ペプチダーゼ (細胞分散・剥離)

ディッシュやプレートなどの培養器材や細胞外基質に接着して増殖する細胞を継代するためには、細胞と培養器材/細胞外基質、あるいは細胞同士の接着を解離させる必要があります。接着はタンパク質とカルシウムイオンによるものであり、タンパク質を分解するトリプシンとカルシウムをキレートするEDTAの溶液がよく使用されます。その他、細胞によってはコラゲナーゼやディスパーゼなど他の酵素による処理が必要な場合もあります。

学術コンテンツ

代表的な細胞分散・剥離酵素の特長

接着細胞を継代培養するためには細胞の回収が必要となり、そのためには一度、細胞間や細胞と培養容器の間に存在する結合を切り、細胞を分散・剥離させる必要があります。

これらの結合は細胞のタンパク質と二価イオン(Ca2+やMg2+)によるものであるため、細胞剥離・分散には主にペプチダーゼ(プロテアーゼ)が使用されます。代表的な細胞分散・剥離酵素とその特長については以下の通りです。

トリプシン/EDTA

トリプシンはセリンプロテアーゼの一種で、リジンおよびアルギニンの隣を切断します。本来はタンパク質を分解する消化酵素として機能しており、膵臓から前駆体のトリプシノーゲンが分泌されたのち、十二指腸で活性化を受けトリプシンとなります。

最も良く使用される細胞分散・剥離試薬ですが、長時間の処理は細胞を傷つける原因となるため、処理時間は最小限に抑える必要があります。培地中にCa2+が入っていると酵素活性が阻害されるため、キレート剤であるEDTAとの混合液が良く使用されます。また血清成分もトリプシン活性を阻害するので、トリプシンを加える前にPBS(-)などで洗浄する必要があります。

ディスパーゼ

ディスパーゼはPaenibacillus sp.(旧名:Bacillus polymyxa)由来の中性金属プロテアーゼで、ペプチド鎖の中性、非極性アミノ酸のN末端側を切断します。特に基底膜を構成するIV型コラーゲンやフィブロネクチンをよく分解するため、上皮細胞の剥離などに利用されます。

トリプシンとは異なり、Ca2+や血清成分で酵素活性が低下しないため、血清入りの培地に添加して使用することができます。またトリプシンと比較して細胞障害が少なくより穏やかな細胞分散を示し、作用条件(酵素濃度、処理時間、温度、pH)が広範囲であることも特長です。酵素反応の停止は、EDTAの添加や反応液の希釈で行います。

コラゲナーゼ

コラーゲンは結合組織を構成する主要な細胞外基質(Extracellular Matrix/ECM)であり、細胞同士の接着に重要な役割を果たしています。コラゲナーゼは、コラーゲンをペプチド断片に切断するメタロプロテアーゼです。活性にはCa2+が必要であり、血清成分存在下でも活性は失われません。

当社では主に細菌であるClostridium histolyticumGrimontia hollisae由来のコラゲナーゼを取り扱っています。なおコラゲナーゼの粗製品はコラゲナーゼ以外の加水分解酵素も含むため、細胞分散作用が強いと言われています。

サーモリシン

サーモリシンはBacillus thermoproteolyticusが産生する中性金属プロテアーゼで、ロイシン、イソロイシン、バリン、フェニルアラニン、メチオニンなどの疎水性側鎖を持つアミノ酸のアミノ基側のペプチド結合を特異的に切断します。この基質特異性からタンパク質の一次構造解析などに使用されます。細胞分散・剥離に使用する場合はコラゲナーゼと併用されます。

参考文献

黒木登志夫, 許南浩, 千田和広 編:「分子生物学研究のための新 培養細胞実験法」 (羊土社) (1999)
黒木登志夫 許南浩 編:「培養細胞実験ハンドブック」 (羊土社) (2004)
田村隆明 編:「ライフサイエンス 試薬活用ハンドブック」 (羊土社) (2009)