核酸電気泳動試薬

核酸電気泳動は、DNAが負の電荷を帯びている性質を利用し、アガロースゲルなどを用いて陽極側に移動させて分離する方法です。取得した核酸の収量の確認やサイズの解析、さらにはゲルの切り出しによる目的の核酸の取得において利用されています。当社は核酸電気泳動に使用するゲルや関連製品を取り揃えています。

学術コンテンツ

核酸電気泳動は負電荷を有する核酸をアガロースゲルやポリアクリルアミドゲルなどの担体中で移動させ、分子量(鎖長)によって分離する方法で、核酸断片の解析や精製に用いられます。

核酸電気泳動の原理

図1 核酸電気泳動の原理

核酸はりん酸基に由来する負電荷を有しているため、電場では-極から+極へ移動します。これをアガロースゲルやポリアクリルアミドゲルなどの担体内で行うと、鎖長の長い核酸断片は移動しづらく、短い核酸断片は移動しやすいため、分子量による移動度の違いが生じます。これにより核酸を分子量で分離することができます(図1)。

二本鎖DNA(環状プラスミドを除く)は基本直鎖状の構造を取るため、単純に分子量の違いが移動度に反映されますが、一本鎖のDNAやRNAは塩基配列によって高次構造をとり、移動度に影響を与える可能性があります。一本鎖のDNAやRNAを分子量で分離したい場合は、ゲルやローディングバッファーに尿素やホルムアミドなどの変性剤を加え、高次構造を形成させないようにする必要があります。逆に高次構造をとらせ、構造の違いで分離する実験もあります。

アガロースとポリアクリルアミドはどう使い分ける?

核酸電気泳動で主に使用される担体はアガロースかポリアクリルアミドです。それぞれの特長を下記にまとめました。

アガロース

アガロースは寒天の成分であり、高温で溶解したのち冷却すると網目構造をもったゲルとなります。核酸電気泳動に使用されるのはゲル化能を持たないアガロペクチンを除去し、精製したアガロースです。アガロースゲルはポリアクリルアミドゲルよりも大きな網目構造をとるため、比較的長い核酸断片(50bp~20kbp)の分離に使用されます。なおアガロースはすべりやすく、ポリアクリルアミドゲルのような垂直型のスラブ方式には適していません。そのため、ゲルを水平にしてバッファー内に沈めるサブマリン式で泳動することが一般的です。

ポリアクリルアミド

ポリアクリルアミドはアクリルアミドの重合体で、架橋剤としてビスアクリルアミドが使用されます。ゲルの網目構造はアガロースよりも細かく、短い核酸断片(5bp~500bp)の分離に適しています。泳動条件を最適化すれば、一塩基の違いも泳動度の違いとして検出することが可能です。

電気泳動に必要な試薬とは?

泳動バッファー

核酸電気泳動のバッファーで良く用いられるのはTAE(Tris-acetate-EDTA)バッファーもしくはTBE(Tris-borate-EDTA)バッファーです。TAEバッファーは長いDNA断片の分離能が高く、TBEバッファーは短いDNA断片の分離能が高いため、アガロース電気泳動ではTAEバッファー、ポリアクリルアミド電気泳動ではTBEバッファーが選択されます。

ローディングバッファー

ローディングバッファーはサンプルをゲル内のウェルに導入(ローディング)する際に、サンプルと混合するバッファーです。ローディングバッファーの役割として、① サンプルの比重を上げ、ウェルに導入しやすくする、② サンプルを着色し、ウェルに導入できているかどうかを視認する、③ 色素によって電気泳動の進行度を把握できるようにすることがあります。

ローディングバッファーの比重添加剤にはグリセロールやフィコール(Ficoll® PM400)が良く用いられます。フィコールはグリセロールに比べてシャープなバンドが得られ、バンドのスマイリングも起こりにくいと言われています。

色素にはブロモフェノールブルー(Bromophenol Blue/BPB)やキシレンシアノール(Xylene cyanol FF/XC)、オレンジG(Orange G)が使用されます。なおBPBを使用すると写真撮影時に色素の影が写ることがあります。実験にはあまり影響ありませんが、色素影が気になる場合はBPBを含まないローディングバッファーを使用する必要があります。

分子量マーカー

分子量マーカーは、分子量(鎖長)が既に分かっている核酸断片を含む溶液です。分子量マーカーとサンプルを別々のレーンで同時に電気泳動し、それぞれの泳動度を比較することで、サンプル中の核酸の長さを推測することができます。分子量マーカーはプラスミドを特定の制限酵素で断片化したり、決まった長さの断片をPCRにより増幅することでつくることができます。

核酸染色試薬

電気泳動したアガロースゲルやポリアクリルアミドゲル中の核酸を検出する場合、核酸に結合すると蛍光強度が増大する色素を用います。
核酸染色試薬についての詳細はこちらをご覧ください。

参考文献

  • 大藤道衛 編, 電気泳動なるほどQ&A, 羊土社, 2007
  • 平尾一郎 胡桃坂仁志 編, 目的別で選べる核酸実験の原理とプロトコール, 羊土社, 2011