガロースゲルからのDNA抽出

アガロースゲルからのDNA抽出

アガロースゲルからのDNA抽出は、特定サイズのゲノムライブラリーの構築や、特定のDNA断片のクローニングや標識などの前工程として行われます。
当社では、スピンカラムを用いてアガロースゲルからDNA断片を抽出・精製するためのキットISOSPIN Agarose Gelを取り扱っています。得られたDNAは、制限酵素反応、シークエンス、クローニングなどの分子生物学実験に使用できます

DNA断片(PCR産物)の精製キット

DNA断片(PCR産物)の精製キット

目的のDNA断片をPCRで増幅した際、PCR産物の精製は必須です。PCR産物の精製を行うことにより、PCR反応液中に含まれる未反応ヌクレオチドやプライマーの除去や、脱塩などができます。
当社では、スピンカラムを用いてPCR反応液中のPCR産物を精製するためのキットISOSPIN PCR Productを取り扱っています。約20 分間という短い時間でPCR反応液からDNAポリメラーゼ、塩、プライマー、dNTPsなどを取り除き、PCR産物のみを回収できます。

DNA Extractor® Kit シリーズ

当社では、よう化ナトリウム法を採用したDNA抽出キットDNA Extractor® Kitシリーズを取り扱っています。生体由来の組織などからDNAを抽出するには、通常フェノール/クロロホルムを用いてDNAを沈殿させて回収する方法が広く使われています。しかし本キットは、劇物であるフェノール及びクロロホルムが不要です。
詳細な情報はsiyaku blog「DNAエキストラクター®キットを用いた残留DNAの定量検出」をご覧ください。

DNA Extractor® Kit シリーズ一覧

検体 製品名・特長
宿主細胞(ホストセル)由来の残留DNA
血清・生物製剤中ウイルスDNA
DNA Extractor®Kit
・安価
・微量DNAの抽出
全血(ヒト・ウシ・ウマ)・培養細胞・ 組織 DNA Extractor®WB Kit
・高分子DNAも抽出可能
血清・血漿中ゲノムDNA DNA Extractor®SP Kit
・血液由来の脂質を除去可能
酸化ストレスマーカー 8-OHdG DNA DNA Extractor®TIS Kit
・抽出工程中のDNAの酸化を抑制
体毛・爪・血痕・唾液斑(法医学的試料) DNA Extractor®FM Kit
・微量試料からのDNA抽出

参考文献

平尾一郎, 胡桃坂仁志 編:「目的別で選べる核酸実験の原理とプロトコール」 (羊土社) (2011).
Green, R. M. and Sambrook, J.:”Molecular Cloning A Laboratory Manual, 4th ed.”, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012).
Doyle, J.J. and J.L. Doyle:”Isolation of plant DNA from fresh tissue”. Focus(1990).
高山真策:「植物バイオテクノロジー」幸書房(2009).
村松正實, 山本雅 編:「改訂第4版 新 遺伝子工学ハンドブック」(羊土社)(2003).
Luiz FW Roesch:” Pyrosequencing enumerates and contrasts soil microbial diversity”, The ISME Journal(2007).
厚生労働省:「遺伝子組換え食品の安全性に関する審査」
厚生労働省:「安全性審査の手続を経た旨の公表がなされた遺伝子組換え食品及び添加物一覧」(2022).
中山広樹, 西方敬人:「バイオ実験イラストレイテッド②」(秀潤社)(1995).
高木昌宏:生物工学, 89, 554 (2011).